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    aYa62AOT

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    モブジャンからのライジャン。
    所謂団地妻のジャンと宅配便のお兄さんのライナーが恋に落ちるお話。
    ジャンが26歳、ライナーが24歳の設定です。
    続き物です。

    #ライジャン
    laijun
    #NTR

    虹色の箱庭①「——よし。」
     開け放ったベランダから初夏の少しぬるい風が吹き抜ける午後、ジャンはダイニングテーブルを占領するジップロックの作り置きの料理を段ボールへと詰めてガムテープを貼り終え一息吐き出す。
     宛名は地方へ単身赴任中の夫の住所、ぺたりと貼り付けたそれに「食品」とだけ書いて換気扇の轟々と音を立てるキッチンでぼんやりその箱を見下ろす。きっと冷凍庫の隅で眠りに眠ってゴミ箱行きのそれをせっせと形だけ詰める自分の馬鹿らしさにジャンは一人、先程よりずっと深く深く息を吐いた。

     ジャンは26歳、大学卒業と同時に年上の恋人と結婚してもう4年、夫が単身赴任を始めてもう2年経っていた。まだ新婚と言ってもおかしくない筈の自分達は既に熟年夫婦の様にどこか、隙間風が吹いている。
     自分を赴任先へ連れて行かなかった夫がまさに、それを物語っていた。
     それでも所謂「妻」としての役割を果たそうとしている自分に辟易としながらジャンは今日も馴染みの宅配業者へ集荷依頼をする。

     依頼をしてから1時間ほどして無機質なチャイムが鳴り響く、自分の心持ちのせいか箱よりずっと重さのある段ボールを玄関先まで運んでジャンは扉を開く。
     扉の先では実に爽やかな笑顔の馴染みの配達員が汗の滲んだ額を腕で拭いながら初夏に似合いの爽やかな笑顔で待ち構えていた。
    「こんにちは、集荷に参りました。」
    「いつもすみません、暑いのに」
    「いえ、仕事ですから」
     なんて当たり障りない会話をしてもう習慣になっている冷えた缶コーヒーを手渡す。少し年下だろう配達員、ライナーは嬉しげな顔でそれを受け取る。地元からも離れ、頼りの夫もいない自分が会話の出来る数少ない人間であるライナーをジャンは勝手に、どこか信頼している節があった。
    「あの、…もし迷惑でなければ、また…」
    「……あ、はい!今の所特に集荷依頼も配達もないので」
    「よかった、すみません…いつもいつも」
     そう言ってジャンは一度キッチンへ引っ込んで冷蔵庫から切り分けたスイカを手に戻ってくる。一人だから、と何度言っても季節の贈り物を欠かさず大量に送ってくれる母に頭を抱え、休憩がてらにと振る舞ったのが始まりでジャンはもう何度もライナーへとこうして果物を振る舞っている。迷惑そうな顔を全く見せないライナーへ甘えてしまっている自分が情けなく図々しさを感じながらもジャンはこうして、ライナーをもてなしている。
     一人で黙々と母の優しさを消費するのはどうにも心が苦しくて、堪らなく辛かった。
    「いつもすみません」
    「いえ、こっちこそいつもご馳走になって」
    「一人じゃなかなか減らなくて」
    「そう、なんですね」
     玄関先に腰掛けてライナーは冷えた甘いスイカを咀嚼する、目の前に座るジャンのその先のリビングから吹き抜ける風に目を細めながらテレビボードの隅に鎮座する写真立ての横顔をチラと目に留めぼんやりとまだ見ぬジャンの夫の顔を想像する。
     まだ家中に少しばかり漂う愛情の篭っているだろう料理達を受け取る夫の顔を。
     目の前の人にどこか寂しげな憂いを纏わせている元凶であるその男の顔を。
    「ご主人は幸せ者ですね」
    「——え、」
     余計な言葉がライナーの口をつく、きっと触れられたくないだろうそれを、ずっと言わずにいたそれが口をついて出る。驚いたジャンの綺麗に整えられた前髪がはらりと風にそよいで乱れた。
    完璧そうな彼の、何かが剥がれた。ライナーはそんな気がしてゴクリと喉を鳴らす。
    「……いつも、箱いっぱい料理送ってるみたいだから」
    「……どうだろう、余計なお節介かも」
    「俺なら、毎日家の方に手ぇ合わせて食いますよ!」
    「……っぷは、なんだそれ、!」
     ライナーがパチンと手を合わせて拝む姿にジャンは思わず吹き出して楽しげに笑い出す、初めて見る本当の無垢な笑顔にライナーは思わずドキリと胸を弾ませる。
     いつも凛とした、でもどこか憂いを帯びた彼の顔とは違う無邪気な笑顔にライナーの胸は高鳴る。
    「笑ってた方が、いいっすよ」
    「……あ、え…と」
     ライナーの胸ポケットのスマートフォンが音を立て、震える。何かしらの業務連絡のそれに慌てて電話を取ると再配達依頼らしくどこか淡く熱を帯びた空気が一瞬にして元の「客」と「配達員」の空気を連れてくる。
    「すみません、引き止めて」
    「いえ、いつもごちそうさまです。お荷物お預かりしますね」
    「よろしくお願いします」
     そんな短い会話を交わして玄関先へ座る二人は立ち上がる、手を伸ばせば容易く触れ合える距離が二人を逆に冷静にさせて現実へ引き戻す。
     閉まった扉の先から聞こえる遠くなる足音にジャンは一人、また部屋に立ち込め始めた孤独の空気に飲み込まれる。
     決して今はもう夫の体を気遣うだけでは無い、配達員のライナーを待ちわびるほんの少しの罪悪感を秘めた荷物を毎週せっせと詰める自分にジャンは溜息を吐く。

     そんなジャンをまるで責めるようにビュウ、と強い風が部屋へ吹き抜けてテレビボードから写真立てが揺れて床へと落ちた。

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    Replies from the creator

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    aYa62AOT

    DONE美味しいチョコありがとうございました。
    ハピエン厨ですびばぜん!!!
    ライナーへチョコを渡せなかったジャンの話 ジャンはもう30分右へ左へウロウロとショッピングモールのチョコ売り場の前を行ったり来たり繰り返している、ここ数日売り場の前を行ったり来たりしては帰るばかりだったものの流石に今日は買わなければと意を決したようにジャンは漸く、売り場の中へと足を踏み入れる。
     友チョコ、なんてものがあるとは言えやはり居心地は悪い、しかし手近にあるチョコを買って帰る事はせずにしっかりチョコを吟味する辺りにジャンの生真面目さやプレゼントする相手への気持ちの強さが窺えた。
    「——よし、これだ」
     売り場に入ってから少しばかり急ぎ足で一周ぐるりと回って決めたビターテイストのトリュフチョコの詰め合わせを手に取る、黒に金字で文字の書かれたシンプルでシックな包装紙はきっと幾つも可愛らしいチョコを貰うであろう相手の目を引くはずだ。なんて打算的なことも思いながらジャンはレジへと向かう。支払いの間はやっぱり気恥しさから俯きマフラーへ口元を埋めながらボソボソと返事をして足早に店を出る、駆け足に売り場から何十メートルか離れたところで漸くジャンはホッと息を吐き出す。
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