「ナギっち! これやんね? めっちゃブワーって花火でるやつ!」
「Oh ドラゴンと書かれていますね。十氏は知っていますか?」
「知ってるよ! 地面に置いて見る花火なんだよ!」
「七瀬さん、煙に気を付けてくださいよ。」
「トウマさん、次これやりましょ! パチパチするやつ!」
「タコみたいに光るのか! 面白そうだな!」
今日はナギの希望で開催されたアイナナ寮花火大会。
市販の花火をたくさん買い込んで、寮の裏庭にロウソクを立てて。
せっかくだからと予定が合う他のグループのメンバーにも声をかけ、賑やかに開催されている。
「若い子は元気だねぇ。」
「はは、龍も混ざってるぞ。」
「壮五くん、今日は飲まないんだね。」
「今日は火器を使うので禁止令が出ていて……。」
次々に花火に火をつけて楽しむメンバーや、ベンチから彼らを眺めながらビールを口にするメンバー。
次は何をしようかな……と天が花火置き場に向かうと、三月がいた。
「おお、九条。」
「和泉三月、今日は甚兵衛なの?」
今夜、三月は紺の甚兵衛を身にまとっている。
「ナギが着たいって言いだしてな。オレと大和さんも一緒が良いって。」
よく見るとナギは黒の、大和は深緑の甚兵衛を着ている。
「六弥ナギらしいね。次はどの花火にするの?」
「うーん……。そうだ、一緒に線香花火やらない?」
三月は2本の線香花火を手に取って尋ねた。
「いいね。あっちの方でやろうか。」
天は笑ってみんなとは少し離れた場所を指した。
2人の指から降りる柄。その先で橙の小さな火の玉がパチパチと火花を散らす。
「いつも思うけど、線香花火っていつもオレンジ色だよな。他の花火は結構いろんな色あるのに。」
火花を眺めて三月が呟く。
「他の花火とは違う原理で色見が出るんだって。黒体輻射って言うらしくて。」
天が簡単に説明すると、三月は苦い顔をして笑った。
「あー、オレ絶対わかんないヤツだ。」
「ふふ。でも、綺麗だよね。キミのペンライトの色みたい。」
「そんなこと言われたら絶対落とせなくなるじゃんかー。」
眉間にしわを寄せて、寄り目で線香花火をじっと見つめる三月に天はくすりと笑みをこぼした。
「ふふ。ボク、キミに出会って初めて会場いっぱいのオレンジを見たんだけど。」
「TRIGGERじゃオレンジ振らないもんな。」
「そう。初めて見た時、すごく暖かいなって思ったんだ。」
「うん、オレもあの光好き。」
天のうっとりした表情に、三月もつられる。
「あの景色を見るたびに、担当カラーがオレンジだってことを誇りに思うんだ。」
線香花火の火花がだんだんと小さくなる。もうすぐ、火球が落ちてしまう。
あと少し、もう少しだけ。天と三月はじっと自分の線香花火を見つめていた。
2人の間の会話が途切れてしばらく。
「「あっ。」」
2つの火球が同地に柄から離れ、2人の声が重なった。
天と三月はお互いの顔を見やる。
「……ふっ、」
三月が小さく吹き出す。
「同時に落ちるなんてね。」
天もくすっと笑った。
「次、他の花火にしようか。」
「そうだね。」
2人は立ち上がり、また喧騒へと戻っていく。
「あっ、天にぃ、三月!環が打ち上げ花火やるって。」
「おー! 火傷に気を付けろよー。」
「がっくーん、超でっかいの打ち上げよー!」
「いいぜ! 今夜は祭りだ!」
「ふふ、楽、また祭りって言ってる。」
花火大会は続いていく。