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    於花🐽

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    於花🐽

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    前についったに載せたのの再掲

    捏造tdd時代の🐴→←1️⃣と🍭→💉の仲良し?ご飯話

    https://twitter.com/0HanaBon/status/1288838366239158274?s=19

    ##サマイチ

    四人で食事に出かけると、テーブル席での並び順は一番奥に乱数、その隣が寂雷、乱数の向かえに一郎、一郎の隣が左馬刻と決まっている。
     最初に座った時は体格の大きさでこの並びにした。一番小さい乱数と一番背の高い寂雷が隣に並んで、真ん中の二人が隣に座った。といっても左馬刻と一郎共に背が高い。左馬刻はよく通路に脚を出して座っていて、人が通ると脚を退けている。奥に座る二人は気付いてないので、寂雷は場所を代わろうかと提案したが左馬刻が「うるさいのの隣はごめんだ」と言ったのでこの席順だった。
     並び順が完全に定着したのはある出来事からだった。その時は一郎が一番初めに座って、その隣に気まぐれな乱数が一郎の隣に座った。
     四人でわざわざ話しあってその並びで座ると決めていたわけではなく、妥当だと暗黙でその並びになっていたのでまあたまにはいいかと一郎の正面に寂雷が座ってその隣に左馬刻が座った。
     並びが変わろうといつも通り楽しい食事だった。一郎が料理を食べる度に「うまいっす」と笑顔で言って、本当に美味しそうに言うのでその都度乱数が「僕にも一口!」と言い一郎も律儀に一口与えてやるのがとても微笑ましかった。
     食事の途中で寂雷は最近のある出来事を思い出した。一郎の耳にはあまり入れたくない話だったので、声を落として隣の左馬刻だけに話かける。
    「通勤途中に犬の散歩をしてる人とすれ違うんだけど、その散歩している犬、多分黒柴だと思うんだけどね、それが一郎くんにそっくりなんだよね」
     突然振られた話に左馬刻はちょっと驚いたようだが、その内容を聴くと俯いて小さく笑った。
    「心の中でその犬の事完全に一郎くんって呼んでて、一郎くん本当に元気でね、飼い主さんの足元で飛び回ってる事はよくあるんだけど、その日は勢いが良すぎて首輪が抜けちゃって」
     小さく笑っていた左馬刻がこらえきれないず吹き出す。
    「飼い主さんはじゃれてるのはいつもの事だと思ってるのか気付かずに進んでて危ないなって思ったから『一郎くんの首輪とれちゃいましたよ』って声をかけたんだ。そしたら飼い主さんが慌てて首輪をし直して私にお礼を言ってくれてほっとしたまでは良かったんだけど『うちのこいちろうって名前じゃないんですけど』って申し訳なさそうに言われてしまってとても恥ずかしかったんだよね」
     左馬刻はもう笑いをこらえられずにいた。
    「先生、ひでぇな、くっ、ふはっ。ってか今の話の中でも犬の事、一郎って……ははっ」
    「え? また呼んでた?」
    「呼んでた……くくっ」
     この話は本人に聞かれると怒ってしまうかなと思って左馬刻から視線を外して正面を見るとさっきまで楽しそうに食べていたのに悲しげな顔をしている。
     どうしたのかと思えば乱数も拗ねた様子だ。そして不機嫌さを滲ませた声を出す。
    「二人だけで内緒話してズルい~」
    「いや、これはお子ちゃまな二人には聞かせらんねぇわ」
     笑いながら左馬刻が応えた。
     年齢など関係ないが一郎に言えないし乱数は絶対一郎に話しそうなので言えない。
    「え~ズルいズルい~僕は成人男子ですぅ! 僕にも教えてよ~」
     乱数は言い募るが一郎は黙って悲しげな顔をするばかりだった。
     その悲しげな顔が道に落ちていた松ぼっくりを咥えて飼い主に怒られていた時のある日の黒柴の顔を思い出させた。
    申し訳ないのはわかっているが寂雷も笑い出してしまう。
    「なになに~二人して! 僕も仲間に入れてよ!」
     乱数が席を立って左馬刻の隣に座る。けれど左馬刻の隣は空いているわけではないので強引にベンチタイプの椅子の空きに小さい体をねじ込んでいるだけだ。
    「狭いわ!」
     鬱陶しそうに乱数を寂雷の隣に押し込んで、左馬刻は乱数の居た一郎の隣に座り直す。
    「もう左馬刻と寂雷は隣に座らせな~い。内緒話メっだからね」
     席の並びが固定されたのはこれがきっかけだった。
     乱数は拗ねるし、一郎の悲しげな顔が見るに耐えなかった。
     今日は四人で焼き肉を食べに来ていた。
     一郎はいつも通り実に美味しそうに食べて進めている。
     初めに注文した物はあらかた平らげていた。乱数はもう肉を焼くのを止めて、追加で頼んだ冷麺を啜っている。
     寂雷はまだ食べてはいるが、焼いた肉よりナムルの方が箸が進む。
     左馬刻は「これ焼けんてぞ」なんて言いながら一郎の皿に焼けた肉を乗せていく。左馬刻がどんどん焼いていくので一郎は自分で肉を焼く事もなく「あざっす」と呟きながらひたすら咀嚼していた。食べ盛りが幸せそうに食べている姿は確かに可愛らしい。
     一郎の食べっぷりがいいからその気持ちはわかる。けれど左馬刻自身もそれほど少食ではないのだから一郎に肉を焼くばかりでは腹が膨れないだろうと思い、寂雷は一度左馬刻が置いたトングを手にとって、網の上の肉をひっくり返した。
    もういいだろうと思った焼けた肉を左馬刻と一郎の皿の上に置く。
    「お、ありがとよ、先生」
    「寂雷さん、ありがとうございます」
     寂雷が二人に肉を焼いていると乱数が口を開いた。
    「左馬刻も一郎も食べ方綺麗だよね」
     にこっと笑って言う乱数から、何やら不穏なものを感じる。言葉では誉めているのに気配だけが違う。
     誉められたはずの二人も微かにぴりりと緊張した気配を滲ませた。
    「そうか?」
     一郎が苦笑いながら応えた。
    「一郎も左馬刻も箸の持ち方も上手いし、音も静かだし。左馬刻なんて普段あんなにオラついてるのに食べ方はどこかのお坊ちゃんみたいに綺麗に食べるよね」
     左馬刻は過去の話を進んでしない。両親の亡くなった理由が理由なのでそれを知っていれば昔の事を掘り返すのは憚られた。
     それをわかっていて乱数は誉める振りをして昔の生活習慣に言及しているようだった。
     乱数は普段こんな嫌味を言う性格ではない。寂雷は何が乱数をそうさせているのかが気になって、乱数を止めずに流した。
     寂雷にとって乱数は左馬刻や一郎よりも興味深い存在だった。左馬刻や一郎はまっすぐで寂雷からすると少し眩しくて二人の光に照らされると自分の影が長く伸びているように感じてしまう。
     乱数は子供のような見た目そのままに子供みたいな振る舞いをするけれど、大人の分別はきちんとある。子供を演じているのかと思えば本当に無邪気だったり、けれど時々それは主にラップバトルの時が多いが誰よりも狡猾さを見せるのだ。彼は明るさの分だけ闇も持っている。その闇を覗いて見たいと思うがきっと直視したらその闇に自分の影も暴かれてしまうのだろう。だから時々漏れ出た闇をそっと見るだけに留めている。
    「二番目だったかな? 何回か転所してるから確かじゃねぇけど、その施設マジ食事のマナー厳しくてさ」
     左馬刻が口を開きかけたが、先に喋ったのは一郎だった。
    「『世間に出たら恥をかく』って食事中、ほぼ横に張りつかれて注意されたんだよ。めちゃくちゃ厳しかったのはそこだけだったけど、他では食事中立ち上がったりする子供とか多かったり食事って血の流れない戦場って感じだった。だから人と食べんのあんま好きじゃなかったんだよな」
     ぽつぽつ喋る一郎の話を誰も遮らなかった。
    「でも今乱数に綺麗って言われて嬉しかったぜ。怒られても箸の持ち方覚えたの報われた気がするわ。それとさ……」
     一郎は少し言葉を躊躇った。
    「四人で食う食事ってこんな楽しいんだなって知れて俺めっちゃ嬉しい」
     にかっと最後に明るく笑った一郎に、今までいつも美味しそうに食べていた一郎を思い出した。あの顔は誰でも見れる顔ではなく自分たちだけが見れる特別だったのだ。
    「いちろおー。みんなで食べるご飯美味しいよね! たくさんお食べ」
     乱数の声から含みはなくなっていた。
     一郎はまっすぐだ。小さな闇なら吹き飛ばしてしまう。
     何が乱数を掻き立てたのかさえ、吹き飛ばされていた。
     乱数は寂雷の前に置かれていたナムルを一郎の前に置いて、寂雷からトングを奪い取ると網の上の肉を吟味していく。
    「みんなまだ早いか~。僕の冷麺もあげる!」
    「いや、充分食ってから」
     一郎がそっとナムルの皿を戻して乱数の手を止める。
    「おい、乱数。自分が腹いっぱいだからって一郎に押しつけんな」
     さっきから箸動いてねぇの知ってるぞと左馬刻がたたみかけると乱数は子供じみた仕草で唇を尖らせた。
    「乱数がもう食わねぇなら俺貰うわ。前は〆にビビンバだったから冷麺気になってたんだよ」
    「一郎がこう言ってるからいいじゃん~」
     乱数から冷麺の器を受け取る一郎の頭を左馬刻がぐちゃぐちゃと撫で回す。
    「ちょっと力強いっすよ、左馬刻さん」
     撫で回している手の力加減の胸中は乱数を甘やかすように冷麺を受け取った事への当てつけだけではなかった。
     一郎も進んで過去は話さない。一郎は隣で左馬刻が何か言い澱んだのを感じて自分の話をしたのだ。
     左馬刻は一郎の気遣いを理解していた。それにわざわざ礼を言うのは二人の間では野暮な事だった。
     一郎は左馬刻の手を退けると早速冷麺を啜った。
    「これもうまい!」
     一郎の笑顔に三人も自然と笑顔になっていた。おかしな緊張感は完全に霧散していた。
    「嫌な記憶があっても、今が楽しけりゃよその楽しい今を続けていけばだんだん楽しい方がデカい思い出になってくからな。お前の食いっぷりは奢りがいがあるし、いつでも連れてってやっからな」
    「ありがとうございます、左馬刻さん!」
     二人はやっぱり光輝いているなと寂雷は思った。
     二人は暗さを乗り越えて輝いていく。
     左馬刻の言葉は一郎に向けてのものだったのか。過去の自分に向けたものだったのか。似ている二人である。左馬刻は一郎を甘やかしながら過去の自分も救っているのかもしれない。
     二人の関係性に寂雷は目を細める。
    「追加で何か食うか」
     左馬刻がメニュー表を手に取る。隣の一郎がそれを覗きこむ。
     追加注文するならば一緒にと寂雷ももう一つのメニュー表を手に取った。
    「乱数くんはもうお腹いっぱいなの?」
     寂雷はメニュー表を広げながら乱数に尋ねた。
    「君、最後はシャーベット食べたいって言ってただろう? 私とシェアする?」
     乱数は寂雷を見るとぱぁっと顔を輝かせた。
    「半分っこしてくれるの?」
     嬉しそうでいてちょっとこちらを窺うようにしている目に少しの不安が目に見えた。
    「食べれないなら半分じゃなくてもいいけど。シャーベットは食べたいんでしょう?」
    「うん! 食べたい! 塩バニラも気になるしオレンジもいいなぁ」
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