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    yo_lu26

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    展示②『掌のアズライト・ジェード』
    第4回アズジェイwebオンリー
    2022年3月25日(土) 22:00〜翌21:50展示作品。

    観○少女パロの全年齢作品です。原作知らなくても読めると思います。ふわふわ甘々の少女漫画です。🐙と🦈がルームシェアをしていて、成人済という設定です。

    #アズジェイ
    azj

    てのひらのアズライト・ジェード その日、仕事仲間でありアズールとルームシェアをしている幼馴染のフロイドがへべれけに酔って買ってきたものは、世にも珍しく美しいナニカだった。
    「アクア・プラン虫(ちゅう)?」
     ふらつく彼をソファになんとか座らせて水を飲ませなから、アズールは怪訝そうに形の良い眉を片側だけはねあげる。
    「そ~~~~ぉ♡ なあんかあ、すっげぇめずらしーんだってぇ! 綺麗だしぃ、めっちゃ安かったからさぁ……。アズールにおみやげえ~~~♡」
     ふらふらふわふわと不必要なほどに甘ったれるように語尾を伸ばしながら、フロイドはアズールの肩にもたれて手に持った巾着状の水の入ったビニール袋をぷらぷらと彼の眼前に揺らす。
    「いくらで買ったんですか」
    「ん~~~300マドルだっけ? 3万マドル? 30万かなぁ? いくらか忘れたぁー」
     めっちゃ安い、と言った割に金額がめちゃくちゃである。ため息を吐きながら、巨体を支えたアズールはフロイドから袋を受け取る。照明に透かすと、うっすらと青くほんのりと光っている球体の何かが入っていた。大きめのビー玉くらいのサイズで、光はときどき不規則にゆらめている。まん丸い玉のようだと思っていたものには、よくみると繊細な透かし模様が刻まれている。材質は珊瑚か何かだろうか。周りを覆う珊瑚の殻自体は白いが、中の光が青いために薄く水色に色づいていて美しかった。
    「確かに綺麗ですけど。これはなんなんです?」
    「だーからぁ、あきゅあぷらんちゅーーー♡ だってばあ笑。ぷらんちゅ♡」
     何がおかしいのか、けらけらと笑いはじめたフロイドの脳みそはいよいよ使い物にならない。ぷらんちゅーと言い終わった口の形のままで、ふざけてアズールの頬をめがけて唇をぶつけてこようとするので、アズールは早くシャワーを浴びて、ベッドルームに行ってしまえ、と彼を部屋から追い出した。
     部屋に残されたのは、アズールとぷらん虫(?)の二人だけ。そもそもこれは生き物なのだろうか。仮にアクセサリーだと言われても納得してしまいそうな美しさだ。しかし、中の光がもぞもぞと動いているように見えるから、やはり生きているのだろう。プラン虫というからには、虫の仲間なのか?それにしては優美すぎる気もするし、水の中で生きるなら水棲生物の類なのだろうか。
    「容器に入れてやった方がいいんですかね。まてよ、普通の水道水でいいんでしょうか……」
     手元の電子端末をスイスイとスクロールするけれど、ぷらん虫の検索結果は0件だった。困ったアズールは、とりあえず使わなくなったコップの中に水ごとその球状の何かを入れることにした。そっと机の上の間接照明のそばに置くと、珊瑚の殻を通して柔らかい光の波紋が机上に散って、まるで海のように光がゆらめく。
    「ふふ。綺麗ですね。インテリアとしても悪くありません。明日、水質の管理も含めてフロイドにもっと詳しく聞き出しましょう」
     上機嫌でアズールは眠りについたが、翌日フロイドと揃って、目を剥くことになる。

    「なんか、一晩で大きくなってません?」
     グラスの中できらきらと光っていたビー玉が今はテニスボール大の大きさになっていた。グラスから取り出せるかどうか微妙なサイズだ。
    「あれ、アズール。ソレ何? 新種のマリモ?」
     起きてきたフロイドが欠伸混じりに、アズールのそばまでやってきた。
    「お前が買ってきたんだろうが! 聞きたいのはこっちですよ! 急に成長してるし、なんなんですかこれは!」
    「え?! オレが買ってきたの? やべー、なんも覚えてねーわ……。なんか、アヤシイ露天商のおっちゃんと意気投合したことまでは覚えてんだけど……」
    「絶対そこで買っただろ。店の場所は覚えてますか? 飼育方法なんかは?」
    「昨日どーやって帰ってきたのかも思い出せないから、店の場所も忘れちゃった。飼育方法……。あ、もしかしてこれじゃね?」
     フロイドは昨日着ていたジャケットのポケットからしわくちゃのレシートや小銭と共に折り畳まれた紙を取り出した。「アクア・プランツのお世話の仕方」と手書きで書かれた一枚紙の皺を伸ばしテーブルの上に広げる。プラン虫じゃなくて、プランツじゃないか。アズールは昨日の酔っ払いの陽気で無責任な発音を思い出して苦笑いした。プランツならばアズールにも心当たりがある。富裕層にしか手にできない奇跡の生きた人形の呼び名だ。観用少女と呼ばれるそれらには、庶民には一生働いても手にできないほどの値がつけられているという。目の前のグラスの中の存在が、果たして本物のプランツかどうかは不明だが。
     紙に書かれた内容はシンプルだった。【アクア・プランツは光合成で成長します。よく陽に当ててあげてください。食事は必要ありません。基本的に水の中で生活します。水は水道水でOKですが、なるべく小さい入れ物で生活させると育ちすぎることを防げます】分かりやすいが、いかんせん情報が足りなかった。昨日うっかり間接照明を消し忘れて眠ってしまったために、だいぶサイズ感が変わっているから、光合成をするというのは本当だろう。人工照明でも構わないらしい。
    「みて! アズール! なんか動いてる!」
     グラスの中を覗き込んでいたフロイドが大きな声を出した。覗くと、珊瑚の隙間から人間の顔と手のようなものが見える。そして、丸まっている長くて青い尾鰭がゆっくりと淡い光を放っていた。小さな小さな人魚が珊瑚の殻の中に入って眠っている。こぽこぽと小さな泡が出ているから呼吸をしているようだった。時折、くるりくるりと寝返りを打ちそのたびにまん丸の殻がくるくると揺れていた。
    「に、人魚?!」
     アズールは思わずグラスを両手でつかんでもっとよく見ようと顔を近づけた。興奮で声が裏返った。珊瑚の殻が昨日よりも薄くなって、うっすらと透き通り真珠にも似た輝きを放っている。こんな綺麗なものは今までみたことがない。もしかして、かなりの価値がつくのでは?
    「これは! 商売に……「ならねーって」
     すぐに目の色を変えたアズールにフロイドが釘を刺す。フロイドがアズールの手からグラスを取り上げた。
    「綺麗だけど、得体がしれねーし、買ってきたオレが言うのもなんだけど、合法なのかもよくわかんねーし。安全なビジネスのタネにはなんないでしょ。育て方の情報もいい加減な紙切れ一枚しかないし、慎重にやんないとすぐに死んじゃうかもよ」
     それは困る、とアズールは瞬時に思いついた5パターンくらいのビジネスに関する妄想を胸の奥にしまいこんだ。
    「オマエ、危うくアズールに売られるところだったよ、かわいそぉにねぇ」
     こんなに小さくてかわいいのに、とフロイドが水の中に人差し指をいれて、つんつん、とつついた。すると、中の人魚がかすかにむずがるような表情をした。
    「アは♡  髪の色もお揃いだし、こいつオレにちょっと似てね?」
     機嫌良く自分の顔の横にグラスをくっつけて、アズールの方をみる。よく見れば、なるほど確かによく似ていた。
    「ええ。言われてみると似ていますね。まあ、人魚の方が百倍かわいいですけど」
    「ええ~。オレもよくオンナノコ達からフロイドさんてかわいい♡って言われるのになぁ」
    「それは主にピンクの派手な名刺を配っている女性達からの評価でしょう」
    「そーそー。よくわかったねぇ。あ、やば。そろそろ出る準備しないと」
     軽口を叩き合いながら、二人は朝の支度にとりかかる。グラスから、深めのガラスボウルの中に移動させて、小さな人魚が思う存分日光浴ができるように窓辺の日当たりの良い場所においてやった。今日の仕事の帰りに金魚鉢を買って帰ろう。二人はそんな算段をつけて、足早に職場へと向かった。
     三日後、金魚鉢の中ですくすくと育ち林檎くらいの大きさになった丸い殻の向こうで、小さい人魚は時々目覚めるようになった。
    「あ、今目を開けましたよ」
    「本当だ。左右で目の色が違うとこまで、オレとおんなじでウケる」
     二人で顔を寄せ合ってしげしげと金魚鉢の中を覗き込む。殻越しに、アズールと人魚の目が合った。指輪についている宝石くらいのサイズのキラキラとしたオリーブとゴールドがこちらをじっと見つめていた。
    「綺麗ですね、本当に」
     アズールがしみじみとつぶやいた。そんなアズールの横顔を、フロイドはじっと見つめた。
    (あれ。なんか、アズールおだやかな顔してる)
     古い付き合いの友人だが、彼のそんな柔らかい顔は滅多に見ない。アズールはどちらかというときつめで大人っぽい顔立ちをしているからだ。口に出すと、アズールはきっとすぐにきまり悪げに、いつも通りのすました表情を浮かべてしまうだろうから、フロイドはあえて言わなかった。
    「名前。どうする?」
     アズールはもうきっとこの人魚を手放さないだろう。フロイドには確信があった。
    「そうですね……。ジェイド、というのはどうでしょうか。鱗が少し緑がかっていて翡翠色に似ているので」
    「宝石の名前にちなんで、ジェイドねぇ。いいんじゃない? アズールの名前とお揃いだし」
    「は? 別に僕の名前とお揃いでは……」
    「アズライト。っていう、アズールブルーの石があるでしょ。最近、宝石の卸業の方にも噛んでるアズールが知らねえ筈ないよねぇ」
     にやにや笑うフロイドにアズールが答えに窮していると、フロイドは殻の隙間から指を差し込んで彼の小さい頭を指先でこちょこちょと撫でた。
    「名前つけてもらえてよかったねぇ、ジェイド」
     撫でられたジェイドは気持ちよさそうに目を細めると、そのまま眠ってしまった。
    「寝ちゃった。本当にまだ稚魚ちゃんなんだねえ」
     まだジェイドはそんなに長い時間は起きていられない。一日の大半をゆらゆらと微睡みながら過ごしている。アズールはジェイドが起きている貴重な時間にそばにいたくて、こっそり在宅勤務になるように勤務を調整した。フロイドはずるいずるいとやかましかったけれど、フロイドには在宅勤務は向いていないということは自他共に認めるところであったので、彼だけしぶしぶ外に出勤している。
     二週間くらいで、それなりに大きかったはずの金魚鉢はずいぶんとジェイドにとって手狭になってしまった。今の殻は手毬くらいの大きさである。すると、今度はひと抱えほどもある巨大な水槽をフロイドが買ってきた。
    「ここまできたらさあ、どこまでおっきくなるのか試してみたくない?」
     いたずらっ子の笑顔になったフロイドに、アズールも正直反対する気にはなれなかった。大きくなったジェイドを見てみたいという誘惑に勝てない。結局、店で買える一番大きなサイズの水槽はベランダに面する一番日当たりのいい窓の前のスペースの3分の2を占めることになった。ジェイドは日々成長を続ける。日中、日の光を浴びてジェイドが気持ちよさそうに殻の中で伸びをするのを見ていると、和やかな気持ちになって癒された。アズールはしょっちゅう、仕事の手を止めてはジェイドを眺めに水槽のそばにいった。アズールが近づいてくると、ジェイドはじっとアズールを見つめる。一ヶ月くらいかけて、もう殻は水槽いっぱいの大きさになって、中のジェイドはアザラシの子供くらいの大きさになっている。殻はかなり細く薄くなっていた。この殻はいつか割れるのかもしれない。殻を破ったら、ジェイドは成体になるのだろうか。殻がなくなったら海に連れて行って、泳がせてやってもいいかもしれない。いや、いきなり海は危ないから、まずはプライベートプールなどを貸し切ってやるのがいいだろう。そもそも人魚の姿をしているけれど、ジェイドが泳いでいるところをみたことがない。丸い殻に守られてふよふよぷかぷか漂っているだけなのだ。ジェイドはちゃんと泳げるのだろうか。もし、泳げないようなら教えてやらなければ。人魚に自分が泳ぎを教えるなんて。あれこれと先のことを考えながら、よぎった自分の想像にふっと頬が緩む。アズールが笑ったのをみて、ジェイドの頬がほわっと少し赤くなった。殻の隙間はだいぶ広がって、アズールの手が余裕で入るくらいになっていた。アズールは殻を壊さないようにそうっとジェイドの頭に手を伸ばした。ちゃぷ、と水面を割った手がジェイドに触れる。日光に温められた水がぬるい。ゆるりと水をかき回すように彼の髪の毛の表面を撫ぜると、ジェイドは大人しくアズールの手に頭を預けて、すり、と掌に懐いた。以前はリングビジューくらいの大きさだったその瞳は、今ではもう飴玉くらいの大きさでもってアズールの姿を捉えている。白くて滑らかな頬をつつくと口元からぷくぷくと漏れる泡がアズールの指の隙間をなぞってくすぐったかった。水越しに眺めていれば満足していた彼の存在に、触れたいと思うようになったのはいつからだろう。はやく殻が割れればいいのに。そうしたら、もっと彼に遠慮せずに触れられる。
     ジェイドが気になって集中力を欠いてしまうので、アズールはこれでは作業効率が落ちてしまうと思ったけれど、こまめに休憩をとるのが却ってよかったようで、ジェイドと一緒に仕事をするようになってから仕事がとてもよく捗るようになった。そしてさらに数日が経ち、麗らかな春の日の午後、大きくなったジェイドの殻はアズールとフロイドが眺めている前で、ぱりん、と飴細工を割るような軽い音を立てて割れた。
    「ジェイド!」
     常にない事態に、大きな声をあげたアズールが急いでジェイドの水槽のそばに駆けつけた。殻の破片を頭に乗せて、ジェイドは水面からぷかりと顔を出した。
    「大丈夫ですか」
     殻が割れても、特にジェイドに大きな変化はなく元気そうだった。ぽろぽろと頭の上から落ちてくる殻の欠片にうっとうしそうに目を細め、ぷるぷると首を振っている。別に異常事態が起きたから殻が割れたわけではないらしい。自然に割れたようだ。ほっとしたアズールがジェイドの頭の上に散らばった殻を丁寧に拾ってやる。
    「ジェイド、水の中に入ってなくて大丈夫なの? 息とか平気?」
     フロイドが尋ねると返事の代わりにジェイドは手を伸ばして、水槽のふちをはっしと掴む。ふうふうと小さくも勇ましい呼吸で腕に力を込めているので、普通に口からも呼吸ができるらしい。そしてそのまま腕の力だけで伸びあがろうとして失敗して、ぱしゃんっと水の中に逆戻りした。まだうまく手先をコントロールできないようだ。尾鰭で不満げに水面を叩いて、ジェイドは再び手を伸ばした。うんと短い腕をまっすぐにアズールの方に向かって。まるで抱っこをせがむように。
    「どうしたんだ、ジェイド。外に出たいのか?」
     これまでジェイドは、明確な意思を示すことが少なかった。ゆらりゆらりと水の中で夢見るような眼差しでこちらを見つめているだけの存在だった。それが、今、明瞭にアズールに向かって意思表示をしている。アズールは少々困惑しながらもジェイドの両脇に手を差し込んで服が濡れるのも構わずに抱き上げてやる。ざぷざぷと水を跳ね散らかしながら、しっかりと彼の両腕の中におさまると、ジェイドは水かきのある手でアズールの服を掴んだ。服に爪がひっかかるが、爪はまだ柔らかく木の芽のようで、痛くはない。てっきり殻が破れればもう成体なのかと思ったけれど、まだまだ子供のようだ。きゅっとしがみついたまま、顎先をぺたりとアズールの胸板に押しつけてジェイドは濡れたように光る目でアズールを一心に見上げてきた。幼いその顔を覗き込むように視線を合わせると、アズールの銀の髪がジェイドの頬に柔らかな灰色の影を作る。ジェイドの顔に髪の先がわずかに触れると、ジェイドは少しくすぐったそうに頬を震わせた。翳ったライム色と鈍色の金を縁取る睫毛に濡れた水滴の玉が細かくついていて、ジェイドが瞬きをするたびにそのうちのいくつかがつるつるとアズールのシャツの上に雫となって滑り落ちていく。ジェイドの顔立ちはあまりにも整いすぎていていっそ作り物めいた美しさだったが、アズールの胸元には確かに温かな体温があった。ジェイドはあまり表情を変えない。ただ、その瞳は雄弁だったのでアズールとフロイドはジェイドが無表情でも大体、彼の体調や様子が把握できた。今、アズールが読み取ったジェイドの瞳の中の感情は喜びだ。ジェイドは確かに静かに喜んでいる。長い尾鰭の先は垂れてゆらゆらと揺れていたが、いつのまにかフロイドのほうにそろそろと持ち上がり彼の腕の上にぺちっと触れると、そのままくるりと巻きついた。まるで腕時計のようになっている尾鰭の先の愛らしい仕草にフロイドはくすくすと笑う。
    「何? オレにもここにいてほしーってこと?」
     応えるようにきゅっと巻きつく力が強くなった。フロイドが撫でてやったジェイドの尾鰭はすべすべのつるつるだった。
    「人魚を抱っこするなんて、稀有な体験、ジェイドがいなかったらできませんでしたね」
     アズールはしがみつかれたまま、機嫌よくジェイドをゆっくりとあやしてやった。ちょうど人間の幼児位の重さと大きさだ。ジェイドは静かなまま揺られていて、少し眠たそうに瞼が落ちかけている。
    「確かにそうかも。ねえ、オレも抱っこしたい。おいでぇ、ジェイド」
     フロイドの方が身長が高いので、抱き上げられたジェイドは視線が高くなる。フロイドは前向きに抱えるようにだっこをしたので、ジェイドはフロイドの腕に爪を立ててしっかりしがみついた。うとうとしかけているところに急に抱っこの相手が変わったので、少し驚いてはいたものの、ジェイドは別に嫌がる風でもなくフロイドに後頭部をぐりぐりこすりつけて彼を見上げようとしていた。フロイドが尾びれの方もしっかり支えてやっていたので、フロイドの手首に巻きついた細い尾びれの先がしゅるりとほどかれる。ほどかれた先はアズールの手の甲に伸ばされた。ぺと、と尾鰭を手の甲にくっつけられてアズールは思わず笑ってしまう。体のどこかをどうしても二人にくっつけていたいらしい。少し悪戯心が湧いてきて、尾びれの先端を戯れにキュッと掴んでやると、掴んだ手ごとぶんぶんとジェイドが尾びれを振った。意外と力強い動きにアズールは驚く。
    「小さいけど、結構力強いね。オレの腕もがっしり掴んでくるし、その尾びれではたかれたら痛そう」
     フロイドが試しに尾びれを支えている手を外してみたら、ぷらん、とそのまま腕の力だけでフロイドにつかまっていることができた。尾びれの先は変わらず、アズールの手の中でふりふりと動いている。
    「おーじょうずじょうず。器用だねえ、ジェイド」
     そろそろ戻ろっか、とフロイドによってジェイドが水槽に戻される。アズールの手の中からするりと尾鰭の先が抜けていく。ジェイドは素直に一旦水槽の中に沈んだが、間をおかず、また水槽の端によじのぼろうとした。
    「こら、危ないでしょう」
     アズールがジェイドの手を掴んで外させると、そのままジェイドは両手でアズールの指を掴んで離さなくなった。なかなか力が強くて、そう簡単には外れなさそうだ。
    「アズールめっちゃ懐かれてんね笑」
     フロイドが笑いながら、スマホで写真を撮った。水の中に一緒に来てくれとでもいうように、ジェイドは無言でぐいぐいとアズールを一生懸命に引っ張る。その仕草はいじらしいが、アズールはジェイドと一緒にその水槽の中に入ってやるわけにはいかない。さっきあやしてやったときに、眠たそうにしていたことを思い出したアズールは、ジェイドに指先を掴まれたまま掌でジェイドの腹を撫でた。何度かゆっくりと大きく手を動かしてやると、ゆるゆると瞼が下がり始め、五分もたたないうちにあっけなく、すぅ、と安らかな寝息を立て始め、アズールからするっと手を離して水の中にぽちゃりと沈んだ。
    「あ、寝た」
     フロイドが再び、寝顔を写真に撮る。
    「まるで人間の赤ん坊のようですね」
     寝顔を見つめるアズールの視線があまりに愛おしげだったので、フロイドはついでにアズールの横顔もカメラに収めた。こんなしまりのない顔をしていたと、いつか酒の席でネタにしてやろうと思って、フロイドはアルバムに並んだジェイドとアズールの写真を満足げに眺めた。

     ジェイドの成長はめざましかった。だんだんとこちらの話す言葉も分かるようになってきたようで、意思の疎通がある程度できるようになった。はじめのうちこそ、無理やり水槽から出たがって、もがいた挙句に水槽をひっくり返してしまうこともあったけれど、そのたびにアズールやフロイドが慌ててやってきて困っているのをみて、危ないからと繰り返し言われるうちに実力行使に出ることはなくなった。代わりに、構って欲しい時にはぱしゃぱしゃと水面を尾ひれで叩いたり、コツコツと水槽を叩くようになった。聞き分けも比較的よく、二人が手が離せない時にはフロイドが買ってきたキノコの玩具で大人しく遊んで待つことができた。殻が割れて、二人と触れ合ってよく遊んでもらうようになってからは、少しずつ表情も変化するようになった。今日もジェイドはよく晴れたベランダでフロイドに遊んでもらっている。ジェイドの顔に手で作った水鉄砲から水を飛ばして、頬にかかった水にジェイドがはしゃぐのをみて、フロイドは笑った。水をかけられたジェイドは口からぴゅうっとフロイドの顔めがけて水を飛ばして仕返しをしたので、フロイドの服はびしょびしょだ。それでも彼は気にせず愉快そうにしていた。ジェイドと遊ぶのが上手いのはどちらかというとフロイドの方だ。もちろんアズールもジェイドと遊ぶのだが、いかんせん遊びの引き出しが少ないのですぐにネタが尽きてしまう。フロイドのように次から次へと新しい遊びを思いついてジェイドをからかったり、構ってやることができないのだ。もっともジェイドは、とくに何もしてもらわなくてもアズールにしがみついているだけで機嫌良くしているのだけれど。アズールはテーブルに腰掛けて、経済誌を広げながら仲睦まじく遊ぶ二人の様子を見るともなしに眺めていた。遊び疲れると、ジェイドはアズールに抱っこを求める。アズールの膝の上に乗せられて、彼にあやされて昼寝をするのが最近のジェイドのお気に入りだった。このルーティンのために家にいる時のアズールは濡れても構わないラフな服を着るようにしている。
     ジェイドはすくすくと成長しており大変可愛らしいが、ひとつ、アズールの頭を悩ませていることがあった。ジェイドが食べ物に強い興味を持つようになってきているのだ。特に、アズールが食べているものに興味津々なようで、膝に乗せてもらっている時にアズールがナッツなどをつまんでいると手を伸ばしてねだってくる。アズールとしては、ジェイドは光合成ができれば食べ物はいらないと書かれていたから、人間の食べ物を食べさせていいものか判断しかねて一応食べさせないようにしていた。実際陽の光に当たっていれば、ジェイドは満足げにしているし肌の色艶も良い。食べたがるジェイドをなだめるのが大変なので、最近のアズールは育児書を読んで勉強している。子供のしつけも、人魚の稚魚のしつけも、きっと似たようなものだろう。
     しかし、実はフロイドはジェイドに食べ物を隠れて与えていた。アズールには内緒で、ジュースや紅茶を舐めさせたり、果物の果肉を分けてあげたりということをずっと前からしている。はじまりは、ジェイドと遊んでいる時に麦茶のコップを倒してしまい、彼の顔にかかってしまった、というアクシデントからだった。顔にかかった麦茶をぺろっと舐めたジェイドがあからさまに瞳を輝かせたのだ。フロイドにとっては飲み慣れていて、特段テンションが上がるものでもないのだが、ジェイドは麦茶で濡れたフロイドの指先をちゅうちゅうと夢中で吸った。そのときから、はーん、ジェイドって食べ物に対して異常に反応がいいんだぁ、ということを知ったフロイドは、少しずつ、ジェイドが食べられるもののレパートリーを広げていった。フロイドは突然できたこの小さな兄弟のような存在と秘密を共有するのが楽しくてたまらず、ねだられるままに、一口、もう一口と彼の口に色々放り込んでやっていたのだ。食べ物をこっそり分け合って、悪い顔で顔を見合わせているときは、本当に自分とそっくりな顔をしているのでフロイドは何度か吹き出しそうになった。アズールの配慮なぞどこ吹く風で、ジェイドは何を食べさせても変わらず元気いっぱいだった。
     アズールの知らないうちに、フロイドはジェイドとピザパーティーを開催したりした。フロイドしか知らないことだが、ジェイドはああ見えてかなりよく食べる。今では丸いピザの半分くらいならぺろりだった。
    「あー、さすがにアズールにそろそろバレるかなぁ」
     フロイドがセーブをかけようとしたときには、ジェイドはすっかり陸の食べ物に味を占めてしまって、うまうまとなんでも食べられるようになってしまっていた。

     そして、フロイドが一週間ほど出張に出ていて、アズールと二人しかいないときにとうとう全ての秘密は白日のもとに晒されることになった。それも他ならぬジェイドの口から。
    「アズール、僕もそれ食べたいです」
     突然、ジェイドが喋ったのでアズールは心底驚いた。
    「なっ……?」
     一言発したきり、アズールは黙ってしまう。口を開けたまま、ジェイドをじっと見つめた。本当に今、ジェイドが話したのだろうか。聞き違いではないだろうか。ジェイドは言葉を続ける。
    「フロイドは、いつも僕に食べさせてくれます。アズールはいつもダメって言いますけど……」
     焦れたようにゆらゆらと尾びれをくねらせて、ジェイドはテーブルの上の林檎をじっと見つめていた。
    「ジェイド、お前、喋れるのか……?」
     もっともなアズールの疑問に、ジェイドはこてっと首をかしげる。
    「はい。やってみたら話せました」
     つくづく、この生き物は予想の範囲を越えてくる。今まで鳴き声のひとつも発してこなかったから、当然声が出せない種類の生き物だと思って接してきたのに。今まで話せるそぶりなんて全然なかったというのに、いきなり流暢に話しだすとは。しかも使っているのは丁寧な敬語だ。
    「いつから……?」
    「今です。アズール、と呼んだでしょう。あのとき初めて声を出すことができました」
     ジェイドの小さい口が動いて、確かに言葉を発していた。ジェイドは林檎を指差した。
    「僕、それ、食べたいです」
     話が食べ物の方に再び戻る。アズールにはもうひとつ確認しなければならないことがあった。
    「お前、ものを食べられるんですか?」
    「これまで、なんでもフロイドと同じものを食べていましたよ。フロイドと二人のときは、彼は僕にも分けてくれるので」
     僕に黙って勝手なことを。フロイドとジェイドの秘密を知り、アズールは内心で苦虫を噛み潰したような顔をした。慎重にやらないとすぐに死ぬ、なんて僕を脅してきたのはどこの誰だったか。アズールはため息をつきながら、テーブルの上の林檎をジェイドのためにナイフで剥いてやった。
    「僕、丸ごとでも食べられますよ」
     そう言って、ジェイドは口を大きく開けて見せた。その口の中にはなるほど鋭利なギザ歯がたくさん揃っていた。今まで、観賞魚のように、赤ん坊のように、ひたすら愛でていた存在がいきなりはっきりと意思をもって話しはじめたので、なんだかまだ夢をみているような心地がしたけれど、アズールはその変化をそわそわした気持ちで受け止めた。丸ごとでも、と言われたけれど、試しにウサギに剥いてやったら、両手で持って感動したようにしばらく見つめていた。その目がキラキラしていたので、そういうところはあどけなくて可愛いなと思って頬を緩めていたら、次の瞬間には彼の口の中にウサギは丸ごと消えていた。しゃくしゃくと口の中で咀嚼して、おかわりをねだられる。結局林檎一個をジェイドは一人で食べ切ってしまった。林檎を食べて満足したらしい彼が、アズールに黙って手を伸ばしてきた。喋れるようになっても、抱っこの要求は変わらず仕草でしてくるらしい。アズールが抱き上げてやると、いつものように彼の膝の上で尾びれを抱き込むように丸めて眠りはじめた。くぅくぅと寝息と共に腹が上下している。ジェイドの髪の毛を漉いてやりながら、フロイドが帰ってきたら、さぞ驚くだろう、と想像して愉快な気持ちになった。自分に内緒でジェイドと色々楽しんでいたらしいことには一言言ってやりたいが、ジェイドが初めて喋ったのは僕に対してだ。そのことで多少溜飲が下がる。今度からは、食事は二人分だけでなく、ジェイドの分も作ってやる必要があるかもしれない。見た目に反して食いしん坊であるらしい彼の白くふっくらとしたお腹を指で柔らかく押し込んでやると、きゅうっと小さな声が眠ったままの彼の喉から小さく鳴って、むにむにと口元が動いたので、りんごのウサギの夢でもみているのだろうか、とアズールはくすくすと笑った。
     喋りはじめた頃は、まだジェイドの声はそれほど人間らしくはなかった。言葉は流暢だったけれど、湿り気を帯びた、海の潮騒のような不思議な音で話していた。しかし、だんだん話し慣れてくるうちに深く柔らかい声になっていった。水の中では話さなかったために表情筋が死んでいただけで、話せるようになると存外ジェイドは感情豊かだった。頑固で譲らないときはつん、と唇を尖らせて抗議することもあったし、楽しい時には歯を見せて口角を吊り上げて笑う。ジェイドの体も大きな変化をとげていた。水槽から出られるようになったのだ。つまり、尾びれではなく足を使って歩けるようになった。尾びれは彼の意思でどうにでもなるらしく、歩きたい気分のとき、彼はいつでも好きなときに人間と同じ体にカタチを変えられた。
     話すこと、歩くこと。この驚くべき変化はすべて、陸の食べ物を食べるようになってから起きていた。ジェイドはそれはもうよく食べた。あまりにもよく食べるのでジェイドは今ではもう、フロイドとほとんど体格が変わらない。予想よりもずいぶん大きくなったので、これにはアズールも度肝を抜かれた。もう彼をいれておけるサイズの水槽はないので、人魚の姿になりたいときには風呂場に水を張っているのだが、長い尾びれは浴槽からはみ出さんばかりである。もちろん、もうアズールの膝で昼寝をすることは不可能だ。
     しかし、それだけ大きくなっても、何故か夜はジェイドはアズールと一緒に眠りたがった。ジェイドが当然のような顔でアズールのベッドに潜ってくるので、アズールも困惑しつつも好きにさせていた。ジェイドの身体がもっと小さかったとき、歩けるようになってからは特に、夜に水槽の中で一人にされることを嫌がって一緒に寝ていたので、そのまま、離れ時を見失ってしまったというのもある。もう流石に稚魚扱いはできないし、本人も望まないと思うのだが、人肌の側で眠るのが習慣づいてしまったのだろうか。フロイドのところに行くこともたまにはあるけれど、フロイドの気分によってはベッドが狭くなるからとアズールのところにジェイドを連れてくる。アズールはもちろん受け入れるけれど、190センチと一緒に寝るのは、僕だって狭いと言えば狭いのだが。
    「どうして当然のように僕のところにジェイドをつれてくるんですか」
    「だって、ジェイドの飼い主はアズールじゃん。責任持って一緒に寝てやれよ」
    「アズール、僕もう眠いです」
     ペット扱いされていることに特に異論はないのか、ジェイドは大きすぎる体を折り曲げてアズールの懐におさまった。
    「オレがアズールにお土産で買ってきたんだから。ジェイドはアズールのでしょ」
     フロイドが、この世の真理を言ってやったというような顔でさらりと放った言葉に少なからずアズールは動揺した。ジェイドが、僕のもの。その響きにくらくらと眩暈がするような心地になる。当のジェイドはすでに隣で寝息を立てている。まあ、たしかに、そう言えなくもないのかもしれない。ジェイドは、そっくりなフロイドよりも、遊びの上手いフロイドよりも、明らかにアズールに懐いていた。もし、アズールとフロイドがルームシェアを解消するとなったら、きっとジェイドはアズールと一緒に暮らすと言うに違いない。それを思えば、彼はアズールのものなのかもしれなかった。ジェイドは水の匂いがして、抱いて眠るとそれはもうぐっすり眠れるので、アズールもジェイドにベッドを買い与える気になれなかったのは事実だった。そういえば、初めてジェイドが話したのは僕の名前だったな。幸福な記憶をひとつ思い出して、アズールもまたゆっくりと目を閉じた。

     アクア・プランツについてもっと知りたいと、アズールは三人でプランツ・ドールを扱っている唯一のお店を訪れていた。店には良い匂いのお香が焚きしめられていて、あたたかいお茶でもてなされた。
    「残念だけど、アクア・プランツ、というのは、ウチでは扱ってないわね」
     金髪の店主が、連れられてきたジェイドをしげしげと眺めながらそう言った。渡されたショップカードには、ヴィルという名前が書かれていた。
    「正規にはそんなドールはそもそも存在していないわ。というか、本当に彼は人魚にもなれるの? 人間にしか見えないけれど。うちにちょうど大きな水槽があるから、よかったら、そこで人魚の姿もみせてくれない? そうしたら体調チェックや肌質、髪質のチェックもついでにしてあげるわ」
     柔らかい口調で話す店主は性別不明の美貌の持ち主だったが、その瞳はうっすらと好奇心で輝いていた。アズールが目線で伺いを立てるとジェイドがあっさり了承したので、店主に誘われて彼らは店の奥に足を踏み入れた。そこには大人が三人くらいは余裕で入れそうな大きさの水槽が置いてあった。なぜこんなに大きな水槽が店の中にあるのか疑問だったが、人魚というわけではないけれど、店に水に入るのが好きなドールもいるので、特別に設えたのだと店主が説明してくれた。ジェイドにとっても、久しぶりに水の中に入れるのが嬉しいようで、早速体を変化させて水槽の中にその身を沈めた。水槽の向こうで、大きな尾鰭をゆったりと伸ばして優雅に揺蕩ってこちらに流し目を送ってくる。発光体がゆっくりと明滅して、きらきらと青く水の中で乱反射していた。もう今の生活では、ジェイドはほとんど人間のように暮らしているし、彼が入れる大きさの水槽はないので、彼のこうした姿をゆっくりとみるのはアズールもフロイドも初めてだった。アズールの予想通り、人魚であっても別段彼は上手に泳げるというわけではないようだが、観賞用として生まれたと言われるに相応しい優美な動きで長い尾鰭を動かすので、見る人を惹きつけた。それはまるで水底の楽園のように美しい光景だった。彼を眺めながら食事をしたら、さぞおいしいお酒が飲めることだろう。水槽のあるラウンジなんて、奇抜でいいかもしれない。アズールが頭の中で、そんなことをつらつら考えている間に、ヴィルは熱心にその姿を見つめて、何かを紙に書き込んでいた。
    「ため息がでるほど美しい姿ね。健康そうだし、状態もとてもいいわ。もしも買い取りを希望するなら、このくらいの額ならうちはだせるけど、どうかしら……って、その顔、とてもじゃないけど、ウチに彼を任せる気はなさそうね」
     ヴィルが示した紙には、一生遊んで暮らせるほどの0が並んでいたけれど、アズールはその紙を見もしなかった。つい今しがた、ジェイドから着想を得てビジネスの構想を練っていたであろうアズールの心のうちを読んでおり、相変わらずだなあと思っていたフロイドが、アズールのそんな反応に少し意外そうな顔をする。彼の大好きな金についての話を、アズールが歯牙にもかけず黙殺するなんて。
    「それにしても、彼はとても流暢に話していたわね。どうやって言葉を教えたの? 話せるだけですごいのに、きちんと敬語が使えていて素晴らしいじゃない」
    「別に、教えたりはしていません。彼は急に言葉を話し始めたんです。そして、最初から敬語でした」
    「ああ、そういえば前から思ってたんだけど。ジェイドが敬語なのってさぁ、アズールの口調真似して言葉覚えたからじゃね?」
    「え」
     アズールが目を丸くする。
    「アズール、沢山ジェイドに喋りかけてたもんねぇ。ジェイドが最初に話したのは僕の名前だったって、酒飲むと同じ話を何度もしてくるし。アズールってば、よっぽど嬉しかったんだね」
    「べ、別に今その話をしなくてもいいだろっ……」
    「そうだったんですか。たしかに、僕はアズールの言葉をよく聞いていましたから、それで言葉が話せるようになったのかもしれません」
     いつの間にか、水槽のふちに肘を乗せたジェイドがにっこりとこちらを見下ろしていた。
    「やっぱりー? 多分孵化して最初に見たのがオレだったから、見た目はオレに似たのかもねぇ。体の形も自由自在だし、ジェイドはなんにでもなれちゃうのかも」
    「はじめに買ってくれたのはフロイドでしたし、最初はフロイドのことを僕の飼い主だと思っていましたからね」
    「なるほど。二人がそっくりだから、不思議に思っていたけれどそういうことだったのね。彼がプランツに似た性質のなにかなのだとしても、生まれてすぐに目にした姿を真似た、というのは実際あるかもしれないわね。興味深いわ」
    「見た目はそうだとしても、言葉は僕だけがジェイドに話しかけていたわけではないでしょう。フロイドだってよくジェイドに話していたじゃないか」
    「アズールは、最初から、日中も夜も、ずっと僕のことを綺麗だと褒めてくださっていたでしょう。卵の中で眠りながら、ずっと聞こえていましたよ」
     僕、それがとっても嬉しかったんです。
     言うなり、ジェイドは再び水の中に戻ってしまった。その言葉を聞いたアズールは何かを言おうとして言葉にならず、口を開けたまま顔を赤くして固まった。
    (あれ。なんかアズール、恋してるみたいな顔してる)
     フロイドは幼馴染の横顔をにやにやと眺めた。ヴィルが、ふふっと豊かなテノールに含み笑いを乗せた。
    「これは、聞き流してもらって構わない話なのだけれど。プランツ・ドールを生涯のパートナーにしているお客様って結構多いわよ」
    「へえ、そうなんだ。よかったねえ、アズール」
    「なにがだ! 僕はなにも、言っていないでしょう」
    「ウチの店の子たちは皆、あたたかいミルクと愛情によって美しく育つの。こんなに綺麗なんだもの。きっと、この子もたくさん愛されてきたのね」
     そう言って、ヴィルがふんわりと穏やかに笑った。こちらのやりとりが聞こえているのかいないのか、僕の悪戯な人魚姫は水槽越しにウィンクを送ってくる。それをかわいいと思ってしまうからまた、熱が上がってきて困ってしまった。だって、本当にお前が綺麗だから。目が離せなくなっても、それはもう仕方のないことだろう。
     駄目押しとばかりにハートのバブルリングを贈られて、僕は観念したように長いため息をつく。そして、すらりと長い両腕を広げて僕を待っているジェイドを迎えに行くのだった。

    <終>
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    Replies from the creator

    yo_lu26

    PROGRESSスペース読み原稿
    「三千字のアウトプットに三万字の思考が必要って本当ですか?」
    「成人向けが恥ずかしくて書けないのですが、どうしたらいいですか?」
    上記をテーマにしたスペースを開催しました。読み原稿です。メモ書きなので分かりにくいところもあるかもしれませんが、ご参考までに。
    20240203のスペースの内容の文字起こし原稿全文

    ★アイスブレイク
    自己紹介。
    本日のスペースがどんなスペースになったらいいかについてまず話します。私の目標は、夜さんってこんなこと考えながら文章作ってるんだなーってことの思考整理を公開でやることにより、私が文字書くときの思考回路をシェアして、なんとなく皆さんに聴いてて面白いなーって思ってもらえる時間になることです。
     これ聞いたら書いたことない人も書けるようになる、とか、私の思考トレースしたら私の書いてる話と似た話ができるとかそういうことではないです。文法的に正しいテクニカルな話はできないのでしません。感覚的な話が多くなると思います。
    前半の1時間は作品について一文ずつ丁寧に話して、最後の30分でエロを書く時のメンタルの話をしたいと思います。他の1時間は休憩とかバッファとか雑談なので、トータル2時間半を予定しています。長引いたらサドンデスタイム!
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