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    COMOYAMA

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    COMOYAMA

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    寂しがりは手をとって(2/3)

    ##小説

    青空の下。大きな湖をぐるりと囲む街道を小さな馬車がゴトゴトとゆっくり進む。
     荷台に腰掛けた二人は、湖面の鳥の群れを眺めていた。ソロモンは朝食に持ってきたパンを齧る。澄んだ空気の中で食べるといつもより甘い。隣のベリトはただ顔をしかめていた。

    「ケツがいてえ」
    「はは。結構揺れるな」

     他愛のない会話だけが交わされる。答えないことはわかっていたから、どこへ向かうのかは聞かなかった。

    「鳥がうらやましいぜ」
    「そうだなあ」

     湖面から飛び立った鳥を目で追うと、海沿いに小さな町が見えてきた。

    「わ、なんか楽しそう」

     門をくぐると、町中に飾り付けがされていて、行き交う人々でいっぱいだった。見世物もあるのか、客を呼び込む声や音楽も聞こえてくる。

    「今日は俺様がついていってやる」
    「周って良いのか?」
    「おう。さっさと行け」

     物珍しそうにあちこち駆け寄っては、「ベリト、こっち!」と振り返って呼んでくる。

    (構えばああやって笑いやがる。が、前からそうしなきゃ笑わねえ奴だったか?)

     時折、ソロモンが動かない人形のように思えることがある。昨夜のように、ぼんやりと一人で立っている姿はひどく弱々しく見えて、手を伸ばさずにはいられなかった。
     今は子供のように駆け回って喜んでいる。本来ならば、こんな風に日々を過ごしていていいはずだ。

    (たまにはいいだろ。なあ)

     元気よく走り回るソロモンの後をついて、ひとしきり周った頃。

    「なんか美味しそうな匂いがする。ベリト、わかるか?」
    「いや。辿ってみろよ」

     ダゴンじゃないんだから、と思いながらもふんふんと、ソロモンは彼女の真似をして嗅覚に集中した。魚介系の食欲をそそる香りが路地の向こうから漂ってくる。つられて角を曲がれば、小料理屋がひっそりと店を開けていた。

    「あそこだ!」
    「犬並だな。褒めてやるぜ」

     喜んでいるソロモンの肩をたたいて、ベリトが先に店に入る。すぐ店員が駆け寄ってきて、屋上の席に案内された。他に客はおらず、ベリトは堂々と海側の席に陣取った。ソロモンも席について見渡すと、町中の屋根屋根が魚を模した色鮮やかな飾りで繋がれ、はためく様は波をたゆたう本物のようだった。

    「上から見るとさらに綺麗だな」
    「今の季節は脂ののったのがよく獲れるんだと」
    「あぁ。だから魚なんだ」

     そう言えば、こうして二人きりで出かけて、食事をとるなんて初めてだった。
     …というより、これは。

    (デートでは…?)
    「どうした」
    「な、なんでもないよ」

     あわててメニュー表で顔を隠す。すっかり楽しんでいたが、これはそもそも自分を喜ばせるためだったと今更理解し、気恥ずかしくなってしまう。
     最初から言ってくれれば…と思ったが、そう何でもしゃべるベリトではないのをよく知っていた。ソロモンからすれば、そういった面は年上らしくて憧れるものだった。

    「値段がないな?うーん?魚…貝…エビ…」
    「ヘビだー!!」
    「ヘビじゃなくてエビ…え?」
    「お客さんたち、中に入って!人食いヘビが出たらしいんだ!」

     慌てる店主に話を聞くと、町の外に大きなヘビが現れ、ヴィータを数人丸飲みにして逃げたらしい。自警団が追いかけて森に入ったが、それきりの情報は入ってこないのだと。

    「それってヘビじゃなくて…」
    「幻獣だろうな」
    「俺達も行こう、ベリト!」

     ざわめく町中を抜け、門を出て森へ走った。洞窟の前では自警団が武器を構えていたが、未曾有の事態に攻めあぐねているようだった。

    「あんたらは?」
    「ヘビはここか?中には俺たちが行くよ」
    「しかし…」
    「どけ。さっさとしねえと食われた奴らが消化されちまう」

     ベリトは男性から松明を奪い取り、屈んで洞穴に入っていった。ソロモンもそれに続く。

    「中は危険だ。あんたら二人じゃ…」
    「狭っ苦しい中を大人数でぞろぞろ歩いてみろ。すし詰めになったところを端からやられるだけだ」
    「俺達でなんとかする。離れててくれ」

     うろたえる人々を置いて、二人は中を進んだ。照らされたあたりには何かか引きずった跡が見られ、幻獣が巨体をうねらせて奥へ逃げた様子が目に浮かぶ。

    「テメェも外にいたほうが良いかもな」
    「相手は大きな幻獣だぞ。ベリトだけなんて危ない」
    「いざって時はさっさと逃げんだぞ」

     ソロモンを気にして時折振り返りながら進んで行く。普段は面倒くさがりだが、こういうときはやはり頼もしい。

    「奥は遺跡かなんかか?崩れなきゃ良いんだが」
    「どうしてわかるんだ?」
    「音の響き方とか…、壁から突き出てるアレ、なんかの柱だろ。こういう場所は何度も見てきた」
    「すごいな。冒険者だ。…でもなんだろ、なんか生臭くないか」
    「ヘビだからな、あちこちで脱皮してんじゃねえか」
    「うぅ…」
    「シッ。もう近い」

     ベリトが遮った瞬間。ゴゴゴ、と地響きが起き始めた。パラパラと砂が降ってきて、嫌な予感がする。ソロモンは反射的にフォトンを預け渡した。

    「奥で奴が寝返り打ってるらしい。テメェは外に出ろ」
    「でもベリトは?」
    「みんな生き埋めになる前になんとかするしかねえだろ」
    「置いて行けないよ」
    「行け!ちっとは信用しろ」

     ベリトは松明をソロモンに押し付けて走っていってしまった。地響きはどんどん強くなっていく。
     急に一人にされた不安で取り乱しそうになったが、「信用しろ」と言われた声が耳に残る。

    (…フォトンも預けたし、ベリトは強い。大丈夫)

     そう思い直し、出口へ走った。息を切らしながら外へ飛び出すと、人々が駆け寄ってきた。

    「アンタ、大丈夫だったか!」
    「中にベリトが残ってる…ヘビを倒してくれるはずなんだけど」

     地響きはやむどころか、木々はざわめき、どんどんひどくなっていく。そしてガゴン!と轟音とともに岩が崩れ、洞穴が完全にふさがれてしまった。

    「ベリト!ベリト!!」

     巻き起こる土埃の中名前を呼ぶ。焦りながらも、どうすべきかソロモンは考えた。

    (行け!ちっとは信用しろ)

     そう言ったベリトの顔に動揺は見られなかった。何か考えがあったのかも知れない。
     周りの人々は慌てふためいて右往左往しているが、構ってはいられない、時間がない。ソロモンは指輪を使った。彼が召喚に応じたのを感じた瞬間、体が浮くほどに辺り一帯が鳴動した。

    「うわっ!」

     ソロモン達の目の前に、怒り狂ったヘビ型の幻獣が現れる。グルグルととぐろを巻き、ヒレを広げて威嚇するその頭には、ベリトが振り落とされまいと組み付いていた。

    「ベリト!」
    「ちょっと遅いが、お仕置きは勘弁しといてやる」

     幻獣はガチンガチンと牙を鳴らして、頭の上の目障りなベリトを飲み込もうとしている。

    「シャアアアッ!」

     激しく振り回されるもベリトは余裕の表情で、

    「嫌いじゃないぜ。屋敷で飼ってやってもよかったんだ、が!」

     剣を閃かせ、思い切り幻獣の脳天を突き刺した。切先はその顎をも貫いて、幻獣はぐるんと白目をむき、声もあげずに倒れた。
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