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    花街の男衆パロ。
    モブの舞妓ちゃんがガツガツ語ります。
    なんちゃって京ことば。花街のしきたりは雰囲気。
    なんでも許せる方向け。
    そのうちおさすなになる予定。

    未定みなさんはご存知ですやろか?桜のつぼみがほころびはじめる頃、京都の花街では舞踊の会が開かれます。端午の節句の頃まで続く、春の風物詩どす。
    芸舞妓がその名のとおりその芸や舞を披露する舞台なんどすけど、それはもう色鮮やかで、あでやかなんどすえ。
    きっと外国人のお客さんはオー!ビューティフル!なんて言うてはるんでっしゃろなぁ。

    でもほら、言いますやろ?白鳥も優雅に泳いでるようで水面下では一生懸命水かきでかいてはるとか、シンクロナイズドスイミングなんてあれ、すごおますやんか。水中では必死の形相でもプールから出たらぱああああっ!と笑顔でっしゃろ?
    なんの話でしたやろ。そうそう、あでやかーな舞の世界も似たようなところがありますねん。もちろんお客様には微塵も感じさせたらあきまへんえ。そやけど踊りの会はうちら舞妓の日頃の鍛錬の成果を披露する場でもありますさかいに。

    つまり、舞台の裏ではうちら、もうくたくたなんどす。そやさかいご贔屓筋のお客さまから差し入れていただくごはんやお菓子、あらもうほんまに神どす。いやいろんな差し入れありますえ。どれもほんまにおいしいんやけど、最近舞妓の間で人気なのがおにぎりなんどす。え?地味?そんなん言うたらあきまへん。「おにぎり宮」さんのおにぎりはな、ほんまにホッとする味いうんか、作り手のおにぎりに対する愛が伝わってくるんどす。元気をもらえるっていうんか……。しかも!それだけやないんどす。うちはまだみたことないんどすけどおにぎり宮さんは店長さんがえらい美形やいうて屋形のお母さん方やら芸妓のお姉さん方、もちろん舞妓の間でもえろう噂になってますねんわ。
    おにぎり屋さんがそんな美形なんてことあるんですやろか?

    「そろそろ目ぇ覚ましてくれるか?」
    「はっ?!」
    低いけど柔らかくておっとりとした声色に現実世界へと呼び戻された。はて、うちは今……。
    目の前に鏡。お化粧をした自分の姿。お着物、今日は春らしい桜色……。
    「え、いややわ。うち、いつから寝てました?」
    「ほんの一瞬や」
    男衆のお兄さんは涼やかな目元をほんの少し細めて笑った。
    「でもまだ他の舞妓ちゃんのおこしらえもあるからな。踊りの会も続いてるし疲れてるやろけど気張りや」
    「あっはい、えろうすんまへん!」
    「あてにはええよ、そんなの」
    男衆のお兄さんは舞妓や芸妓の着付けが主な仕事である。女ばかりの花街にあって男性でありながら屋形に出入りできる唯一の職業であるがゆえに舞妓の身の回りの世話やら屋形における肉体労働まで全般を請け負ってくれる貴重な存在だ。
    「ほな帯締めるで」
    「おたの申します」
    お兄さんはまだ若いのにすごく滑らかに軽々と帯を締めていく。帯、言うても何キロもあるのに、お兄さんにかかるとまるでリボンくらいの軽さに思えるから不思議や。お兄さんが若くて体力があって背が高いからかもしれんけど、なんちゅうのか、こういうのにも才能とかセンスとかあるんちがうやろか、と思ってしまう。
    こんなん言うたら怒られるから心の中だけでしか言えんけど、うちはお兄さんのお父さんであるお兄さんにおこしらえしてもらうより、息子のこのお兄さんにしてもらうほうがうまくお座敷で踊れる気がするくらい。
    「……そらありがたいけど言うんは心の中だけにしときや。お兄さん悲しむやろ」
    「はっ?!」
    苦笑いを含んだお兄さんの声にまた我に返った。いつの間にやら口から全部出てしもうていたらしい。
    「いややわ、お兄さん堪忍して。誰にも言わんといておくれやす」
    「言わへんよ。でもやっぱり疲れとるんちがうか?まあ仕方ないけどなぁ」
    「そんなんこの時期言うてられません」
    そらもちろん疲れてる。おこしらえ中に寝てしまうとか前代未聞や。屋形のお母さんが知ったら大目玉や。でもうちが精一杯虚勢を張るとまあそうやなあ、と鏡越しにお兄さんは微笑んだ。皆まで言わんその優しさ。告げ口なんか絶対せえへん。舞妓の味方や。しかもこのお兄さんほんまに美形やと思うねん。うちが舞妓になって3年、昔からいてはるように思うてまうけど、うわさやとまだ20代らしいし。
    「ほら、できたで。次の子呼んできて」
    「はい、おおきに角名のお兄さん」
    「へえ、気張っておいで」
    角名のお兄さんはーーお父さんのお兄さんもいてはるから倫太郎お兄さんって呼ぶおかあさんや舞妓さんも多いーー締めたばかりのだらりの帯をポンと軽く叩いた。ほんの、ほんの少しのこと。でもそれがうちにはきれいに舞っておいでって背中を押してくれたように思えるんや。
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