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    余裕のないノと包容力のあるハのハイノイ。
    たまにはできるハイさんを書いてみたくなった。

    #ハイノイ

    お疲れのノイ 仕方がない事だと分かっている。ノイマンは軍人だ。不測の事態には休みだとか勤務時間だとか、そんな事は気にせず業務に当たらなければならない。例えそれが久しぶりの恋人と会う日であっても。
     工場地帯で爆発事故が発生したと連絡があったのが夕方の話だ。通常ならこういった事故処理は消防や警察の仕事であって軍が出動するような事ではない。ただ今回は場所が悪かった。工場が林立した一帯に火の手が広がっていること、近くに軍関係の施設があり火薬等に引火する恐れがあることを重く受け止めた結果、軍としても応援を出すとの通達がなされた。その場に居合わせたノイマンも対応すべく、輸送ヘリの操縦桿を握り現場へ向かったのだった。

     状況が落ち着き、後続の部隊と交代しようやくオロファトまで戻ってきた時にはとっくに日付が変わっていた。本来ならさっさと帰宅してゆっくり休むべきなのだが、どうにも気力が湧かずソファに座り込んだ。大して座り心地のよくないソファに体を預けて、手にした端末に来ているメッセージを確認する。
    『分かりました。どうかお気をつけて』
    ハインラインからのメッセージ、受信時刻はちょうどノイマンが事故現場へ向けて出発する頃だ。一つ履歴を遡り、自分が送ったメッセージを開く。
    『今日は行けなくなりました。申し訳ありません』
    改めてメッセージを確認して頭を抱えた。用件のみを伝えた簡潔すぎるくらいのメッセージ。言い訳をするならあの時は時間がなかったのだ。緊急事態で出発まで間もなく、戻りの時間は分からないが約束の時間に間に合わないことだけは確定している、そんな状況で気の利いた文章を考える余裕はなかった。それにしてももっと送りようがあっただろうと天を仰ぐ。本来なら昨日の夜に合流して今日の夕方までは共に過ごす予定だった。時刻は午前2時。今から家に帰って着替えて寝て、起きるのは昼前だろうか、それから連絡を取ってランチくらいは一緒に、と思考を巡らす。キャンセルのメッセージを送る際に朝には一度連絡をするとでも送っておけばよかったと後悔しても後の祭りだ。
     いつまでもこんな所に座り込んでいるより早く家に帰りきちんと身を休める必要があるのは分かっているが、体が動かなかった。事故は仕方がないしこういう仕事を選んだのも自分でそこに後悔はない。ただそれでも、寂しい物は寂しいのだ。そもそも前回だって直前に予定がなくなっている。このペースでは前に会った時から次に会うまで一年経ってしまいそうだ。それに『次』がある保証なんてない。事故現場で耳に飛び込んできた死傷者の情報。彼らだって自分が今日、こうなるなんて想像もしていなかったはずだ。ノイマンとハインラインはそんな彼らよりももっと何が起きてもおかしくない場所にいる。だから会える時には会いたいのに。抱きしめたいし抱きしめてほしいし、キスもしたい。それさえままならない現実に打ちひしがれる。このままミレニアムに向かいたい気分だが、さすがにノイマン1人で許可もなく訪ねたところで乗艦できるわけもない。今から連絡をしてもこの時間では寝ているだろうから、せめて少しでも早く起きて連絡をしよう。無理やり気持ちを切り替えて、なんとか体をソファから引き剥がした。
     
     申し訳程度の照明に照らされた薄暗い廊下を歩く。家に帰るとしてこの時間にタクシーは捕まるだろうか。普段なら歩いて帰るところだが、重い体を引きずって歩きたくはない。いっそ帰宅は諦めて仮眠室で寝てしまおうか、と周りに叱られそうなことを考えながらエントランスを抜ける。バタン、と車の扉が閉まる音が聞こえた。こんな時間だが誰か来たのだろうか、入れ違いに自分が乗れる車であればいい。止まった車を確認しようと顔を上げる。そして思いもよらぬ人物を見つけ息を呑んだ。
    「……アル?」
    照明に照らさられた金髪が眩しくて目が焼かれそうだった。まさかこんな時間にこんな場所で会えるなんて思ってもいなくて。予想外の再会に驚きと喜びが込み上げてきて胸がいっぱいになり、名前を絞り出すだけで精一杯だった。
    「おつかれ、アーニー」
    ハインラインが優しく微笑む。名前を呼ばれた瞬間、ノイマンは弾かれたようにその胸に飛び込んだ。存在を確かめるように背中に回した手に力を込め、肩口に顔を埋め深く息を吸い込んだ。それに応えるように背中に回された腕に力がこもる。痛いぐらいの抱擁が今は嬉しくてたまらなかった。気持ちが落ち着いた頃、少しだけ体を離しハインラインと目を合わせた。
    「なんでここに」
    「チャンドラ中尉から大体の戻り時間を教えてもらった。疲れているだろうとは思ったが今日を逃したらまた次がいつになるか分からないだろう?だからどうしても会いたかったんだ。……迷惑だったか?」
    「……迷惑じゃない」
    そっと頬を撫でる手にすり寄る。戻ってくる時間を教えてもらったとは言うが、一体どのくらい待っていたんだろう。同じように会いたいと思ってくれていて、そのためにこんな真夜中に待っていてくれて。迷惑なわけがない。
    「嬉しい」
    込み上げてきた衝動のままキスをしようと顔を近づける。あと少し、というところでぐっと額を押された。
    「は?」
    今の雰囲気で拒まれるとは想像もしておらず、気の抜けた声が漏れた。ハインラインの気まずそうな顔が目に入る。拒絶された事に悲しみよりも苛立ちが募った。
    「おい」
    「すまない。ただ、その、……恐らくここにはカメラが」
    「あ」
    とっさに体を離した。この時間で人気もないからすっかり忘れていたが、ここは軍の施設の門前だ。いちいち場所を気にした事はないが監視カメラの類いはあって当然で。カメラの映像を知り合いが見ている可能性は限りなく低いが、誰かが見ているのは間違いない。あんなに抱きしめ合っておいて今更かもしれないが、さすがにキスシーンを見られるのは恥ずかしすぎる。
    「……悪い」
    「いや、僕もなかなか言い出せなくて」
    急速に冷やされた頭では、ろくに顔を見る事もできなかった。良い歳した男が二人、こんなところでもだもだとしているのはさぞ滑稽だろう。
    「とりあえず帰ろう」
    ハインラインがエスコートするように助手席の扉を開ける。
    「運転してくれんの?」
    「たまにはな」
    せっかくだから甘える事にして大人しく助手席に乗り込む。すぐにハインラインも運転席に乗り込み車を発進させた。普段はノイマンが運転するばかりで、助手席に座ってハインラインの横顔を眺めるのは新鮮だった。
    「何かついているか?」
    「なんでもない」
    たった五分で終わってしまうのはもったいないくらい、ハインラインの運転は丁寧だ。時間が許せばこのまま遠回りして帰るのもいいが、あいにく今はそんな余裕はない。早く家に帰って先ほどの続きをしたい。このまま横顔を見ていると要らぬちょっかいを出したくなりそうで、窓の外に視線を向ける。

     もともとノイマンの自宅と本部は歩けるくらいの距離だ。車はあっという間に家に着き車庫に滑り込んだ。慌ただしく車から降りハインラインの手を掴み玄関へ向かう。ロックを解除して扉を開け中に入り乱暴に扉を閉める。そしてその勢いのまま、ハインラインの背中を扉に叩きつけ唇に噛みつくようにキスをした。ずっとこうしたかった。押し付けるだけのキスではすぐに満足できなくなり、舌で唇をこじ開けて口内をかき回す。もっと深くまで感じたくて頭を引き寄せた。自分の物とは違うふわふわした髪の毛の感触が愛おしくて指先に髪を絡める。
    「……ん」
    舌を絡め取られる。ぴちゃ、と響く水音とどちらのものかも分からない甘ったるい声が頭に直接響くようだ。そのまま先ほどまで好き勝手動き回っていた舌を咎めるように甘噛みされれば、その刺激に身体が熱くなった。熱に浮かされる前にそっと唇を離した。
    「随分と積極的だな」
    「たまにはな」
    触れるだけのキスをしてすぐに離れる。そして今度は触れるか触れないかギリギリまで唇を寄せる。
    「なあ、したい」
    もう一度押し付けるだけのキスをする。子どもの挨拶のような触れるだけのキスを何度も繰り返してハインラインからの続きをねだった。幾度目かのキスの後、肩を押され距離を取らされてしまった。
    「今日はダメだ」
    「なんで」
    「疲れているだろうから寝た方がいい」
    宥めるように髪を撫でられるが、それで引き下がるつもりはなかった。
    「いやだ」
    ハインラインの言う通りだいぶ疲れている。一人だったら既にベッドに倒れ込んでいるに違いない。それでも今は一人ではないからそういうわけにもいかないのだ。
    「時間がもったいない」
    このまま寝てしまえば起きる頃には昼前だ。もともとディナーの前には解散する予定だったのだ。そこから一緒に過ごせてもほんの数時間しかない。それなら今、多少疲れてはいても思う存分抱き合いたかった。首に手を回し縋りつき、どうか距離を取らないでくれと腕に力を込める。
    「アーニー」
     ハインラインの手は今度は肩ではなく背中に回された。
    「艦長に頼み込んで休暇を延長してきた。だから明日の朝まではいるつもりだ」
    勢いよく体を離しハインラインの顔を見る。ほんの数十秒前まで離れたくないと思っていたのに今はそれよりも大事な事があった。
    「本当に?」
    「とは言え。朝早いから六時にはここを出る事になるが」
    「充分だ」
    「なら一度寝た方が良い。……正直に言うと僕は少し眠い」
    「仕方ないな」
    唇に軽くキスをされる。おやすみのキスのつもりだろうか。かすめる程度すぐに離れてしまったそれは今日一番満たされる物だった。
     
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