収録を終えたら大雪が降っていた。
今日の天の仕事は雑誌の撮影。関東は雪の予測が難しいらしい。今日は積もらない予報だったのに、スタジオを出たらドカ雪だった。
スマホで電車の運行状況を確認する。遅延はしているものの、まだ動いているらしい。今のうちに最寄り駅まで帰ってしまおう。
そう考えて天は電車に乗り込む。車内は同じように仕事帰りのサラリーマンでごった返していた。天は身バレに注意しながら、混雑する車内で最寄り駅に着くのを待った。
いつもの2倍くらいの時間をかけて電車は最寄り駅へ着く。なんとか乗っている間の運転見合わせを免れたことに安堵した。いつ止まるかも分からないのろのろと歩くように進む満員電車で長時間過ごしたことで、どっと疲れた。
だがしかし、更にここから家まで雪道を歩いて帰らねばならない。積もる予報じゃなかったため、靴も普通の靴だ。滑らないように、こけないようにゆっくりと。気が遠くなりそうだ。その時、スマホにラビチャが入った。
『和泉三月:駅の改札のところで待ってる!』
天は首を傾げた。待ち合わせなんてしていないし、そもそも一緒に住んでいるのになぜ。
不思議に思いながら改札へ歩いて行くと、白銀を背景に鮮やかなオレンジ色が笑った。
「おかえり、天!」
三月はもこもこと防寒対策バッチリの格好をして来ていた。
「……どうしたの。」
天は目を皿のようにした。驚きと、あと、幸せ。
「雪靴持ってきた!」
三月はビニル加工のされた紙袋から天のスノーブーツを取り出す。
「天、今日普通の靴だっただろ。あと耳あてと、手袋も。」
次々と防寒具を取り出し、手際よく天に身に着けさせる三月。
「シチュー作ってあるよ。一緒に帰ろ!」
鼻を真っ赤にした三月は、歯を見せて笑った。
「うん。」
天はスノーブーツに履き替えて微笑む。
彼のその気遣いと笑顔が、何よりも温かかった。