長い黒髪が美しい少女はため息をつく。
目の前で言い争っている、黄色いバンダナの少年と桃色の髪の少女が原因だ。
「だからおめーはよ!!」
「なによ!お前って言わないでよ!!」
三人で旅を始めて、かれこれ半年くらいだろうか。
三人は、この世界を守るために行方不明になってしまった勇者を求めて、旅を続けている。
この三人は、黒髪の少女はバンダナの少年を慕い、バンダナの少年は桃色の髪の少女を慕い、桃色の髪の少女は自分の気持ちに整理をつけられていない。
俗に言う、三角関係というやつである。
そして、バンダナの少年と桃色の髪の少女は頻繁に言い争いをして、黒髪の少女を困らせるのである。
「ポップさん、マァムさん、今度はどうしたんですか?」
「ちょっと聞いてよ、メルル!!」
言外に面倒臭さを漂わせつつも、根は人のいい少女は、仲裁をせねばなるまいと事情聴取をはじめる。
ふたりの諍いは、ある日は左右どちらの道を選ぶか、ある日は今日の夕食に何を食べるか、どっちが先に街に足を踏み入れるか……などなど日常の瑣末な事柄で溢れている。
しかも自分が優先されるべきだと主張するのではなく、双方が共に相手を優先し、その結果意見が対立して諍いに発展するのであるから、タチが悪い。
いつものようにふたりが言い合いをしていたのだが
「おめぇなぁ!」
「お前って言わないで!ちゃんとマァムって呼んで!!」
いつもと雲行きが違うようだ。
「なんでメルルはちゃんと名前で呼ぶのに、わたしはいつもお前なのよ!?」
「え……あ……………ま…………」
そういえば、以前はちゃんと名前で呼んでたのに最近は代名詞が多かったな……などと呑気に思考を飛ばしているものの、彼女は自分の恋が終わりを告げている徴を受け取ってしまった。
切ないけど、わたしが好きになったポップさんは、マァムさんが好きで、マァムさんや仲間のために頑張れる人でしたね。
ポップさんはやっぱりこうでなきゃ!
「あの……マ……………」
「ポップさん!勇気の使徒らしいところ見せなきゃ、格好がつかないですよ!」
言い淀んでいる少年にハッパをかけ、背中を押してふたりを向かい合わせにさせると
「じゃ、わたしは少し席を外しますんで、あとは若い二人でどうぞ!」
黒髪の少女はうるみはじめた瞳を瞬きで誤魔化しながら、その場を後にする。
華奢ながらも世界一の大魔道士の危機を救い、大魔王を倒す一助になった女傑である少女は
「あの……マァム……」
「はい……」
という甘い会話を背に受けて、前を向いて歩き出す。