注意事項
※セクピスパロですが基本男女カプしか存在しません。でもネタだったり背景に同性カプがあるよ~ぐらいの描写はあります。
※作者はセクピスパロでしかセクピス知りません。セクピスの用語とか設定を誤解してる場合があります。
※セクピスパロですが人口比・重種その他・斑類の種類は原作通りではありません。また一部の設定とかについても変えちゃってる所あります。すみません。セクピス原作が大好きで設定変わるのが嫌! という方はバックしてください。
この世界で暮らして三年。時折、違和感を感じる事はあった。
私を見て何かを言う生徒たちや先生たち。けれどその言葉を、私は理解出来ない。聞こえない。でもその違和感は長く続いた訳ではなかったから、私もさほど気にしないで来た。
監督生ちゃんという仲間兼友人が出来てもそれは変わらず。そう言えば、監督生ちゃんも私と同じような事を言っていて、もしかしたらこっちの世界と元の世界の差かもねえなんて適当な事を言っていた。
特に不便はなかったのだ。そのまま、分からないままでも良かった事だったのだと思う。
けれど唐突に、突然に、強制的に。
私と監督生ちゃんは、ここが”異世界”であることを強く強く意識する事となってしまった。
原因:足を滑らせた監督生ちゃんを助けようとして私(とグリムくん)も一緒に階段から落下して頭を打った。
結果:周囲から人間が消えた。
「なんでなんでなんでぇ!?」
「こわいこわいこわい!!!」
二人で叫んで、私たちは逃げ出した。さっきまで周囲に生徒たちがいたのは認識している。昼休みの事件だった。咄嗟に監督生ちゃんに手を伸ばしたのが近かった私だっただけで、そう遠くない所にハートくんもスペードくんもトレイくんもケイトくんもいた。なのに彼らは突然揃って消えて、見えるのは動物だらけ。犬とか猫とかクマとかワニとかヘビとか。時折鳥もいる。訳が分からない。ナイトレイブンカレッジは一体いつからびっくり動物園になったんですかぁ!?
グリムくんだけはグリムくんのままだったけれど、彼は階段に落ちた私たちを見上げた瞬間「くっせーーーんだぞ!」と叫んで走り去ってしまった。その直後に近寄って来た動物たちが「監督生」「カイリ」とか私たちの名を呼んだものだから、動転して私たちは逃げ出した訳だ。
走る走る走る。でも途中でなぜか興奮した様子の動物たちが捕まえようと手を伸ばしてきて、普通にホラーで。私のユニーク魔法を使って何度か逃走を図ったものの、そもそも私のユニーク魔法は「直近二十四時間の間にいた場所にいける」ものなので、殆どが学校中。つまり飛んだ先にも他の動物がいる。
ギャーー! だの、キャーー! だの悲鳴を上げたり(上げられたり)しながら逃げ回る私たちだったが、ついに力尽きて――というか普通に逃げ場のない所に追い込まれてしまった。
振り返ればライオンとかいる。ライオンとかクマとか何あれハイエナ? オオカミ? キリンとかサルとかもいなかった? ただの動物の枠超えてきてガチの動物園じゃん。震えながら、監督生ちゃんと抱き合う。
皆がどこに行ったの。なんで突然人間消えたの。なんで動物園になっちゃったの。言いたいことは沢山あるけど頭は痛いし魔法使い過ぎてクラクラしてきたし、もうやだ、怖い、とじわりと涙が滲んだ時、聞きなれた声が近寄ってくる動物たちを蹴散らした。
「BadBoys!!!」
バシンとどこからか、魔法で作られたムチが飛んでくる。実物のムチじゃなくて、魔法で一時的に作られたもので、一発放ったら消えてしまう。その代わり、遠い所でも狙った場所にムチを打てる。そんな、クルーウェル先生のユニーク魔法(笑)とか普段からかわれている魔法が、動物たちを叩き、私たちとの間に距離が開く。
「せ、せんせっ」
縋るような声を向けた先から歩いて来たのは、一頭の――ダルメシアン。???? 先生どこ? 先生いないじゃん。
あまりに優雅に歩いてくるものだから目が点にはなったけれど、恐怖とか逃げるとかそこまで頭が回らなかった。たぶん、よく見慣れた動物だったってのもあると思うけど。
私たちのすぐ傍まで寄って来たダルメシアンが、スンと鼻を鳴らす。ぱちり。瞬いた次の瞬間、抱き合っている私たちの目の前にクルーウェル先生が現れた。
「――え?」
今さっきまでダルメシアンが居た所に、クルーウェル先生がいる。
「……え?」
パチパチと瞬く。
クルーウェル先生だけじゃない。さっきまでライオンがいた所にはレオナ先輩がいる。クマがいた所にはトレイくん。ハイエナ? の所にはラギーくんがいたし、オオカミはジャックくんになった。他にも、ひいひい悲鳴を上げていた動物たちが誰もこれもどれも、人間になっている。
……これ、は。
冷静になっていく思考の中、もしかして、と言葉が回る。これは、まさか、もしかして? いやいやそんな事あるのか。いやでも。形にならない言葉が増えて増えて。
「……せんぱい」
たぶん、私と同じように混乱している監督生ちゃんの小さな声を聞きながら思った。これは、もしや。
あの動物たちの正体――私らの学友か?
イグニハイド三年のカイリ・ハナとオンボロ寮の監督生が”先祖返り”したという一報は、一夜を待たずにナイトレイブンカレッジないに駆け巡った。同時に絶対に外に漏らすな、漏らしたら社会的と精神的に殺されると通達されたお蔭で、世にも珍しい先祖返りの存在は、ナイトレイブンカレッジ内にのみ留められる事となった。
この世には二種類の人類がいる。人魚とか獣人とか妖精とかの枠組みは一旦横においておいて。人間だけの話とまず過程して説明するが、――この世界には二種類の人類が存在する。
一つは猿人と呼ばれる人々。総人口の三割を締める彼らは、猿から魂が進化したと言われる。(※なお獣人の猿を除き、完全に猿の特徴である耳や尻尾が退化しきっているものを指す)
そしてもう一つは斑類と呼ばれる、ざっくり言うと猿以外の動物から魂が進化したと言われる人々。こちらは総人口の七割を締めるものの、内訳がかなり細かいので個々の数は猿人にはいまいち及ばない。
猿人の特徴として、斑類の情報を理解出来ないという点がある。繁殖力は高いが、猿人のほぼ九割九分が魔力を持たないため、魔法士という職業が存在しているようなこの世界では中心に立つことは殆どかなわない。
斑類は種族の半分以上が魔力を持ち、有名な魔法士のほぼ全てを輩出している。階級社会が存在していたりしている所も特徴の一つだが、猿人と対照的に繁殖能力はそこまで高くないと言われている。現時点では問題視されていないものの、未来においては少子化が起きるのではと懸念する声もある。それらをカバーするために、二百年ほど前に同性同士でも子供が作れる魔法技術等が開発された。その技術開発のお蔭もあったが、現時点では極端に斑類が減少している国や地域はない。
ちなみに人魚、獣人、妖精といった種族は肉体的に魂元の要素を強く残したまま進化した種族、と言われる。厳密に人間内で斑類と猿人の比率を図ると、割といい勝負になってしまうが、その他の人種を混ぜることによって七対三という比率が保たれている……とも言える。
――さて。
ここまで語った通り、斑類というのはこの世界の大半を占めている。そして、魔法士というのは理論上や歴史上ゼロではないものの、基本、斑類だけだった。それはつまりどういう事になるかと言えば、魔法士養成学校であるナイトレイブンカレッジには猿人の生徒というのは存在しない。――基本。
三年前入学してきたカイリ・ハナは、猿人であった。
そのためにドチャクソ目立っていたのだが、斑類関連の会話を猿人のカイリは理解出来ないため、自分が目立っている事をカイリはさほど認識しなかった。
猿人である事から彼女(当時は彼と思われていたが)を見下す者もいた。実際、学力という面では明らかに劣る彼女を見下す者も多かったのは事実。サバナクローの最重種であるレオナが比較的早い段階で庇護下に入れるような行動を取らなければ、もっと直接的な嫌がらせもあっただろう。
しかし次第にそうした庇護など関係なく、周囲は彼女を認めていくしかなかった。
一番の理由は飛行術。
空を飛ぶ事に関して、他の斑類の上を行く翼主や獣人たちに並んで、時には彼らすらしのいで見せる飛行の姿。階級主義だけでなく実力主義の強い獣人や人魚、妖精たちが彼女の才能を認めるのは早く、他の人間たちも次第に認めていくに至った。
そして三年後。
オンボロ寮の監督生として異世界からやってきた少女ユウは、猿人だった。
異世界の猿人がたまたま来てしまったのか。それとも異世界には猿人しかいないのか。その辺りは定かではないけれど、猿が本来いない空間に、猿が二匹いるという状態でいた。……今までは。
「あっ!?」
「あぶねーんだぞ子分!」
「危ないッ!」
階段から落下する監督生。
助けようと飛び出すグリムと、カイリ。
力及ばず、またカイリも咄嗟に魔法が使えなかったようで、二人と一匹が大きな音を立てて転がり落ちるのを一番近くで見たのは異世界人二人と仲の良いハーツラビュルの一年二人と三年二人だった。慌てて二人の元に行こうとして階段を数段駆け下りた直後――ぶわりと叩きつけられるように階段に蔓延した匂いに犬神人のデュースは昏倒し、エースもほぼ気絶し、ケイトとトレイはほぼ気合で持ちこたえた。気絶したのは何も一年二人だけでなく、周囲にいた生徒のうち中間種と軽種はひっくり返って気絶したり意識は失わなくても気絶一歩手前になったりしていた。なんとか持っていたのは半重種以上である。
「こ、れ」
「っ、カイリ!」
トレイが叫んだ視線の先には、一匹の子猫と、一匹の仔犬が驚いて身を寄せあっていた。その間に挟まれていたグリムが「くっせーーーんだぞ!」と叫んで逃げ出すのを視認し、あの猫と犬がカイリと監督生であると三年二人は理解する。どちらがどちら、までは分からなかったが、とにかくとんでもない事になったという事だけはその場に満ちた高濃度のフェロモンから察せられた。
「カイリ、こっちに」
「――キ」
「き?」
「キャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
お前、そんな声出せたんか。
カイリと監督生からほぼ同時に放たれた甲高い悲鳴に呆気にとられて固まるトレイたちの目の前で、猫と犬は走って逃げ出した。
「いや待って! マジで待って!!!!!!!!!!!!!!」
「待つんだカイリ!!! そのまま逃げるな!!!!!!!!」
二人の絶叫は届かず、猫と犬が逃げていった先々で突然高濃度フェロモンで殴られたNRC生たちの悲鳴と絶叫が響き渡った。
魂元そのまま――つまり素っ裸で走り回っている女子二人を捕まえろとトレイとケイトは走り回ったし(フェロモンのせいで自分の魂元が無理矢理表に出されるという事件に見舞われながらも追いかけたことは褒められてしかるべきだと正直二人は思った)、道中騒ぎを聞きつけて集まって来た重種たちに呼びかけてカイリと監督生を捕まえられるように人手も集めた。お蔭で早い段階でとんでもないフェロモンで周囲をタコ殴りにしながら走っている犬と猫がカイリと監督生だということは周知出来たし、被害は抑えられた。
なんとか追い込んだ所で、騒ぎを聞きつけて駆け付けたクルーウェル先生に遮られ、彼が女子二人にブラインドをかけたことで、その場は一旦落ち着きを取り戻した。
極めて理性的に行動していたと思っていたが、実際は理性なんてなかったのだとトレイとケイトはフェロモンが抑えられた事で気が付いた。廊下の奥に追い詰められて、カイリと監督生は震えながら抱き合っていた。一歩間違えれば理性を失い、可愛がっている後輩か大事な友人に襲い掛かっていた可能性もあったのだ。性に奔放で階級社会のある斑類とはいえ、最低限の道徳ぐらいはある。
ここでざっくり設定。モブ混じってます。
本来の斑類の種類(人魚、熊樫、猫又、蛟、蛇の目、犬神人、翼主、翼手)以外に複数の種類が存在してる事になってます。主に獣人のために。固有名はその場でパッと考えたので深い意味は全くないです。
~ハーツラビュル~
▼トレイ
熊樫/。
▼ケイト
猫又/半重種。
▼デュース
犬神人/中間種。
▼エース
猫又/中間種。
▼リドル
猫又/重種。
~サバナクロー~
▼レオナ
猫又/重種ライオン。
▼ラギー
猫又/中間種ブチハイエナ。
※ハイエナはハイエナ科ですが、ネコ亜目だったので猫又扱いにしました。
▼ジャック
犬神人/重種オオカミ。
▼ウノ
馬蹄/重種シマウマ。
▼イキ
猿主/中間種。
▼サラーサ
馬蹄/重種キリン。
~オクタヴィネル~
▼アズール
人魚/半重種タコ。
この世界の斑類の人魚=種族としての人魚なのでレアリティはてっぺんではない。
▼ジェイド&フロイド
人魚/重種ウツボ。
この世界の以下略。
~スカラビア~
▼カリム
翼主/重種。
▼ジャミル
蛇の目/半重種。
~ポムフィオーレ~
▼ヴィル
蛇の目/重種。
▼ルーク
翼主/半重種。
▼エペル
熊樫/中間種。
~イグニハイド~
▼イデア
蛇の目/重種。
▼オルト
--/--。
~ディアソムニア~
▼マレウス
竜種/重種ドラゴン。
▼リリア
翼手/半重種コウモリ。
▼シルバー
犬神人/中間種。
▼セベク
蛟/半重種。
ふらりふらりと、尾が揺れる。上機嫌に見えるその尾の動きにトレインはそっと目じりを下げる。
愛猫と教え子が並んでいる、愛らしい光景だった。
ただ、その愛らしさの原因である揺れている尾が、同時にトレインの最近の悩みの原因でもあった。
猫又の軽種の斑類として教え子の一人が先祖返りを果たして数日。同じ猫又であるという理由から、教え子はトレインに預けられていた。ちなみに同時に先祖返りしたもう一人の教え子の魂元は犬神人であったため、担任でもある犬神人のクルーウェルに任せられている。
所かまわず放ってしまっていたフェロモンは比較的抑えられている。が、変魂に関しての進捗はよろしくない。本人は自分が動物の姿を取っている自覚がないようで、現在は耳と尾だけになんとか抑えられているものの完全な人型にはなれずにいた。もう一人の教え子――監督生の方は、まる一日は無理でも数時間ならすでに完全な人型になれるという。
トレインとしてはカイリが中々人型を保てない事を教え子のせいになどはしたくはない。とはいえ自分のせいにされるのも業腹だが。
そもそも、幼い赤ん坊の頃から時間をかけて人型を保つことを覚えるのが一般的だという所を、出来る限り早く覚えろというのが中々に無理のある指示なのだとも思ってしまう。実際そうだ。だが、長々と時間をかけていられないのも事実だった。こうしている間にも授業は進んでいる。カイリの普段の学力からいって、少しでも早く復帰させなければ本人も地獄を見ることは明らか。
トレイン自身、仕事が休みになっている訳ではない。なので苦肉の策として日中はルチウスに頼んでいる。ルチウスは変魂について教える事は出来ないが、カイリがしっかりと変魂が出来ているかを判別することは出来るからだ。
そうして日中はルチウスに進捗具合を監視してもらいながら、昼休みと放課後は真っ直ぐに割り当てられた部屋へと帰る。ここ数日の間に色濃く教職員棟に染みついた二匹の先祖返りのフェロモンの匂いに、鼻の良い者たちはくらくらしていたし、一部の若手がそっとトイレに飛び込んでいるのも知っていた。トレインとて、年齢だとか社会的立場だとかをさておき一人の男としてあれほど濃厚なフェロモンを当てられては気を引き締めていないと呑まれかねないと思う。猫又よりさらに鼻の良い犬神人のクルーウェルがまっとうにカイリと監督生に対応出来ているのは流石というべきだろう。
「ハナ」
教職員棟に入り、割り当てられている自室に戻ったトレインは未だ振り向かない一人と一匹に声をかける。ルチウスの耳と、カイリの頭上に生えた耳が、そろって玄関を向いた。一泊置いて、同じタイミングで一人と一匹が振り返る。
「トレイン先生!」
「なぁ~ご」
トレインは咄嗟に口元を手で覆う事で沸き上がってきた感情を抑えた。
あくまでも彼の名誉のために言っておくが、トレインには別に稚児趣味とかはない。全くない。これっぽっちもない。だが、それとは別として、愛らしいものは愛らしいと認識するし、