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    kei

    @47kei

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    POIPOI 36

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    https://poipiku.com/1425184/3485521.html ⇒引き離せないもの(2)

    ##企画:colors

    四十歳になったとかいう話を数年前に聞いたが、花守山の仙人たちはまるで衰えがない。ジブリールの報告を受け、思慮に更ける慈悲王は鋭い眼光のまま、黙していた。
     色素が薄く、空の雲と並べば溶けてしまいそうなほどに白い彼らは、その色の印象のままに清らかでいようとするし、争いと血の穢れを忌避し、残忍を良しとしない。
     ──と、いうが、後者は建前上のものではないかと、ジブリールは思った。
     この慈悲王という存在は、花守山において特に異質だと感じていた。
     穢れを忌避する姿勢はあるが、残忍で無慈悲なところは、花守山の民の本質からかけ離れている。身内で政権を奪い合う国主一族においても存在自体が異質に思えた。
     普通の人間であれば、個より全という帝王学を叩き込まれていてもここまで残忍な行いはできないと思う。彼は愛というものを知らないのだろう。
     シロツメ公主の教育過程を見ていたジブリールはそう結論づけていた。
     手心を知らないこの無慈悲な王に、失敗の報告をするのは恐ろしいが、避けては通れない。今後の方針を聞かずに独断で判断すればもっとひどいことになる。
     慈悲王幽達から託された霊木再生の施策──代理人による妖精の霊木送り。
     小さな失敗や遅延は許容されたが、代理人と妖精ふたりが国外、よりにもよって今回の計画には噛んでいないアルテファリタへ拉致されたのは大失態だった。
    「アルテファリタの執政官と、儁才セッカが結びついていたとは」
     慈悲王の従者は報告を聞いて、ジブリールの耳にしか聞こえないような独り言を漏らした。彼が許可なく発言をすることは稀であったので、よほど意外であったとみえる。
    「護国卿に、代理人の話は漏れたと考えるべきだな」
     やっと慈悲王は口を開いた。重く無感情であったが、耳に刺さるような冷たさがある
    「宰相、我らにとって1年や2年は大した時間がではないが、そなたらの数年は大事な年月だろう?」
     長命種と短命種は向き合って、互いに視線を合わせたまま続ける。
     慈悲王の指は茶器に添えられていて、白湯のような茶にその長い指を映している。
    「およそ──雛が成人を迎える期間に相当しますね」
    「その時間を無駄にしたな」
     銀色の目はジブリールが逸らすことを許さなかったし、ジブリールも叱責を覚悟だった。
    「セッカ……冬清王の子飼いの官僚だ。邪魔になるだろうと血の穢れを与えて最下層に落としたというのに、あれは主上が拾い上げたのかもしれないな。もしそうなら、そろそろ主上の耳にこの件が入ってもおかしくない」
     慈悲王はそこまで言うと瞼を伏せた。
     鋭い眼光から開放されて、ジブリールは手元の茶へ視線を逃した。
     一度も口につけていない。
     今回ばかりは花守山の誇る毒薬が溶け込んでいるに違いないと思うからだ。
    「主上を蹴落とす準備はまだ完全ではなかったが、動くしかない」
    「代理人に妖精を殺させることは、十分可能です。話を聞けばヴルム卿も心乱れるはずですその心の隙間に介入すれば」
    「これまで何度それを試みた? シロツメ公主の様子を私が把握していないとでも思ったか? あれは代理人に思いを寄せた。代理人もまたお前程度の揺さぶりではシロツメ公主を殺す気を起こさない程には関係を築いたのだ。全く呆れたものだが、仕方ない。宰相、慈悲をくれてやろう」
     慈悲王はジブリールの提案を聞くつもりはもうなかった。
     立ち上がり彼を見下ろす目はいつも通り銀色に輝いていたが、その瞳の形が変化した。
     瞳孔は光の螺旋を描き、細長く縦に伸び、虹彩は彩色豊かに虹色に輝いてみえる。
     花守山の人間が仙術を行使するとき、瞳は変質する。ジブリールは身体から這い上がってくる寒気に身を震わせたが、這い上がってきたのは寒気ではなく、黒い影だった。まるで痣のように足元から這い上がる影は、投影されたように身体の周囲いつの間にか存在していた。
     影の存在に気づいた時にはもう椅子に座った姿勢のまま身動きが取れなかった。
     捕縛術というものだと知識では知っていたが、術中に落ちるのは初めてのことだ。
    「利き手は右だったか?」
     影にとらわれ、ジブリールの額から湧き出る汗が首元へと滑っていく。
    「では、左手だ」
     ぐ、ぐ、と闇の帯が手に侵食し、勝手に開かれて、机に押し付けられる。
     主語のない言葉に応えて動いた従者の手にあったのは白い蝋燭と、釘だった。
    「見覚えがあるだろう。シロツメ公主に何度か躾をしたときにお前もいたはずだ」
     ジブリールの脳内に雷が走る。
     従者が手にした燭台の細い脚の先は、鋭利な釘の形をしていた。これを手の平に打ち込み芯として、蝋燭をさす。火を灯してこぼれ落ちる蝋を受けるのは、処された人間の手の平だ。
     焼け付くような地獄が、じわじわと長時間続く。
    「私に、蝋燭刑を処すと───そんなことをしたら」
    「失態を犯したものへの躾は国際問題か?」
     従者の手にある釘が手の平に当てられる。
     とんでもない狂気を持つ男だ、とジブリールは思った。
    「代理人と妖精格を引き離し、妖精格を私の元へ連れて来い。私の命令を忘れないようにしっかりその左手に刻んで帰るといい」
    「お──お慈悲を」
     嘆願するにも身体の自由が聞かない。
    「この程度で死にはしない。──だが、役不足であったことを考えれば荷が重いかもしれないな。これを与えておこうか」
     そう言ってお茶の横に置かれたのは、水晶のような鉱石のかけらだった。小指の爪ほどの大きさの結晶はまるで生き物のように、内側が輝き脈をうっているように見えた。
    「これは」
    「お前が欲していた霊木の実、その欠片だ。お前の望みにうまく使うといい。成功すれば欠片ではなくもっと大きな実がその手に収まる」
     ジブリールが慈悲王により具体的な話を聞こうと喉を震わせようとする前に、従者が持つ槌が振り下ろされる。慈悲王は椅子を引いていてその苦痛の表情を見守った。
    「っっ──…あああ!」
    「そう品のない声を上げるな。里が知れるぞ。我が娘はあの時9歳だったが、そう喚かなかったぞ」
     それはあまりの痛みに意識を失ったからだ、覚えていないのかこの男。
     ジブリールは額から溢れ出る汗と、脈打つ全身の鼓動に焼けるように痛む左手に視線を定めたまま震えた。
    「お前達のその品のない手足で、同じように我が花守山の民を貫いて穢してきたことを忘れるな」
     釘に通される蝋燭から、溢れ出た蝋が伝い落ち手の平に落ちて、浮き上がった血と混じる。痛みによって熱いのか、傷によって熱いのか、すでに判断がつかなくなってくる。
    「…………っ…くぅ」
    「アシュタルに妖精格はもう据え置かない。護国卿の妖精格への寵愛ぶりはよく分かった。我が花守山において妖精送りを済ませよう」

     シロツメ公主の泣き声は、雛鳥が必死に生きようと親にかける鳴き声と似ていた。
     短く堪えるように、喉を詰まらせるようにして、耐えて泣く姿を見て、何とも思わずにはいられなかった。理由を聞くことができないのならば、抱きしめ返すことだけがヴルムにとってできることだった。
     だが霧のかかった意識の中で手を伸ばし抱き返そうとしても、そこに小さな妻の暖かさはない。どこだ、と探るようにすると意識が現実に引き寄せられる。
    「起きたみたいだな」
     聞き慣れない声がして、痙攣する瞼を懸命に押し上げる。
     知らない顔が2つ、そしてその顔に挟まれる妻の泣き顔だった。
    「シロツ…」
     飛びかかろうとして拘束されていることに気づく。身を乗り出そうとすると、どてん、と大きな音をたてて床に落ちた。
     シロツメ公主は拘束をされていないようで、泣き顔のまま急いでヴルムへ寄り添った。身体を起してからヴルムの知らない2人──セッカとヴィトロの方へ向き直る。
    「セッカ、ヴルム様の枷を解いてください」
    「だめですよ、飛びかかってこられたら勝ち目はないですしね。話が終わるまでそのままでいてもらいます」
    「申し訳ありませんが、危害は加えませんしそのままで話を聞いてもらいましょう」
     ヴィトロは食事中の手を止めたが、セッカが「食ってろ」と短く告げて食事を優先させた。アシュタルからアルテファリタまでの大人数の移動の負担はヴィトロが引き受けた。
     少ししたら熱が出ますが、反動なので気にしないでくださいと言ってから、エネルギー補給をと言ってずっと食べ続けている。セッカはよく食べる彼を愛おしい生き物だと思っていつも眺めているのだが、今はそんな余裕はなかった。
    「話?──賊の交渉に応じると思うか」
    「ヴルム様」
     拘束された手を包むようにして、シロツメ公主はヴルムの言葉を遮った。

     ヴルムが気を失っている間、セッカはシロツメ公主に、シロツメ公主はセッカにお互いの事情を話した。信じがたく認めがたく、失った冬清王という傷をひどく抉るような話だった。
     自分が霊木の妖精格であるということは、慈悲王から教わっていた。
     霊木再生のために代理人という役割のものに殺されなくてはならず、冬清王がその代理人であったということも、その産み直しがアシュタルのヴルムだということも分かっていた。だがそれが仕組まれたことだとは知らなかった。
    「あなたは死んではいけない」
     セッカははっきりとシロツメ公主に告げた。
    「あなたは生きなければ」
     そんな「期待」をされたのは何年ぶりだろう。
     必死に死ぬこととその使命を考えてきた。生きてヴルムと一緒にいたいと思う自分の感情より、死を望む人の数、その思いに押しつぶされてきた。たったひとりでもそう言ってくれるだけで、シロツメ公主の涙は止まらなかった。
     だが生きるためにはヴルムに全ての事情を理解した上で、シロツメ公主を手に掛けることがないように自覚してもらう必要がある。
     彼はアシュタルの護国卿で、先だっての戦争でミンカラが花守山の宝である不老不死の実を求めていたことを知っているだろう。彼が代理人として──いや、アシュタルの護国卿としての使命を果たすならば、愛と共にシロツメ公主を切るに違いない。
     賭けだ、とセッカは思った。
     かつての主と同じ顔をした男が、守った相手を手に掛けるのは見たくなかった。

     シロツメ公主はヴルムに全てを告げることを戸惑った。
    「ヴルム様は羽が白くて…アシュタルでは色無し、というらしいのですが……それをとても苦しんできたのです。自分という存在を確立させるために、必死で戦って、それで──異例の年齢で護国卿に叙せられたと聞きました。そんな彼を否定しかねない苦しみを、与えることにはなりませんか?」
     ミンカラ様から直接頂いたご命令だからお前を妻にした、と結婚したての頃に彼がそう言っていたことをシロツメ公主はよく覚えている。
     自分の働きに対して、褒美として国母から直接頂いたのだと、それは嬉しそうだった。それが誇りで、最高の栄誉だということも理解している。
     だからこそ、歯車のひとつとして、ヴルムとしての個などどうでもよかったと言われるようなことを告げるのは、あまりに、あまりに酷だとシロツメ公主は思う。
    「公主、でもね」
    「私の気持ちを疑われるのは仕方がないことです。でもそれ以上にこのひとの存在自体を傷つけたくないのです」
    「口を挟むようで失礼ですが」
     第三者のヴィトロの言葉に、セッカとシロツメ公主は互いに視線を投げた。
    「そう刷り込みされてしまった公主には、それ以外考えられないのかもしれませんが、あなたが護国卿を真に愛していらっしゃるというのならば……」
     ヴィトロはそこまで言って、愛というもの、他者との関わりについて希薄なアルテファリタの民が言うことではないかなと一旦口を閉じてセッカを見た。
     視線が合って、ヴィトロの中で言葉を選ぶ迷いが消えた。
    「共に居たいと思うなら、信じることも必要ではないでしょうか」
    「全てを告げても、ヴルム様は理解してくださると?」
    「傷つくかもしれません、迷われるでしょう。でも……あなたが信じるならば、違いますか? あなたは冬清王殿下の代わりとして護国卿を愛したのではないでしょう?」
    「はい」
     シロツメ公主は即答だった。
     ──言えない事情があっても、お前の行動が示してくれてる、そうだな?──
     そう夫は言ってくれていたことを思い出す。
     夫は、信じているとそう言ってくれたのだから。
    「ありがとう、アルテファリタの執政官様」
    「ヴィトロです、名前で呼んで頂いて構いませんよ」
     告げた名前をうまく聞き取れなかったのか、シロツメ公主はセッカに視線を投げて小動物が道に迷ったかのような顔をする。
    「ヴィトロです。ヴィ、と、ろ。ンー…言いにくいですよね。俺たちの日常会話では出てこない音だしな」
    「セッカは言えますね」
     初耳だとヴィトロが問うとセッカは肩を竦めてみせる。
    「アルテファリタに留学するのに言葉が話せなくてどうするよ」
     シロツメ公主が困惑して口をもごつかせている。
     まるでリスのようだなとセッカは見下ろして思う。
    「う…ぃ…とろ様、う、…………うぃ…………ぃ……ーー」
    「あの、ご無理ならお好きなように……」
     必死になって舌を噛みそうになるシロツメ公主に、ヴィトロは優しく声をかける。ふたりは空気感が似ているなとセッカは思った。
     性格的にぶつかりあうことはなさそうだと思いつつ、ふと横たわったままのヴルムへ視線をなげた。
     顔はかつての主そのままだが、性格は随分と違う。こちらと自分はどうも噛み合う予感がしない。
     この鳥人の名前を、ヴルムと公主はきちんと発音していた。
     彼の名前の音と同じですよ、と言えばよかったかなと思ったが、恐らく公主は「ヴ」という音だけで覚えたわけではなく「ヴルム」という音の結びつきで発音をしているのだろうと思い至った。
     慈悲王に架せられた牢獄、冷たい死を待つ中で、名前など言えなくてもよかったはずだ。
     名前を呼びたいと、練習したのだろう。
     自分を死の旅路に送る処刑人の名前を、何度も──何度も。
     奇跡が起きた時に呼び続けることができるように。
     旦那様とか、夫殿とか、いかようにでも伴侶の呼び方はできる。
     地位が高くなればなるほど、よほど親密な関係でなければ個人の名前など口に出すことが憚れる花守山の習慣を、教育を受けたシロツメ公主ならば会得しているに違いないのだから。
     彼女は、彼を愛しているのだ。
     自分がヴィトロの名前に惑った時と重ねて思えば、その思いは痛いほどに分かる。
    「ヴルム様、どうか落ち着いて話を聞いて頂けますか」
     決心したシロツメ公主の言葉に、セッカは同じだけの決意を持って、かつての主と同じ顔をした護国卿へ向けた。
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    kei

    DONEhttps://poipiku.com/1425184/3449166.html
    ⇒ 繕うものたち
    二胡を弾く手を止めたのは、シロツメ公主の夫、アシュタルの護国卿ヴルムだった。
     気分よく聞いてくれていると思っていたので、驚いて弦を落とした。
     落ちた弦を夫が拾うが、ヴルムはシロツメ公主へ手渡さない。
    「聞きたいことがある」
    「な、なんでしょう、ヴルム様」
     一呼吸置いて、ヴルムは自分が感情的にならないように、意識して続けた。
    「お前に冬清王という婚約者がいたのは聞いてる。それがお前の目の前で死んだという話も聞いた」
     誰からそれを聞いたのか、と思うが答えはすぐにでてきた。アシュタルにはシロツメ公主を監視する目がいくつもある。その一つは直接慈悲王と繋がっている宰相ジブリールだ。
     シロツメ公主の視界が暗くなるのがヴルムにも分かったが話は止めなかった。
    「その婚約者は、アシュタルが殺したのか?」
     
     もう六年以上前のことだ。冬清王潤越とその従者セッカと三人で、国主領の山間に花見に出かけた。手を引かれ時に抱き上げてもらいながら、美しい景色を楽しんだ。
     今ならば行かないでと大泣きをしてでも止めただろう。
     戦時中とはいえ、国主宮も近いその丘が血塗れの惨状になることなど、だれも想像して 7531

    kei

    DONEhttps://poipiku.com/1425184/3457535.html⇒ 引き離せないもの三国を探し歩いても、これほど同じ顔の人間などいないものだ。
    「何だお前は」
     向き合うヴルムとセッカは同時に同じ言葉を発した。ヴルムは敵対心を持って、セッカは既視感を持って。
     似ている、というには似すぎている。冬清王の若い頃は知らなかったが、記憶の中のかつての主人の姿がきれいに重なり、目眩すら覚えた。
     しかも今シロツメ公主はこの男をヴルム様、と呼んだ。
     護国卿ヴルム、シロツメ公主が嫁入りした男の名前だ。
    「セッカ、離してください」
     シロツメ公主はヴルムの姿を認識すると、セッカへ警戒心を強めた。
     慈悲王がシロツメ公主に直接使者を送り、使命の遂行を即したことが一度だけあった。
     使者は冬清王と暮らした冬ノ宮で、短いながらも幸福な時を一緒に暮らした侍女だった。年が同じであったから再会した時は13歳で、彼女も嫁入りを控えていると、祝い事であるはずが暗い顔をしていた。
     「あなたが慈悲王から託された使命とやらを果たさなければ、実家も未来の夫の未来がない」と泣きながらすがりついてきたのだ。
     動揺するシロツメ公主の心が激しく揺れているうちに、その侍女一族は戦時中の反逆行為の濡れ衣を着せら 6140

    kei

    DONEhttps://poipiku.com/1425184/3485521.html ⇒引き離せないもの(2)四十歳になったとかいう話を数年前に聞いたが、花守山の仙人たちはまるで衰えがない。ジブリールの報告を受け、思慮に更ける慈悲王は鋭い眼光のまま、黙していた。
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     ──と、いうが、後者は建前上のものではないかと、ジブリールは思った。
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     シロツメ公主の教育過程を見ていたジブリールはそう結論づけていた。
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