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    dc_hatobannu

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    深夜の割増(赤安)

    #赤安
    #小説
    novel

    その日もまた、降谷は疲れていた。
    黒尽くめの組織のバーボンとしての任務、喫茶ポアロの店員としての勤務、そして警察庁警備局警備企画課としての業務が重なりまさに分刻みの一日を過ごした降谷は、帰る力も無く深夜の霞ヶ関の路肩に車を駐め仮眠を取る他なかったのだ。
    ここから自宅まで大して遠い訳でも無いが、毎日一人では抱えきれない程の仕事をこなし、帰宅して明日を迎えればまた同じような違う日々が続いていく。彼に取ってこのひとときの仮眠は、仕事を終えたというスイッチを真っ先に切る役割を果たしていた。
    そんな彼に、今日は普段と異なる出来事が。
    こんこん、と助手席側の窓を叩く音。人の指だ。浅く眠っていた降谷はその音でぱちりと目を覚まし、音を鳴らした主を見やる。深夜見回っていた警察官か、はたまた仕事場の人間か。しかしその予想は大きく外れ、降谷を驚かせた。
    深夜の冷たい風にふわりと揺れる黒い癖毛。暗闇でも光を集めて見せた新緑のグリーンアイズ。身をかがめて覗き込んだようで、普段と異なる黒いキャップのつばがコンと音を鳴らして窓にぶつかった。
    「やあ」
    「赤井…」
     何故お前がここにいる、何故碌な変装もせずにいる。何故、何故……と降谷は研ぎ澄ました思考を瞬時にめぐらせたが、それが一転、彼の動きを鈍らせることとなった。突如現れた亡霊・赤井秀一は降谷の愛車のドアを勝手に開け、大きい図体を車内に割り込んで降谷の車に乗り込んできたのだ。降谷はまさか乗り込んでくるとは思っておらず、咄嗟にシートベルトを外したがその手は赤井に制されてしまった。
    「何をしに来た貴様」
    「いや、タクシーも捕まらないまま足がなくて困っていたんだ。そうしたら見慣れた白馬が佇んでいたもので」
     癪に障る言い回し、さらに緊張感のない赤井の様子に毒気も抜かれてしまった降谷はシートベルトをはめ直すと、自分の手に重なっていた赤井の手は離れていった。
    「僕を足にしないでください。あの無駄に派手な車はどうしたんですか?」
    「アレで街中走ったら目立って仕方ないだろう」
     いちいち降谷の神経を逆撫でしていく赤井。さらには我が物顔でシートベルトを付けるものだから降谷のこめかみにはますます青筋が立った。
    「送るとは一言も言ってないんですが」
    「つれないことを言うな。俺と君の仲だろう」
    「命を狙っている因縁の! 仲ですけどね!」
     赤井を前にするとどうもペースを乱されてしまう。そうだ、赤井と降谷は因縁の仲だ。かつては同じ黒尽くめの組織の中でお互いの正体を知らぬまま潜入捜査をし、同じ潜入捜査官でNOCであることがばれ自殺したスコッチ――諸伏景光――を巡って降谷は赤井がスコッチの自殺を止められなかったことを恨んで追いかけた。その一件も、スコッチが降谷の足音を組織の誰かだと勘違いして咄嗟に自らを打ったことだったと既に和解したことであるが、それでも降谷は赤井のことを胸に焼き付いて消えない火傷のように感じていた。
     そんなもどかしい思いをしている降谷とは一転、赤井は相変わらずすかした態度を取り、降谷をからかうかのようなそぶりをして見せた。降谷はそれがまた気に入らなかった。
    「眠気は覚めたか?」
     同業の男にするものでない優しい眼差しと口ぶりも、降谷は気に入らなかった。
    「おかげさまで!」
     吐き捨てるように言い返してエンジンを入れると、赤井が「米花町まで」と言うものだから、余計に腹が立って「深夜割増で請求しますからね」と返せば、「支払いはFBIに付けておいてくれ」と。降谷はますますこの男が嫌いだと思いながら、街灯照らす広い道路を走り出して行った。

    車内は主に無音だった。そもそも赤井はぺらぺらと喋る方ではないのは降谷も知っていた。深夜車通りもほとんど無い中で響き渡るのはRX7の走行音のみ。無言に耐えられなくなった降谷は迷いながら口を開いた。
    「いいんですか、僕なんかとこうして」
    「君なんか、とは」
    「だから……」
     降谷からすればかつて恨み命を狙って追いかけ回した相手、気まずく感じない訳がない。しかし言い淀んだ降谷の気も知らずか、赤井はさらりとその障害を越えて見せた。
    「誤解が解ければ俺と君は同じ目標を追う捜査官だ。仲良くしたいと思って居るよ、俺は」
    「人が気にしていることをお前はそうやって……!」
    「すまない。気を遣うのは得意じゃないんだ」
    「推理はできるくせに」
     ははは!
     と、赤井が笑った。
    「僕と仲良くしたいって貴方正気ですか?」
    「正気だとも。何なら後で君と食事の約束をしようと思っていた」
    「それに僕が応じると思っているところがむかつきます」
    「応じてくれないのか?」
     赤井が横で身振りも交えてわざとらしく考え込んだ。
    「どうして僕と仲良くしたいんですか? 必要ないでしょう」
     初対面や長く良い付き合いならまだしも、二人の間柄は只ならぬものである。降谷はわざわざ今更手を取り合って仲良くしましょうなんていうのは面倒だろうと考えていた。
    「必要あるさ。君は特別だから」
     キッ! と急にブレーキを踏み込んで車は停車した。赤信号だった。二人の体は慣性の法則で前にぐっと乗りだし、ぼすんとシートに打ち付けられた。
    「おっと」
    「あっ……貴方ねえ、いくら冗談でも言うタイミングってもんがあるでしょう!」
    「冗談なんかじゃないさ、ああ、俺はここで降りるよ」
    「えっ」
     赤井は戸惑う降谷を置いてけぼりにして、シートベルトを外す。ジャケットの襟を正すと、ぎしりと助手席のシートに膝を立てて運転席側に乗り出してきた。
    「な、なに」
     赤井の不可解な行動にぎゅ、と目を瞑った降谷は体を硬直させ、次に赤井がする行動を待ち構えた。
    「気が向いたら連絡してくれ」
    胸ポケットにかさりと感触がして、ポン、と手で叩かれたところで目をぱちりと開いた。眼前に迫っていた赤井と目が合い、ふっ、と笑われた。
    赤井が車を降り、歩道を歩いて行くのを見やってからすぐさま胸ポケットを確認した。車内のライトを点けて確認すると、それは電話番号の書かれたメモだった。
    「連絡なんて……するわけないだろ」
     ぽつりと呟いた言葉も、深夜のしんとした無音の空間に溶けて消えた。
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    dc_hatobannu

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    12/17 赤安サンプル

    「赤井、結婚しましょうか」

    赤井と籍を入れたいと思った。
    そう思い至るまでの話をしよう。少々長くなる。
    長年追い続けていた国際的犯罪組織・黒尽くめの組織を各国警察のエージェントたちと、とある小さな名探偵の活躍により瓦解に追いやった。多くの人々が組織の犠牲となり、僕の憧れの人であり組織の薬品開発者であった宮野エレーナも亡くなり、失ったものはあまりにも多く、大きかった。僕の公安警察の人生において大きな割合を占めていた黒尽くめの組織の瓦解は僕の生活にぽっかりと穴を開けたが、ある一つの大きな存在が太々しくどっかりと座り込んでいた。
    赤井秀一だ。
    当時ライというコードネームでFBIから組織に潜入していた赤井は、バーボンというコードネームでスパイとして潜り込んでいた僕とは全くそりが合わなかった。赤井は僕のことを役立たずだとでも思っていたのか顔を合わせるたびに僕を馬鹿にした態度をみせ、嫌味と睨み合いが絶えなかったのは今でもはっきりと覚えている。当時ライが同じ潜入捜査官だとは知らなかったが、態度は悪いながらも頭の切れる奴がこんな組織で燻っているなんて、と半ば嫉妬のような気持ちもあったと思う。そんな機嫌の悪い僕を宥めてくれていたのが、同じく組織に潜入してスコッチというコードネームを貰っていた幼馴染のヒロだった。
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    冴羽獠×槇村香
    原作以上の関係

    背中合わせに座ってる二人を書いてみたくて、書いてみた(*´ω`*)

    話の中で二人は服を着てませんが、ほぼ会話だけなので全年齢とします。
    We are Buddy. ふと目が覚めてみると、大きな背中が視界に入った。広々と、そして隆々とした、傷だらけの背中。少し背を丸くして、獠はベッドサイドに腰掛けていた。その肩は一定のリズムを刻みながら、静かに上下を繰り返している。あたしは、身体に掛けられていたシーツを払って起き上がった。
     獠の背中には、今夜あたしが残した傷以外にも、生々しい打撲の痕が残っていた。それは、あたしを庇ったがために受けた傷だった。獠はいつも、依頼人やあたしが爆発に巻き込まれたとき、必ず庇ってくれる。その大きな身体を盾にして、爆風や瓦礫から守ってくれるの。今日だって、そうやってあたしを守り、獠は負傷した。
     それが、獠の仕事。それが、獠の生業。あたしも、頭ではわかっている。けれど、こうして獠の背中を見ていると、あたしのせいで傷つけてしまった事実を、改めて突きつけられた気がした。あたしは、獠の背中へ手を伸ばした。でも、その肌へ触れる直前で、あたしの手が止まった。――触れたからと言って、何が変わるのだろう。謝ったって、慰めたって、感謝したって、この傷が消えるわけじゃない。そもそも、獠自身はそんなことを望んでいない。それは、誰よりもあたしが一番よくわかっている。だからあたしは、その傷に触れることも、その傷ついた背中を抱きしめることもできなかった。それならば、せめて――。
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