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    おいなりさん

    カスミさん……☺️

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    おいなりさん

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    馴れ初めって楽しいよね。

    ##真スミ

    久方振りの。


    恋をした。
    同性の、しかも10も歳の離れた相手に。
    でも恋なんて久しぶりすぎて、そうだと気付くのには随分と時間が掛かってしまった。
    それこそ、相手が自分の事を好きだと言ってくるまで、相手に抱いている淡い気持ちが恋だなんてわからなかったのだ。
    だから言った。

    「自分に恋を教えてくれますか」

    と。

    「え、え?えっと、それって、どういう……?」

    美味しそうな蜂蜜色の瞳を、溢れそうなくらいに目一杯開けて戸惑っている。
    その顔を可愛らしいと感じている自分につい笑ってしまったけど、それをどう受け取ったのか、目の前の青年は随分と顔色を曇らせてしまった。

    「お、おれは、ホンキでカスミのことが好きなのに……からかってるの?」

    拗ねたように口を尖らせたり、小さく、独り言を呟くようなその言い方もまた可愛らしい。
    頑張って抑えてはみたけれど、クスクスと溢れてしまう忍笑いを漏らさないようにするのはどうにも無理があって。

    「わ、笑わないでよ!おれ真剣なんだから!」

    今度はそうやって怒り出す姿に、ついに破顔してしまった。

    「ふ、ふふふ、申し訳ないッス。あんまり真珠が可愛くて。真珠のそういうとこ、好きッスよ」
    「なっ……に、それ……どう、いう……」

    今にも飛び掛かりそうな勢いで怒っていたのに、好きという単語が出ただけで急に言葉が尻すぼみになってしまった。
    やっぱり可愛い。
    こんなに可愛らしい彼を、自分のものにしてしまいたい。
    そんな気持ちばかりが膨れていく。
    そしてそんな相手から好きだと言われて、頭の中はきっと花畑が広がっていたんだろう。
    怒って赤くなっていた顔が別の意味で更に赤く染まって、緊張と興奮のせいか少し汗ばんでいるらしい真珠からはほんのり甘い香りが漂ってきている。
    だからつい、口をついて出てしまった。

    「はぁ、今すぐ食べちゃいたいくらいッス」

    溜息を零すのと同時に飛び出した言葉は、どうしようもなく自分の本心だった。
    それは真珠の耳にもしっかり届いていたようで、一瞬固まった後、頬どころか首まで、いや、恐らく服で隠れてしまっているところまで真っ赤に茹で上がらせて、ぱくぱくと口を開けたり閉めたりしている。

    「な、なに、え、たべ、なん、で」

    あまりに事が性急に進みすぎたのだろう、真珠が一歩後退った。
    このまま放ったらかしにしてしまったら、きっと真珠は脱兎の如く逃げ出して、暫く近付いて来ないだろう。
    冷静になって頭の中で、あれは揶揄われたに違いないと勝手に結論付けて、今起こっている事をみんな無かった事にしてしまいそうだ。
    そんな事になれば、きっともう真珠を自分のものにするなんて出来ないし、今までみたいに懐いてくれる事も無くなる。
    今日の事は黒歴史として永久に封印され、自分以外の誰かのものになってしまうなんて事も有り得る。
    それだけは絶対に嫌だった。
    普段、モブだ背景だと言ってはいるけれど、こう見えて独占欲は強い方だと自覚はある。
    手を伸ばせば触れられる場所に欲しいものがあるのに、易々とそれを逃してしまうような優しさなんかもともと持っていない。
    真珠がもう一歩、足を引く。
    次は踵を返すだろう。
    ……その前に。

    「真珠、自分、恋愛って凄く久しぶりなんスよ。暫くお休みしてたんス。だから、どうやって接していいか分からなくて。良かったら、真珠が自分に教えてくれないッスか?」
    「え……?それは……お、おれと、恋人ごっこする、ってこと?」

    おっと。
    捕まえに行ったつもりが、少し捻りすぎてしまったらしい。
    体こそ動いてないけど、真珠の背中が見えた気がした。
    こういう子には、もう少しストレートな話を振るべきなんだろうなと一つ勉強した。

    「恋人ごっこじゃなくて、恋人になって欲しいッス」
    「恋愛の練習のための?」
    「真珠との恋のための」
    「カスミが何言ってるか、よくわかんないよ、おれ……」
    「そうッスね、もっと分かり易く言うと、自分も真珠の事が大好きって事ッスよ」
    「……へ」

    ここから逃げ出したくて堪らないのだろう、後ろに傾いてる真珠の体。
    それを引き戻すように、真珠の手を取って軽く引っ張ってみた。
    すると思いの外すんなりと真珠はこちらに倒れてきたのですっぽりと腕の中に収める事に成功した。

    「ね、真珠。たった今から自分と真珠は恋人って事でいいッスよね?」

    柔らかい海の色を湛えた絹を軽く漉きながら、真珠の耳元でそう囁く。
    みるみる内に赤く染まっていく耳が可愛くて美味しそうだったから、思わずぱくりと唇で食むと、真珠がひゃんっ、と不思議な声を上げていた。

    「か、カスミ、あの、おれ」
    「自分の事、好きッスか?」
    「……す、き」
    「ふふ、自分も真珠が好きッスよ」
    「……う、ぅう……はい……」

    ぐったりと凭れ掛かってくる真珠の重みさえも愛しく感じる。
    何か諦めたような溜め息を吐いた真珠は、おずおずと伸ばしてきた手で腰の辺りの服を掴んできたので、恋人になったんだし折角だらかもっと色んなところを触ってみてもいいのだと言ってみたら、あっという間に腕から抜け出して、勢いよく走って逃げてしまった。
    その後ろ姿にひらひらと手を振って見送って、30秒ほどした時。
    不意に尻ポケットに入れていたスマホが震えた。
    真珠からのメッセージが届いたらしい。
    開いてみると、

    [そういうのは、デートとかしてから!]

    という一文と、うさぎがぷんすこ怒っているようなスタンプがトーク画面に貼られていた。

    「恋人になってから初めてのメッセージで怒られてしまったッスね〜……」

    ぽつりとそう呟くと、さっき真珠が消えていった方から小さく唸り声が聞こえてきた。

    「べつに、怒ってないし……」
    「真珠」
    「で、でも!あぁいうのは、まだ……心の準備ができてないから……その……」
    「恋人になったんスから、いつでもできるッスよ。真珠のしたい時に、真珠のしたい事を……何なら今からでもーー」
    「だ、だめ!ぜったいダメ!!もっとちゃんと、デートとかしてから!」

    そう吐き捨てると、今度こそ真珠は走り去ってしまった。
    震える事もないスマホを少しの間弄っていたけど、昼間の仕事のメッセージばかりでつまらなくて直ぐに電源を落とした。

    それからその日はもう店の中で真珠と遭遇する事は無かった。

    運営くんの手伝いをして、すっかり遅くなってしまった仕事終わり。
    真珠も意外と隠密スキルが高いんだなと変に感心しながら帰り支度をしていると、ロッカーの向こうから妙な視線を感じたので覗いてみると、長椅子に座ってじっとコッチを見ている真珠が居た。
    どうやら帰りを待っていてくれたらしい。
    目が合うとちょこちょこと小走りに近付いてきて、それからぎゅっと抱き着いてきたりして。

    「心の準備、した。カスミの家に行く……泊まっても、いい?」

    思わぬ言葉に目を丸くしたけど、真珠の拗ねたような口調と態度に、恐らくこれは運営くんとくっつき過ぎてしまっていたのかな、と予測する。
    彼は自分が思っていたよりずっと嫉妬深くて執着が強いタイプなのかも知れない。
    けど、その方がいい。
    そうやって自分という底無し沼に嵌まり込んで、抜け出せなくなってしまえばいい。

    好きだと気付くのに時間はかかったけれど、そうだと気付いてしまえば、逃す気は少しもないのだから。

    「真珠、捕まえた」

    その呟きに、不思議そうに顔を上げる真珠の唇を、強引に奪い、食らい尽くすように貪った。


    それが、真珠とのはじまりの日だった。


    end.
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