「大人になる、とはどういう定義だと思う?」
精神か、肉体か、法律に基づいてか。
光があふれる大聖堂の中で、オーヴァンの声が低く響く。男は女神が消えたという中央を見つめ、ハセヲを見ない。
「アンタは、大人じゃねぇのかよ」
俺の言葉にフッ……と肩が揺れて、笑っていることが分かる。コノヤロウと悪態をつきながら、少しだけ強張っていた身体から力が抜ける。
「お前に大人だと言われるのは、面映ゆいな……」
ゆっくりとオーヴァンがこちらを向いて、けれど大聖堂のひかりが強く、顔がよく見えない。
「なぁ、アンタは……」
光がどんどん強くなる、オーヴァンが、世界が、遠くなる。
あぁ、夢だ。
The worldで俺達はこんな風に話したりしなかった。
オーヴァン
アンタは本当は大人じゃなかったんだよな
そう見せていただけで、ロールってヤツでさ
なぁ、あの頃の俺じゃ分からなかったけど
今の俺なら
重たい瞼を持ち上げると、揺れる視界の向こうに人影が見える。
「亮……」
貼り付いていた髪が持ち上げられて、濡れているのに気付いた。
「まさとさん」
まばたきをした拍子に、涙が頬を滑り落ちて、またそれを大きな掌がぬぐってくれる。
こっちはリアルだ。
オーヴァンと呼んでしまいそうな口をもごもごと動かし誤魔化して、雅人さんと繰り返し呼んでみる。
二人で暮らしている部屋の、リビングに置いたソファーベッド。
いつもなら、ゆったりした昼寝に使う場所なのに、今日に限って胸が締め付けられるような夢を見た。
雅人さんはこちらを伺う視線を向けても、なにも言わない。
「そういうとこ、ホント大人だよな」
ボソッと呟いてしまった言葉はしかし、雅人さんには届かなかったようだ。
少しだけ残念に思ったのは、俺がガキだからか。
「雅人さん」
「……なんだ?」
「大人になるってなんだと思う?」
はやくアンタに追い付きたいと答えたら
目の前の男は、笑うのだろうか。