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    おいなりさん

    カスミさん……☺️

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    おいなりさん

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    真スミ

    そういえば、と口を開いたカスミに、真珠はクルリと振り向いた。
    鬱蒼と茂った前髪の下ではどんな思いを募らせているのか、そもそもその奥の灰緑が見えた所でその謎多き男の感情が読み取れるのかも分からないけれど、カスミの口元は確かに半月を描いていた。
    確かそういう形の月を、上弦の月、といっただろうか。
    煌びやかなネオンが眩しいビルの隙間にぽっかりと浮いた月を見上げて、そんな事を言っていたのはカスミだったような気がする。
    あれはまだ夏の始まった頃、梅雨の合間のほんの一時の晴れ間だった。
    そこまで考えて、真珠の思考はピタリと止まってしまった。
    それは鼻先に触れた前髪がくすぐったかったからもしれないし、髪の毛数本分の隙間から覗いた柔らかい灰緑の眼差しのせいかもしれないし、やけに柔らかく温かいものが唇に触れていたせいかも知れない。
    「寒いッスね、そろそろ店戻りませんか」
    けれど、その全てが自分から離れたと気付いたのはカスミがそう言ったからだ。
    「……うん」
    まるで夢から覚めたばかりのようにそう答える真珠は、裏口のドアを開けようと背を向けたカスミに隠れ、指先でそっと唇に触れながら目を閉じたのだった。

    end.
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    DOODLE【★文章】ソテ黒/人魚の鱗 2

    まだあまり二人の時間はない感じです。え〜ん
    【★文章】ソテ黒/人魚の鱗 2 人魚は名前を「黒曜」と言うらしい。
     人魚の言葉は陸上ではほとんど音にならず、人間の鼓膜で捉えるのは難しい。そのため、成長して一人前となった証に、そのコミュニティで引き継がれる人間向けの名前をもらうらしい。
     「黒曜」とは、一番強くて大きい者、という意味だと語った。

    「それで、どこから来たんだ。お前」
    「さぁな。少なくとも陸が見えるようなとこじゃなかった」
    「外から見て分かるもんじゃないしな」

     汚れた水を抜いた後、少し掃除した湯船へ人工海水を注いでいく。趣味で事務所に置いているアクアリウムの人工海水を使っても問題ないのは僥倖だが、一回あたりの使用量が馬鹿にならない。元々、海に帰してやろうと思って連れ帰ったが、本人(本…魚と言うべきだろうか)に聞いてもどこから来たのか分からなかった。そのまま近くの海に放流しても、所属するコミュニティもなく食べ物も合わない、環境も合うか分からない状態では、見えないところで死んでくれと言っているに等しい。仕方なく、できる範囲で面倒を見てやることに決めた。見た目は厳ついが、陸上では環境を整えてやらないと生き延びることはできない。こいつは今、犬や猫と同じようなものだ。
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