「はぁ。」
仕事帰り。天はため息をついていた。
今日のバラエティ収録はとにかく雰囲気が悪かった。
いつもこの番組を担当しているADが夏バテになったため代理で新人ADが来たのだが幾分手際が悪い。もちろん新人だし慣れない現場だから周りでフォローしていくべきところではあるのだが、その日は大御所芸人の機嫌が悪かったらしい。新人ADが小さなミスをする度に大御所芸人が怒鳴りつけ、収録が止まることが何度もあった。
収録時の雰囲気の悪さに辟易したし、自分が新人ADをフォローしきれなかったことにも腹が立つ。きっと他のスタッフや出演者もそうだっただろう。
そんなことがあって気分も下がったまま帰路に着いていた。今日は姉鷺は楽の方についているため、天は1人で地下鉄に乗って帰ることになる。満員電車、嫌だなぁ。鬱々とした気持ちでテレビ局から駅に向かって地下道を歩いていた。
ふと顔を上げると、ある広告が目に入る。
『夏だ!カレーだ!』
三月がカレーを食べている広告だった。
眩い太陽の下、汗だくで目の前のカレーに夢中になってがっつく和泉三月。天は彼に釘付けになった。
意識せずとも天の口角が上がる。
そして天はすかさずスマホを取り出した。
「もしもし、龍?今日の晩御飯、まだリクエストきく?うん、うん、カレーがいいな。バー〇ントカレー。そう、和泉三月が出てるの。駅で広告見て食べたくなっちゃって。3人分材料ある?そっか、じゃあルーだけ買って帰るね。」
電話を切ったあと、天の気持ちは晴れていた。早く帰ってカレーを食べたいな。
アイドル・和泉三月。彼の仕事はまるで魔法のようだった。