【読ドラロナ】後ろの準備は死んでる間に済ませた 夜更けのドラルク城。
ジョンとうちのヤツらに「おやすみ」と手を振り扉を閉めたドラルクの肩に、背後からこつんと顎を乗せながら「なぁ」と声をかけた。
俺の顎置きは「ひょぇ!」と叫び声を上げつつ、驚きの衝撃で死んだ。予想通りだ。いつものこと。
「──あぁびっくりした。お待たせ。あれ? シャワー浴びたの?」
「勝手に借りた」
勝手知ったるドラルクの城。シャワーを借りて、城主が用意した俺用の下着と寝巻きの買い置きを開封し、代わりに洗濯カゴに退治人服と履いてた下着を丸めて入れるのはもういつものことだった。ふかふかのタオルも拝借し、部屋に戻ればちょうど蘇生したドラルクが手袋を外した手をこちらに伸ばしてくる。
「髪乾かしてあげよう。こっちにおいで」
「ん」
俺は持っていたタオルをそれに乗せる。
ソファに座らされ、鳥獣の冬毛のようにやわらかいタオルを髪にあてられれば、ものの数分ですぐに乾いた。その乾き具合を確かめるためか、ドラルクはヘッドスパワイヤーみたいな指を髪に通してくる。
「んっ……」
「ふふ。声出ちゃった? これ、こうされるとさ、気持ちいいでしょ?」
「……ぞわぞわする」
「それね気持ちいいっていうんだよ」
「きもちいい」
「そ。感じたままを素直に受け取って声に出すと、もっと気持ちよくなるよ。ここを、こう、とか?」
「……ぁ……すげぇ。そこ」
「こっちは、どう?」
「……ぅ、あ……そっちも、すご……それ、もっと」
「……仰せのままに」
こいつの冷えた指がシャワーであたたまった頭皮を行ったり来たりしているだけなのに、妙に気持ちいい。ゴリゴリに凝り固まった俺の頭皮は一向にほぐれなかったけれども、心はほろほろと解れていく。
「きもちいいねぇ、ロナルドくん」
俺の心を代弁したやや間延びしたドラルクの声に、こくんと頷けば、上機嫌な調子で「ふふ」と笑い、俺の髪に指を通し続ける。
あやうく脳みそまで溶けて、このまま眠りに落ちそうだと思った瞬間、その指が項や首筋や耳殻を掠めるように触れていくから、それが俺の意識を無理やり引き上げてきやがるうえに、腹の奥底に、ぽっ、ぽっと欲の火種をともしていく。
「……なぁ、ドラルク」
「なぁに? もっと?」
「……もっと……っ、じゃなくて」
「遠慮しなくていいよ。前も後ろもいっぱいしてあげる」
するすると滑る指がより悪戯に性感を煽る。絶対わざとだろ。こいつ俺の反応見て嗤ってやがる。そう思って後ろを振り返って睨みつけてやれば、予想に反してドラルクはまったく笑っていなかった。
「……お前、煽ってんのがどっちだかわかんねぇ貌してんじゃねーよ」
見つめた先にあるピジョンブラッドにチラつく激情に気づいて、俺はそれの尻尾を逃がしてなるものかと反射的にドラルクの腕を引く。
仰向けに転がりながら倒れてくる体を受け止めてやれば、ソファの上でもつれ合うように重なった。
ドラルクが俺を見下ろしながら、ぐうと唸る。
「…………だって仕方ないじゃない。君の反応がいちいちえっちすぎるのが悪い」
そう言いながら、クラバットを抜く手つきの荒らさに、俺は静かに舌なめずりした。