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    kei

    @47kei

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    https://poipiku.com/1425184/3457535.html⇒ 引き離せないもの

    ##企画:colors

    三国を探し歩いても、これほど同じ顔の人間などいないものだ。
    「何だお前は」
     向き合うヴルムとセッカは同時に同じ言葉を発した。ヴルムは敵対心を持って、セッカは既視感を持って。
     似ている、というには似すぎている。冬清王の若い頃は知らなかったが、記憶の中のかつての主人の姿がきれいに重なり、目眩すら覚えた。
     しかも今シロツメ公主はこの男をヴルム様、と呼んだ。
     護国卿ヴルム、シロツメ公主が嫁入りした男の名前だ。
    「セッカ、離してください」
     シロツメ公主はヴルムの姿を認識すると、セッカへ警戒心を強めた。
     慈悲王がシロツメ公主に直接使者を送り、使命の遂行を即したことが一度だけあった。
     使者は冬清王と暮らした冬ノ宮で、短いながらも幸福な時を一緒に暮らした侍女だった。年が同じであったから再会した時は13歳で、彼女も嫁入りを控えていると、祝い事であるはずが暗い顔をしていた。
     「あなたが慈悲王から託された使命とやらを果たさなければ、実家も未来の夫の未来がない」と泣きながらすがりついてきたのだ。
     動揺するシロツメ公主の心が激しく揺れているうちに、その侍女一族は戦時中の反逆行為の濡れ衣を着せられ、全てを剥奪された。
     侍女はシロツメ公主を責め、凶刃を振りかざした。3カ所の刀傷を無防備なシロツメ公主は受けるしかなかった。すぐに夫が駆けつけてくれたので、致命傷には至らなかったが、輿入れして忘れていた血の味は随分と暗く絶望の味がした。
     泣きつきたくとも、身から出た錆で涙を溢す権利すらない。痛みに耐え、ただ夫に騒ぎを起したことを謝ることしかできなかった。
     セッカも同じ「使者」だと、シロツメ公主は思い至ったのだ。
     侍女の次は従者。
     冬清王の残滓すべてをもって追い詰める強い意思を感じた。
     次は故郷の家族が使者になるかもしれない──
    「ヴルム様、助けて」
     シロツメ公主が助けを求め身を乗り出そうとしたところで、セッカは手刀をもって意識を奪った。ヴルムには決定的な敵対行動だった。
    「その見た目花守山の民か。またシロツメに危害を加えにきたのか」
     ヴルムはかつて妻を襲った使者を覚えていた。
     公主殺害を図ったとしてアシュタルで処分された侍女の『亡骸』を見て、彼女は乾いた唇で「お友達でした」と言った。
     自身が傷付けられても涙を堪えられたのに、その時は堪えきれずに涙を落としたのを、ヴルムは見ていた。
     妻の涙を拭ってやった。
     公主と呼ばれながらも、まるで罪人が受けたような仕打ちの跡残す手を握りしめた。
     シロツメ公主はその手を握り返して、悲しみを耐えたのだ。
    「また? ── は、笑わせるなよ。そんな顔して出てきて動揺させようたってこっちはもう腹くくってんだよ。イライラさせてくれるなよ」
    「それはこちらの台詞だ、僕と彼女に関わってくるな」
     セッカはシロツメ公主を抱え直し、開いた手に暗器を引き出して威嚇の姿勢をとった。
     ヴルムを凝視して、思考を巡らせる。
     ──潤越じゃない。潤越は死んだんだ。
     ──よく見ろセッカ。
     翼に爪──どこからどうみてもアシュタルの民だろう。それが潤越の顔をしてシロツメ公主の旦那に収まっている。きな臭い意図を感じるだろ。
     同じかたちの再生、産み直しっていうやつか──?
     待て、霊木の再生ってシロツメ公主が口にしたな? 潤越の産み直しで代理人格がこいつに継承されていたとしたら……
     なぜそんな重要な存在にわざわざまたシロツメ公主を充てがって……
     セッカは自分が抱いている娘の中にあるものに、すぐ思い至った。
     ──ただの田舎娘じゃなかった。そうか、シロツメ公主が
     ──霊木の妖精格…!
    「妻を離せ、今すぐにだ」
    「離すわけないだろう。なにが妻だ反吐が出る! 血を流すことでしか未来を見れない蛮族が!」
     ヴルムは強烈な感情を投げつけられ、目の前の賊が込み入った花守山の事情を把握していると理解した。シロツメ公主が口にしない『なにか』を知っているとなれば、ヴルムが取る行動は一つだけだ。
     両者止めていた足が弾けるように動いた。ヴルムの跳躍に人をひとり抱いたセッカが敵うわけがない。体力と戦闘でセッカが勝てる道はないが、かつて儁才と呼ばれ、国一番の知識の宝庫と呼ばれた「セッカ」の号を得たものとして頭脳で劣る気はなかった。
     身を低くして鋭い切っ先を躱したが、肩口を軽くかすめた。鋭利な刃物で切り裂かれたような鮮烈な痛みが走る。
     ──クソ野郎、ジェンタに怒られるだろうが
     滑るようにして離脱の姿勢に移る。身体を起こすついでに、仙術符と呼ばれる、付箋のような紙を引き出した。仙術の増幅効果のあるその紙を唇に当てて、思い切り吹いた。
     ビチビチ、とまるで火花が散るような音が響くと、翼を広げて追ってきたヴルムの表情が乱れる。一瞬の躊躇を逃さずにセッカはシロツメ公主を抱いたまま走り出した。
     ヴルムを襲ったのは、強烈な周波数だった。耳障りを通り越して頭を直接揺さぶるような音波が、刺すように身体を突き刺して、ぐらぐらと反響している。
     異常に気づいて護国卿の補佐に入ろうとした鳥たちは、頭を押さえてその場に伏すほどの強烈な痛みを感じ動けない。
     それでも何人かがヴルムに駆け寄ってきたので、すぐに賊の侵入があったことを共有、ミンカラを守るように指示を出した。
    「僕はあれを追う」

     セッカは走りながら状況を整理した。
     潤越は自分が代理人であることを教えてくれたが、シロツメ公主が妖精格であることは教えてくれなかった。信頼されていなかった訳ではない、それは潤越自身が受け入れがたいと思っていたことなのだと思う。国の未来を背負った王である自覚を持っていた男だった。だから代理人としての役割を血の穢れを引き受けても果たすつもりだったはずだ。民草の幸福を誰よりも考えていた王であったのは、セッカが一番知っている。
     だけど殺さなかった。殺せなかった。そういう男だった。
     その情の深さを、国の未来と愛するひとりの命を天秤にかけた時に悩み苦しむ潤越の性格を知っているのは、政敵である慈悲王幽達しか考えられない。
     ──なにが、慈悲王だ
     シロツメ公主が国主一族の保護下にいることに安心して目を離した自分をセッカは呪った。血の穢れを受け、国主一族と直接の関わりを禁じられ、自分のことで手一杯だった。
     どうにもすることができなかったとはいえ、ひとときでも面会することができたのならば、こんな残酷な状況に置くことを許さなかった。
     穢れ落ちの底辺の民だとしても、できることはあったのに。
     冬清王の従者であったのに、彼の気持ちを理解してあげられる少ない友人のひとりであったというのに、何もできなかった。
     ──でも
     少し躊躇しながら、言葉を探すようにしたヴィトロの声がふと心を掠めた。
     ──でも、セッカは一度粉々になっても、自分でしっかり繕ってここにいるひとです。頼りにしています。
     今生きて手を繋いでくれる友人がそう言ってくれたのだから、後悔しても仕方がない。
     セッカは走り抜けて、高低差を飛び降りた。
     着地を器用に仙術で重力補正をしたところで、背後から一度大きな爆発音が上がり思わず振り返る。
     ヴィトロは涼しげな顔をして「派手にやりますから」などと言っていた。
    「おいおい、まじかよ…アルテファリタのやつらってほんと涼しい顔して……」
     独り言は目の前を横切った鋼に分断された。
     鈍い音をたててセッカの足元に突き刺さった剣から上空へ視線をやると、シロフクロウが冷ややかな目線を投げて悠然と浮いていた。
    「こっちはこっちで、あぶねぇし」
     仙術符を切って構え、護国卿と対峙する。ヴィトロとの合流ができるかを考えていたがその前にこの危ないシロフクロウをどうにかする必要がありそうだった。
    「もう一度言うが──」
    「一度聞けば分かるんだよ!」
     ヴルムの言葉を前に、セッカは仙術符を使って発煙を起こした。煙は急激に膨らみ周囲を取り巻く。
     上空からではこれでこちらの動きは読めない。煙を起こすくらいなら花守山の子供でもできる簡単な仙術だったので疲労することもなかった。
     ヴィトロ側にミンカラの護衛や関係者が集中するのも避けたい。煙が上がれば向こうも複数犯であることに戦力分散させる他ないだろうし、ヴィトロもこちらがシロツメ公主を得たことに気づくだろう。
     アシュタルからアルテファリタへの移動ができる霊脈を掴むのには時間がかかる。掴んだ上で、ヴィトロの力が必要だった。 
     煙に撒こうと踏み出した瞬間、背後に気配を感じた。反射的に振り返る。煙を絡ませた髪は紫と緑の色彩に揺れて──
     視線を奪われたその一瞬に、背中に強い力を感じた。
    「っ──────うあっ」
     抱き上げていたシロツメ公主を放り出してしまう勢いだった。
     背中に加わった力で吹き飛ばされ、セッカは何度か地面に叩きつけられ、跳ね転がってから沈黙した。
     放り出されたシロツメ公主はセッカを蹴り飛ばした鳥人が抱きとめていた。
     うっとおしいという仕草で開いた手で煙を払いながら近づいてくる。
     ケープについたフリンジがゆるく揺れる。
     セッカの記憶にはないはずの男だったが、ぞわ、ぞわ、と這い上がる嫌悪感があった。
     どこかで────会ってる。
    「ヴルム卿、聞こえますか、公主は無事──」
    「話はまだ終わっていないのに背を向けるなんて、失礼では?ジブリール」
     殺される、と思ったが煙を払うように飛び込んできたのはヴィトロだった。
     不意打ちの不意打ちを受けた形で、男──ジブリールの手からシロツメ公主が奪われる。
    「ヴィ…ッ」
     二度放り出される形になったシロツメ公主をセッカは慌てて抱きとめる。
    「大丈夫ですかセッカ。すみません、宰相ジブリールを押さえておけませんでした」
    「大丈夫。お前は」
    「貞操の危機でした」
    「はぁ!??」
     思わず大声を上げてしまう。
    「続きをお望みでしたか、ヴィトロ執政官」
     セッカはヴィトロとジブリールを訝しげな表情で見比べ、それから行きはしっかりと首元まで詰めていたヴィトロのブラウスが開襟されているのに気づき、抱きとめたシロツメ公主の重さも忘れ、襟のボタンを留めてから感情のまま声を張り上げた。
    「てっめぇ…俺のものに触るな!」
     痴話喧嘩になりそうな感情を押さえて、セッカは気持ちを切り替えた。
    「お前の目的は果たせたのか」
    「概ね果たせました。帰りの支度はいかがですか」
    「アシュタルは霊脈が掴みにくいが、大丈夫だ。だけど転移時には俺もお前も無防備になるからな……」
    「煙が晴れたら上からヴルム卿と、恐らく警備兵も来ますね……では、宰相は私が押さえます。すぐ転移できるようにしっかりと霊脈を掴んでください」
    「待てお前は!」
    「あなたのためなら」
     それ以上はヴィトロは続けなかった。そういう感情の押し付けはアルテファリタでは好まれない。なぜか口から突いて出てしまったというような、そういう表情だった。
    「大事なことを伝え忘れていましたけれど」
     ヴィトロが真剣な顔をしながら、だが一度もセッカを見ずに眼前のジブリールに定めたまま続けた。
    「私はセッカより強いですよ」
     腕相撲で連敗のくせに? と突っ込む立場ではなかった。腕力の問題ではなく、存在密度の話であることは分かる。セッカは自分がこの中で一番力のない存在である自覚はあった。
    「執政官はたしかに強いですがアシュタルの敵ではないことは先代で分かっているでしょう。よくもまぁ、こんな大それた侵入をしましたね」
     ジブリールは虚無を感じる瞳で自分の首を払うような仕草をした。
    「一度真似をしてみたかったんです、貴国のどなたかが、我が国にしてみせたことを。あなた方に文句は言えませんよね」
     ヴィトロの語り口は誰よりも丁寧で乱れなく落ち着いていたが、焼け付くような嫌味の応酬だった。

    「ヴィトロも、そこのクソ鳥も止まれ」
     セッカは後退せず暗器を光らせていたが、矛先はシロツメ公主に向けて刃は向いていた。
    「いいのか、花守山のシロツメ公主だぞ。ここで死んだらどうやって花守山側に説明する? いや、説明どころの騒ぎじゃないよな。この子は俺じゃなくて護国卿ヴルムに殺させないと何の意味もないんだからな」
    「あなたは…」
     ジブリールは赤い目を細くしてヴィトロからセッカへ視線を移した。セッカはやっと存在として認識された気分だった。護国卿や執政官、宰相ときて自分の立場の空っぽなこと。今ではただの学士でしかない。
    「ヴィトロ、お前の方が転移の処理は早いはずだ。俺が前に出る」
     きつく歯を噛み合わせるジブリールを脅すために、セッカは暗器をさらにシロツメ公主の首筋に突きつけた。セッカは本気だった。
     暗器の鋭い切っ先に赤い血が溜まるのが確認できる。
    「早くしろ! 呼んだ警備兵も全部下げろ」
    「セッカ」
    「お前を置いてはいそうですかって帰れるか。そんなことをするくらいなら死んだ方がマシだ」
     セッカの集中力が手元の暗器に向かうことで、仙術の効果が薄れていく。
     煙が晴れて、上空にいたヴルムもセッカとヴィトロを視認するが、飛び込むのをジブリールが声を上げて押さえた。
     じり、じりとセッカとヴィトロ揃って後退する。
     たっぷりと距離をとったところで、シロツメ公主の重い瞼が開かれ、銀色の光を取り戻した。自分の首元に光るものを認めてから視界の先に、夫の姿を確認する。
    「……ヴル…ム様…」
    「シロツメ!」
     ヴルムの呼びかけに、急激にシロツメ公主は覚醒し、自身を捉えるセッカの腕へ思い切り噛み付いた。突然の痛みに緩んだ腕からシロツメ公主は飛び出す。
     ヴィトロが伸ばした手も届かずに小さな花は飛び出し、ヴルムもすぐに飛び立った。
    「くそっ……! 公主!」
    「セッカ、移動できます。今しかありません」
    「20秒待て! 耳!押さえとけ!」
     セッカは仙術符を唇に充て、持てる全ての仙力を吹き込んだ。 
     人の耳にも異音を感じるほど、高く耳障りな音が振動波になって広範囲に広がる。発生源の中心であるセッカも辛いが、飛び込こもうとしたヴルムはひとたまりもなかった。離れていたジブリールですら耳を押さえて身を竦める。
     受け身も取れず体勢を崩し、滑り込んできたヴルムをシロツメ公主は抱きかかえようとしたが、ヴルムの飛翔の勢いに飲まれ、離れようとしたセッカの元へ雪崩込んだ。
     セッカはシロツメ公主だけを引き寄せようとしたが、彼女はヴルムを離さなかった。
     小さな身体で大きなシロフクロウの鳥人を抱きしめたまま、銀色の瞳はセッカを見つめて「私と彼を離さないで」と訴えかけているように見えた。
     躊躇する間はなかった。ヴルムごと連れていくしかない。
     アシュタルの民にとって耳障りな音が消えた時、そこには侵入者2人の姿も、護国卿ヴルムとその妻シロツメ公主の姿もなかった。
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    kei

    DONEhttps://poipiku.com/1425184/3449166.html
    ⇒ 繕うものたち
    二胡を弾く手を止めたのは、シロツメ公主の夫、アシュタルの護国卿ヴルムだった。
     気分よく聞いてくれていると思っていたので、驚いて弦を落とした。
     落ちた弦を夫が拾うが、ヴルムはシロツメ公主へ手渡さない。
    「聞きたいことがある」
    「な、なんでしょう、ヴルム様」
     一呼吸置いて、ヴルムは自分が感情的にならないように、意識して続けた。
    「お前に冬清王という婚約者がいたのは聞いてる。それがお前の目の前で死んだという話も聞いた」
     誰からそれを聞いたのか、と思うが答えはすぐにでてきた。アシュタルにはシロツメ公主を監視する目がいくつもある。その一つは直接慈悲王と繋がっている宰相ジブリールだ。
     シロツメ公主の視界が暗くなるのがヴルムにも分かったが話は止めなかった。
    「その婚約者は、アシュタルが殺したのか?」
     
     もう六年以上前のことだ。冬清王潤越とその従者セッカと三人で、国主領の山間に花見に出かけた。手を引かれ時に抱き上げてもらいながら、美しい景色を楽しんだ。
     今ならば行かないでと大泣きをしてでも止めただろう。
     戦時中とはいえ、国主宮も近いその丘が血塗れの惨状になることなど、だれも想像して 7531

    kei

    DONEhttps://poipiku.com/1425184/3457535.html⇒ 引き離せないもの三国を探し歩いても、これほど同じ顔の人間などいないものだ。
    「何だお前は」
     向き合うヴルムとセッカは同時に同じ言葉を発した。ヴルムは敵対心を持って、セッカは既視感を持って。
     似ている、というには似すぎている。冬清王の若い頃は知らなかったが、記憶の中のかつての主人の姿がきれいに重なり、目眩すら覚えた。
     しかも今シロツメ公主はこの男をヴルム様、と呼んだ。
     護国卿ヴルム、シロツメ公主が嫁入りした男の名前だ。
    「セッカ、離してください」
     シロツメ公主はヴルムの姿を認識すると、セッカへ警戒心を強めた。
     慈悲王がシロツメ公主に直接使者を送り、使命の遂行を即したことが一度だけあった。
     使者は冬清王と暮らした冬ノ宮で、短いながらも幸福な時を一緒に暮らした侍女だった。年が同じであったから再会した時は13歳で、彼女も嫁入りを控えていると、祝い事であるはずが暗い顔をしていた。
     「あなたが慈悲王から託された使命とやらを果たさなければ、実家も未来の夫の未来がない」と泣きながらすがりついてきたのだ。
     動揺するシロツメ公主の心が激しく揺れているうちに、その侍女一族は戦時中の反逆行為の濡れ衣を着せら 6140

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    DONEhttps://poipiku.com/1425184/3485521.html ⇒引き離せないもの(2)四十歳になったとかいう話を数年前に聞いたが、花守山の仙人たちはまるで衰えがない。ジブリールの報告を受け、思慮に更ける慈悲王は鋭い眼光のまま、黙していた。
     色素が薄く、空の雲と並べば溶けてしまいそうなほどに白い彼らは、その色の印象のままに清らかでいようとするし、争いと血の穢れを忌避し、残忍を良しとしない。
     ──と、いうが、後者は建前上のものではないかと、ジブリールは思った。
     この慈悲王という存在は、花守山において特に異質だと感じていた。
     穢れを忌避する姿勢はあるが、残忍で無慈悲なところは、花守山の民の本質からかけ離れている。身内で政権を奪い合う国主一族においても存在自体が異質に思えた。
     普通の人間であれば、個より全という帝王学を叩き込まれていてもここまで残忍な行いはできないと思う。彼は愛というものを知らないのだろう。
     シロツメ公主の教育過程を見ていたジブリールはそう結論づけていた。
     手心を知らないこの無慈悲な王に、失敗の報告をするのは恐ろしいが、避けては通れない。今後の方針を聞かずに独断で判断すればもっとひどいことになる。
     慈悲王幽達から託された霊木再生の施策──代理人に 6027