エレベーターでレギュラーで出ているバラエティの打ち合わせが終わって、テレビ局の廊下を歩く。
エレベーターホールに差し掛かったところで、よく知った姿を見かけた。
「あ、天! 天も今日ここだったんだ?」
周りの人影を確認して、声をかける。
エレベーターの階数表示を眺めていた天は声に気づいて、ふわりと振り返った。
彼もまた周りを確認して、言葉を返す。
「偶然だね。お疲れさま、三月。ミニドラマの撮影が終わったところ。キミは?」
「今日は打ち合わせ。終わって帰るところだよ。」
ピンポンと電子音がホールに響いて、エレベーターの扉が開いた。
「帰りは車?」
天に続いて、オレもエレベーターに乗り込む。
「うん。マネージャーが迎えに来るって。」
階数ボタンの前に立つ天。オレはその隣に立った。
「そっか。」
天はそう言って駐車場のあるB1のボタンを押す。
扉が閉まります、とアナウンスが鳴り、そこは密室になる。
ふいに、指先が絡めとられる。
その指先と、頬が熱くなる。
天の指先の肌触りを確認していたら、もう片方の手が動くのに気が付くのが遅れた。
その手で顔を寄せられ、舌先を取られる。
「ん――、」
鼻から声が抜ける。
全身の血が舌先に集まるような感覚。
オレは目を閉じて、その蜜を味わう。
天の指先も、舌先もどんどん熱く、甘くなって、もっと、もっともっと欲しくなる。
もし今、誰か乗ってきたら……背筋がぞくりとして、そしてまた縋るように求めて。
欲しいままに頭がぼーっとして、溺れていく。
どれくらい時間が経っただろうか、一瞬か、永遠か。
再び電子音が響いて、我に返った。
地下1階です、のアナウンスと共に、舌も指も離す。小さな喪失感。
「お疲れ様。またラビチャする。」
扉が開いて、天はまだ熱のこもった声を残してそのまま外へと歩いて行った。
オレはエレベーターを出てその場に蹲り、しばらく顔の熱を冷ましていた。