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    花月ゆき

    @yuki_bluesky

    20↑(成人済み)。赤安大好き。
    アニメ放送日もしくは本誌発売日以降にネタバレすることがあります。

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    花月ゆき

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    秀零の日。
    記憶喪失&身体だけ縮んだ赤安(中学生)が、工藤邸で一緒に住んでいる設定です。
    https://poipiku.com/1436391/9417680.html
    https://poipiku.com/1436391/9650469.html

    #赤安

    Heartfelt Memories(旧題:記憶は心の底に)②―コナンSide 11月―


     秋を迎え、冬の訪れを感じはじめる頃。
     コナンはしばらく訪れていなかった工藤邸へとやってきた。降谷からメールで、「夜ごはん作り過ぎちゃったから、コナン君も食べにおいで」と誘われたからだ。しばらく二人の顔を見ていなかったので、ちょうどよいタイミングだと思いながら、コナンは降谷の誘いに乗ることにした。
     夕刻。本来の自分の自宅に辿り着くと、玄関先からすでに赤井と降谷の声が聞こえてきて、コナンは心の中でこっそりと笑う。
     身体が縮む前、二人は恋人同士だった。様々な苦難もあったが、自分が知る二人は、すごく相性もよく、仲の良い関係へと落ち着きつつあった。
     毒薬を飲んで中学生になってしまった二人は、記憶まで失っている。だが、二人の言葉のやり取りを聞くたびに、根は変わらないと思えるのだ。
    「うわぁ……すごいね!」
     部屋に入ってすぐ、コナンは思わず声を上げてしまった。いったい何人分の食事なのだろうか。想像していた以上に、テーブルの上は料理で溢れかえっていた。降谷が苦笑して言った。
    「今日はパーティーをしようと思って昨晩から仕込んでいたんだけど、結構な量になってしまってね。来てくれて助かるよ」
    「パーティーって、何かお祝いしたいことでもあるの?」
     もしそうならば、プレゼントのひとつでも持ってくればよかった。そんなことを考えていると、赤井がグラスに炭酸水を注ぎながら言った。
    「今日は十一月十日。十日は俺と零君の日だからな」
    「先月は何もできなかったからね。今月はちょっとそれらしくしてみようかなと思ったんだよ」
     楽しそうに声を弾ませている二人を見ながら、コナンは先月の出来事を思い出した。あれから二人は、十日を記念日にすることにしたらしい。
     意外と記念日にはこだわるタイプなのだろうか。テーブルの上に並ぶ料理を見ていると、降谷の気合が手に取るようにわかる。料理の他には、ホールケーキもあった。もしかしてこれも手作りなのだろうか。
    「ケーキも零兄ちゃんが作ったの?」
    「そうだよ。あ、イチゴを乗せたのは赤井だけどね」
    「あか……秀一兄ちゃんが」
     真っ白なホイップクリームの上に乗っているイチゴを見つめながら、赤井がイチゴを乗せる姿を想像してしまい、コナンは笑ってしまった。降谷もつられるように笑う。降谷は実際にその様子を見ていたので、思い出し笑いをしているようだ。
    「見て、コナン君。ここまで均等な配置は赤井にしかできないよ。狙った場所に置くのがうまいんだろうね」
     降谷の言葉に、コナンは思わずどきりとしてしまう。
     身体が縮む前の赤井は、狙い通りの場所に銃弾を届ける、FBI随一のスナイパーだ。まるでそれを連想させるような言葉に、一瞬、降谷が記憶を取り戻しかけたのかとコナンは思ってしまう。だが、自身の発言を降谷は何も気に留めていないようだった。自然と口から出た言葉なのだろう。
    「久しぶりに零君に褒められたような気がするよ」
     降谷に褒められて少し照れくさそうにしている赤井と、思い出し笑いを続けている降谷。二人が毒薬を飲んだという事実が信じられなくなるほど、穏やかな時間が流れている。
     冷めないうちに食べよう! という降谷の声に従って、コナンは席についた。
     降谷の作った料理をお腹いっぱいに食べ、イチゴが均等に乗ったケーキも食べ終えると、夜も遅い時間になっていた。
     降谷の提案で、今夜は泊めさせてもらうことになった。明日は土曜日で学校も休みなので、三人とも宿題は後回しにして、最近話題の連続殺人事件について意見を交わし合う。しだいに赤井と降谷の意見が対立しはじめ、どことなく居心地の悪さを感じて、コナンは食事の後片付けをすることにした。
     手伝おうとする赤井と降谷に、「これくらい僕ひとりでもできるよ!」と言い、二人をその場に残したまま、シンクへと向かう。食事の量も多かったので、思っていた以上に片付けに時間がかかってしまったが、片づけを終える頃には、キッチンまで届いていた二人の声も、聞こえなくなっていた。
     ちょうど落ち着いた頃だろうかと部屋に戻る。すると、赤井と降谷はソファに座ったまま目を閉じていた。赤井の肩に、降谷が頭をあずけている。黒の組織のことも、FBIのことも、公安のことも、すべてを忘れてしまった二人は、穏やかな表情で眠っている。
     このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。コナンは寝室から毛布を持ってきて、二人の上にそっとかけた。
     そこで、コナンは見てしまった。赤井の手が、降谷の手を無意識のうちにぎゅっと握りしめるのを。
    「……零」
     寝言なのだろうか。赤井の声に、コナンは目を見開く。
     身体の縮んだ赤井は、降谷のことを“零君”、縮む前は“降谷君”と呼んでいたように記憶している。“零”は、特別なとき――たとえば恋人として二人きりでいるとき――に紡がれる呼び名なのかもしれない。
     夢の中で、恋人の降谷と一緒にいるのだろうか。
     記憶が完全に消えてはいない証拠を再び目の前にして、コナンは安堵を覚えるのと同時に、今のこの状況をもどかしいとすら思う。
     今すぐにでも、二人に記憶を取り戻してもらいたい。本当は恋人同士なのに、それを忘れているのは、あまりにも切ないことだ。
     だが、今はまだそっとしておくべきなのかもしれないとコナンは思った。どんなに大人びていても、記憶を失った今の二人は、ただの中学生。早く記憶を取り戻させようとしても、今はまだ、二人を混乱させるだけのような気がする。
     せめて夢の中では、二人が恋人同士でいられますように。
     そんな願いをこめながら。コナンは二人の寝顔を見守ったあと、静かに自分の部屋へと戻った。
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