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    ヰノ

    @tion130 落書きと進捗

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    ヰノ

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    鶴丸さんの魔法の袂(漫画まとめ壱[https://www.pixiv.net/artworks/79053351]収録)
    セルフノベライズチャレンジそのいちです。

    ##刀剣
    ##小説

    「どうしたどうした、失くし物かい」
     平野藤四郎の耳にその声が届いたのは、出陣準備を終え転送門へ向かう道中、粟田口部屋弐の前を通った時だった。明るく軽い調子だが、決して茶化すような響きではない、気遣った声。室内を覗くと、べそをかく五虎退と向かい合う鶴丸国永の姿があった。
     「そういう時は深呼吸だ。道を遡って探してみような」
     ――この本丸の鶴丸様は、時折魔法使いのようになる。
     一つずつ思い出そう、と人差し指を立て、兄弟を導こうとする鶴丸の姿が、平野には不思議なものに見えた。本丸でも充分年長の部類に入る鶴丸だが、その振る舞いはときに子供のようであり、またときに老熟した賢者のようでもあった。
    「あっ!ありましたー!!」
     いち兄から貰ったハンカチを無事見つけ出し、安堵からかうえええと一層泣き始める五虎退に、鶴丸は少し呆れたような顔をして、「見つかったんだから泣くこたないだろう」と呟く。そしてその白い袂に片手を突っ込み、何かを探し始めた。
    「仕方ない、鶴さんのとっときだ」
     す、と引き出された手で掲げられたのは、セロハンで包まれたまるい飴玉だった。五虎退はそれに目を取られ、一瞬涙が止まる。
     鶴丸はそれを見て満足そうに飴玉の包みを解き、ざらめのかかったような大玉のいちご飴を五虎退に差し出した。
    「甘いか?」
    「はい」
     コロ、と口の中で飴がころげる音がして、五虎退は小さく頷く。
    「美味いか?」
    「はい」
    「ならもう泣かなくていいな!」
     少しずつ泣きべそが引っ込んでゆく五虎退に、いたずらっぽく笑いかける鶴丸は、確かに年長者の頼もしさがあった。五虎退はすっかり表情もほころんで、「はい!」と大きく頷いた。
     
    「平野ー?まだー?」
    「あっ、すみません。今行きます!」
     そこまで、部屋の入口からすっかり見守ってしまっていた平野は、己の仕事を思い出して慌ててその場を後にした。板張りの廊下を急ぎ足で進む。今日の出陣先は何度か訪れた時代ではあるが、今回は少し事情が違うのだ。地形や環境に隊員の構成を照らし合わせて考えながら合流を急ぐ。
     しかし、頭の片隅には今しがた見た光景が引っかかって離れなかった。
     
     ――鶴丸様の袂には、魔法が詰まっているそうだ。
     
    「あ、コレ切り口ないや」
     鶴さん、ハサミある?厨で燭台切が問えば鶴丸は「あるぜ」と袂から小さなハサミを取り出す。
    「昼飯抜きだったそうじゃないか」
     昼食をとり損ねた御手杵をつかまえ、袂から出してきたのは握り飯だった。
     平野は以前、そこに何が入っているのか尋ねたことがある。すると鶴丸は、
    『魔法はネタバラシしたら消えちまうんだ』
     と言うのみだった。
     
     
     ざあざあと、雨が降る。
     
    「第二部隊が帰ったぞ!」
    「重傷二振り、軽傷三振り!」
    「手入れ部屋準備!」
     やっとの思いで転送門から帰還した平野たち――満身創痍の第二部隊は、そんな慌ただしい声に迎えられた。
     重傷の鯰尾を担ぎ、半ば引き摺るようにして門から帰城してきた平野の表情は固い。待機していた近侍が駆け寄る。
    「部隊長、傷は?」
     その言葉にビクリと身を強張らせた平野だったが、努めて平静に「ほぼありません。手入れは不要です」と返答した。
     駆けつけた燭台切が平野の抱える鯰尾を受け取る。その傷は深く、意識は朦朧としているようだった。
    「鯰尾くんは僕が預かろう。鶴さん、後は任せるよ」
    「ああ、任された」
     門の前に残されたのは平野ただ一振りだった。燭台切の言う『後』とは。平野は一層表情を暗く、固くする。
      
    「平野」
     ビクリ。戦術を誤り、重傷者を出して撤退してきた部隊長である平野の肩が震える。顔を上げるのが怖くて、無礼とは分かっていながら鶴丸の顔が見れない。
     その様子を見て鶴丸は「……まあ、何だ」とめいっぱい柔らかい声色で話しかける。それから袂の中を探る音だけが平野の耳に届いた。
     そしてしばらく。俯く平野の目線にひょいと現れた鶴丸の手は、何かを握っているようだった。そして手を出せと言うようにその手を揺らすので、平野は仕方なく両手を皿にして差し出す。ころり。
    「食ってみろ」
    「えっ」
     手のひらに落とされたのは、出陣前五虎退に与えられたのと同じ飴玉だった。戸惑う平野を鶴丸が「ほら」と急かすので、平野は戸惑う手付きで飴玉を頬張った。コロ、と口の中で転がる感触がある。
    「甘いか?」
     こころが張り詰めた平野にはその味など感じられるはずもなく、思わず「味なんて……」と呟く。
     すると鶴丸は顔を上げられない平野と視線を合わせてしゃがみこみ、つめたい手を柔らかく包むようにして握った。無意識に目をそらす平野を気にするそぶりもなく、鶴丸は優しい声で語りかける。
    「よく聞け平野」
     そらしていた視線をなんとか鶴丸に戻すと、鶴丸は穏やかに微笑んでいた。

    「部隊長は初めてだったそうじゃないか。見事だぜ」

     思いもよらない言葉に、平野から「えっ」と声が漏れる。
     大失敗をしたのだと。自分は部隊長失格だと、責められることを覚悟していた平野はぱちりと目を瞬かせる。
    「部隊長の一番の役目は、隊員を全員帰還させることだ」
     鶴丸は言い聞かせるように、包んだ両手をゆっくり揺らす。一定のリズムと拍動が同期してゆく。

    「無傷とはいかなかったが、全員での撤退お見事。きみはよくやった」

     平野が顔を上げた。鶴丸はどこまでも穏やかに、労うように笑っていた。
    「……なあ、飴は甘いかい?」
    「甘い……です」
     これはメロン味、だろうか。平野は歯に当たるだけだったまるい飴玉の味を考える。
    「美味いかい」「はい」
     こころが解けてゆくのを感じる。包まれる両手が思いの外温かいこと、ざらめが舌にざらざらと触れること、自分はまだ失敗していないこと。

    「なら大丈夫、もう我慢しなくていい」
     我慢。
     していたのか、と平野が自覚した瞬間、ほっと体が軽くなると同時に、視界が大きく歪んだ。頬を熱いものが滑り、すぐに止まらなくなる。
     
    ――きっと、このひとの袂には、優しさが詰まっているのだ。

     溢れる涙を不器用に拭う平野の姿を見守る鶴丸は、どこまでも優しく、穏やかだった。
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    ヰノ

    PROGRESS尊重と愛情(苺の話)
    まだ途中です
    午後も数時間過ぎた頃の事だ。
     一文字則宗が小腹を満たそうと厨を訪れると、今まさに夕餉の仕込みを始めた燭台切光忠がそれに気付いて「どうしたのかな」と声を掛けてきた。
    「いやなに、今日はおやつを貰い損ねてな。小腹が侘しいと鳴くものだから」
    「なるほど、じゃあちょうど良かった。申し訳ないんだけどこの苺、主の所に持っていって一緒に食べてくれないかな」
     そう言う燭台切が困ったように苦笑しながら差し出してきたのは、硝子の器に盛られた大粒の苺だ。赤く艷やかで、ひと目で上等なものだと分かる。何だこれは、と雄弁な視線を受け、燭台切は肩を竦めた。
    「ほら、うちの主、仕事いくらでも引き受けるでしょ。なんでも他の本丸の分まで抱え込んじゃったらしくって。肩代わりした本丸から使いが来て、お礼だって置いていったんだよね」
    「まーたあの子はそんな無茶をしているのか。…なるほどな、任せておけ」
     則宗が器の載った盆を受け取ると、燭台切は「頼んだよ」と眉を下げて笑った。
     ――つまりは、『審神者を休ませろ』ということだ。
     なんと光栄な任務だろうか。執務室へ向かう則宗の足取りは軽い。

     則宗にとって審神者とは、今代 1326

    ヰノ

    MAIKING刀剣TRPGシナリオ書き始めてるんですけどこれでいいんですか…?合ってる…?本丸で迎える朝。
    【自室】
    障子から差し込む光が瞼に透け、あなたは目を覚ます。
    夢を見ていたような気がするが、よく思い出せない。
    同室は今日は厨当番らしく、既に姿はない。そうしてのろのろと[PCによってはしゃっきりと]身を起こした。
    朝食まであまり時間はない。

    【廊下】
    「(PC名)さん、おはようございます!」
    広間へ向かう道中、前田藤四郎[PCが前田の場合、他の刀剣]に声を掛けられる。
    「今日の朝食は何でしょうか?」
    *ここで<目星>
    -成功
     魚の焼ける匂いから、朝食は焼き魚であることを察する。
    -失敗
     あなたは鼻が詰まっているらしく、うまく匂いを嗅ぎ取れなかった。

    【広間】
    広間についたあなたは、盆を受け取り、うまく空いている席を見つけるだろう。
    正面には五虎退が座っていて、「おはようございます」と声を掛けてくる。
    大体の刀剣が揃ったところで、今日の近侍が「いただきます」の号令を掛ける。
    朝食は味噌汁、ほうれん草のおひたし、白米、焼き鮭だ。

    <目星>よく見ると焼き鮭の骨が一本飛び出ていて、そのまま口にしていたら舌に刺さったかもしれない。取り除こう。
    <聞き耳>昨日の酒宴の 764

    ヰノ

    MAIKING不思議なお店の話の冒頭の草案
    猫がいる本丸と南泉一文字
    その店は、万屋街の外に居を構えていた。
    小さな花屋の隣、ともすれば見落としてしまうほどのささやかな玄関。看板もないその店の存在に南泉一文字が気付いたのは、店先を掃除している一振りの短刀がいたからだ。
    「お困りですね」
    箒を持ったまま五虎退がいやに断定的な言葉を掛けてきた。
    南泉は何の事かと思ったが、すぐに自身が持つ『困りごと』の存在を思い出し、戸惑う。
    そんな様子を意に介さず、五虎退はアンティーク調のノブを引き、店内へ導いた。
    「どうぞ。お茶を用意します」
    誘われるままに踏み込んだ店は、洋風のアンティークなカフェを思わせる内装の、少し薄暗い雑貨屋だった。古臭くはあるが、煤けてはいない。手入れの行き届いた上品さがある。
    五虎退が勧めるソファに掛けると、その座面の柔らかさに驚いた。南泉がこれまでの刃生で座ったことのあるどのソファよりも(彼の本丸にソファはないので、彼は今まで政府施設の布張りのベンチをソファだと信じていた)柔らかいのだ。
    何故か連れ込まれた店内で持て余した時間を、ガラス瓶を逆さにしたようなランプが吊り下がっているのを眺めて潰していると、紅茶とクッキーをトレイに載せた愛染国俊 1728

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