Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    あまの

    らくがき
    pixiv: https://www.pixiv.net/users/7132538

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    あまの

    ☆quiet follow

    「うみなおしてやりなおし」佐助パパと宮子

    デリバリールーム終了後

    ##240
    #デリバリールーム
    deliveryRoom

    「近親相姦は究極の密室事件の始まりね。閉じている世界で恋して、愛して、産んで、育てて、死ぬなんて。館シリーズならぬ密室シリーズ(比喩)と大々的に銘打って刊行してみたらどう? パパ、ううん、秩父先生」
    「そんなもん鳴り物入りで刊行したらぼくの作家生命が終わる。残念ながら人でなし秩父先生の新作に近親相姦的な展開はないし、人も死なない。ちゃんと目の前のプロットを読んでくれ。ざっくり斜め読みにも程がある」
    「なんでもざっくり斜めに見ちゃう年頃なのよ、だって思春期だもん」
     と、思春期であり妊娠後期でもあるぼくの愛娘宮子は、てへっ! ぺろっ! みたいに舌こそ出さなかったものの、たっぷりの愛嬌でおきゃんに言った。
    「おきゃんって。パパは絶対平成生まれのキャラクターの一人称で小説を書かないほうがいいよ。これは若年層の読者代表として忠告しておくね」
     痛い痛い痛い。娘がざっくり見ながらざっくり切ってくる。容赦がない。
    「……ご忠告ありがとう。ぼくは秩父佐助というペルソナを使って三人称に見せかけた一人称を書くようにしてるから心配は無用だよ」
     返事がなかった。見れば宮子の視線は手元のパソコンに再び集中している。そこには宮子のアドバイスをもとに作った小説のプロット――簡単に言えば物語の設定とか構成メモである――が表示されている。
    「パパ」
    「うん?」
    「長いよ」
    「長い?」
     とな。川上稔先生より?
    「うん、長い。小説ならともかく、プロットの段階でこんなに長いのってどうなの? 今をときめく作家先生なら、長文に慣れ親しんでいない今時の子にもわかりやすく100字以内で簡潔に完結させて」
    「文字数制限がツイッターより短い」
    「パパならできるでしょ。だってパパは秩父佐助先生なんだから。わたしの父親で、わたしの初恋のひとで、作家大先生なんだから。パパ大先生なんだから」
    「きみが親になったときに味わう絶望がいくつかある。その一つを教えてあげよう。それは、親もただの人だということだ」
    「大丈夫。わたしはそこまでパパを人間として素晴らしい人だと思っていないわ。さて、そろそろ近親相姦の話に戻っていい?」
    「やめなさい」
    「じゃあ追加でこの五種のチーズピザを頼んでいい?」
     ぼくがはいまたはイエスと言う前に愛娘、宮子はアタック25の司会者も驚きのすばやさでテーブルのボタンを押した。はい宮子さん早かった、まったく鮮やかなタッチである。児玉さんも草葉の陰で驚きひっくり返っていることであろう。(僕の世代ではあの番組司会者と言えば間違いなく彼である)
    「しかしお前、ハンバーガー、フライドポテトってさっきから高カロリーのものばかり頼んでるじゃないか。それも妊娠のせいだから仕方ないと言うけれど、ほどほどにしておきなさい。妊娠高血圧症候群……だっけ、とにかく、危ないんじゃないか? 今からでも和食メインの生活に……」
    「わしょく?」
     ここぞとばかりにあどけない顔をする宮子。宮子ちゃん。もうすぐ母親どころかまだまだ子供のそれである。かわいいな宮子ちゃん。
    「ジャンクフード万歳よ。わたしは敗戦と同時に欧米に魂を売ったの」
     かわいくねえな宮子。愛娘の発言がまるでポリティカルコレクトネスに配慮していなかった。校閲の段階で確実に赤を入れられる……いやはや親の顔が見たいものである……どこのどいつだそう僕だ。
     というか平成生まれがさも体験したかのように戦時を語るな。
    「パパ? わたしが選挙権を得るまであと三年だよ」
    「だからなんだ」
    「だからまあ、そういうことよ」
    「どういうことだ」
     いきなり方々に配慮して曖昧に濁す宮子だった。日和るくらいなら最初から言うんじゃない。
    「ところで名字や名前を平仮名にするのは、いくらなんでも有権者を馬鹿にしてると思わない?」
    「黙りなさい宮子」
     斜めに見過ぎである。今日一番父親然とした声を作ると、思いのほか宮子は素直に唇を閉じた。よしよし。うん。まあ、なんだ。……小説の話は、もういいか。そんなことより。
    「宮子」
    「ん」
    「体調のほうはどうなんだ」
    「ぜんぜん平気。ただ最近、毎晩腓返りがひどいかなあ。ねえ、こむらってにくづきに非って書くんだね。月に非ず。何、じゃあわたしのこれは太陽ってこと?」
    「……月と対義関係のものが太陽だとは限らない」
    「うん、そうね。そう。そういうパパの視点大好きー。さすがだね、かっこいい。パパのかっこいいところを見ると、全部許しちゃうよ」
    「宮子……」
    「パパがわたしを犯した罪を許しちゃうよ」
    「わたし『に』犯した罪。格助詞を『を』にするんじゃない。パパは鬼子母神に誓ってお前に何の罪も犯していない。罪を犯したどこぞの馬の骨は別にいる。密室事件は絶対に成り立たない」
     そこで宮子は何かを思い出したように、はっと目を見開いた。「鬼子母神」つぶやいて、それから視線を下にやって、膨らんだ腹をさする。
    「そうだった。わたし、パパがその小説に着手する前に、鬼……ううん、ママに聞きたいことがあるんだった」
     鬼子母神と聞いて連想するのが実の母親とは……そしてどこぞの馬の骨の話題を上手くそらされた気がするが……。
     宮子は、腹を撫でながら続けた。
    「『わたしじゃだめだったの? ママ』って」
     と。
     ぼくはその言葉に虚を突かれた。どきりとして、ひやりとした。なぜか。それは、それが、折々ぼくに去来する感情にひどく似ていたからである。

     ――ぼくじゃだめだったのか? 澪藻。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    あまの

    DOODLE「×××の影おくり」伏黒親子

    ママが死んだあとの父子黒親子。何もかもねつ造。恵2さいくらい。
    西陽を受けて出来た影が、誰よりも先に玄関の扉に立った。
     甚爾は扉に近づかない。扉の手前で、立ち尽くしている。その胸にとある期待が膨らんでいる。この向こうに、いるかもしれない。
     近くでカラスが鳴いている。遠くで竿竹屋が宣っている。子があるからよ、の部分をカラスの勝手でしょ、とした替え歌があるだとか、どうして竿竹屋は潰れないのかという明日には忘れてしまう雑学だとか、そんな毒にも薬にもならない下らない平凡な話を、笑ってできる相手が、この向こうに、まだ。
    「おうち!」
     高い声に、甚爾ははっとする。腕の中で眠っていた息子が、恵が、目を覚ましたのだった。
     小さな体は魚のように暴れた。甚爾は舌打ちを一つしてから、仕方なく恵を下ろしてやった。
     一歩、二歩、恵はよたよたと覚束ない足の運びで扉へ近づく。歩を進めるたびに、頼りないひよこの鳴き声がする。この子を見失わないように、と恵の母が選んだ靴だった。
     甚爾の影に、恵が混ざった。
    「だいまー」
     と、もみじのような手のひら二つが扉を叩く。
    「だいまー! だいまー!」
     ちっ。それはさっきよりも大分大きい舌打ちだった。この子が真似しちゃうから、や 1215

    あまの

    DOODLE「うみなおしてやりなおし」佐助パパと宮子

    デリバリールーム終了後
    「近親相姦は究極の密室事件の始まりね。閉じている世界で恋して、愛して、産んで、育てて、死ぬなんて。館シリーズならぬ密室シリーズ(比喩)と大々的に銘打って刊行してみたらどう? パパ、ううん、秩父先生」
    「そんなもん鳴り物入りで刊行したらぼくの作家生命が終わる。残念ながら人でなし秩父先生の新作に近親相姦的な展開はないし、人も死なない。ちゃんと目の前のプロットを読んでくれ。ざっくり斜め読みにも程がある」
    「なんでもざっくり斜めに見ちゃう年頃なのよ、だって思春期だもん」
     と、思春期であり妊娠後期でもあるぼくの愛娘宮子は、てへっ! ぺろっ! みたいに舌こそ出さなかったものの、たっぷりの愛嬌でおきゃんに言った。
    「おきゃんって。パパは絶対平成生まれのキャラクターの一人称で小説を書かないほうがいいよ。これは若年層の読者代表として忠告しておくね」
     痛い痛い痛い。娘がざっくり見ながらざっくり切ってくる。容赦がない。
    「……ご忠告ありがとう。ぼくは秩父佐助というペルソナを使って三人称に見せかけた一人称を書くようにしてるから心配は無用だよ」
     返事がなかった。見れば宮子の視線は手元のパソコンに再び集中し 2269

    related works

    あまの

    DOODLE「うみなおしてやりなおし」佐助パパと宮子

    デリバリールーム終了後
    「近親相姦は究極の密室事件の始まりね。閉じている世界で恋して、愛して、産んで、育てて、死ぬなんて。館シリーズならぬ密室シリーズ(比喩)と大々的に銘打って刊行してみたらどう? パパ、ううん、秩父先生」
    「そんなもん鳴り物入りで刊行したらぼくの作家生命が終わる。残念ながら人でなし秩父先生の新作に近親相姦的な展開はないし、人も死なない。ちゃんと目の前のプロットを読んでくれ。ざっくり斜め読みにも程がある」
    「なんでもざっくり斜めに見ちゃう年頃なのよ、だって思春期だもん」
     と、思春期であり妊娠後期でもあるぼくの愛娘宮子は、てへっ! ぺろっ! みたいに舌こそ出さなかったものの、たっぷりの愛嬌でおきゃんに言った。
    「おきゃんって。パパは絶対平成生まれのキャラクターの一人称で小説を書かないほうがいいよ。これは若年層の読者代表として忠告しておくね」
     痛い痛い痛い。娘がざっくり見ながらざっくり切ってくる。容赦がない。
    「……ご忠告ありがとう。ぼくは秩父佐助というペルソナを使って三人称に見せかけた一人称を書くようにしてるから心配は無用だよ」
     返事がなかった。見れば宮子の視線は手元のパソコンに再び集中し 2269

    recommended works