反社の男とその女2私はモブ谷。大学休学生だ。
素敵なキャンパスライフを夢みたものの、彼氏は出来たが直後友達に寝盗られて、寝盗られたというより、ただのヤリチン野郎に騙され浮気されまくり、学校を辞めるまで悩んだ結果、休学している。
コンビニのモブ田さんが突然辞めた結果、夜勤にまで入らされてしまって最悪だった。
女の子1人は危ないからと、中卒のヤリ美と深夜から早朝を対応させられている。コイツ、サボるから嫌なのに……。
ヤリ美はこのコンビニの男全員とやってるし、子持ちの店長とは愛人関係。
とても可愛い顔をしてるし、スタイルもすごい。
本当に毎日が憂鬱だった。
そんな私の憂鬱の原因はもう1つある。
それはヤクザが来ることだった。
反社だから嫌だとか、なにかされてる訳では無い。この人に絡み、ヤリ美が目に余ることをするから憂鬱なのだ。
低いエンジン音が止まった。するとヤリ美が慌ててバックヤードから出てきた。
「いらっしゃいませぇ~。あぁ?マイピー♡こんばんわぁ」
猫なで声でいらっしゃいませを言った相手は何処からどう見ても筋者とわかるオーラを放つ黒髪ロン毛、クマが酷いし目に輝きのない美形マイキーくんだった。
「……。タケミっち今日は何買うの?」
「新しく出たケーキ!」
「ケーキが食べたいならパティシエ呼ぶよ……?」
「もー分かってないなぁ。こういうなのが美味いんだよ!」
一緒に入ってきたのは木彫りの熊が小さい木彫りの熊をくわえてる謎のダサTとスウェット、爆乳でフワフワの髪をしたタケミっちさんだった。
「マイピー、久しぶりだね?私、ずっと会いたかったよぉ?」
客相手によくやると思う。
ヤリ美は華やかな世界に憧れていて、人気キャバ嬢か芸能人になりたいらしい。
確かに、ヤリ美の容姿なら簡単に上位になれると思う。でも、問題は遅刻や早退という、容姿からずっと甘やかされてきた悪習慣が原因で、可愛い女の子を見なれてるキャバのオーナーやボーイにヤリ美程度の色仕掛けでは通用せず半月もかからずクビ。代わりにドレス、エステ、罰金という負債まで背負わされ、今コンビニ店長の愛人になり、借金の返済をしてもらい、更にお小遣いと何もしてないのに入る時給で生きている。
そんな彼女がここで出会ったのがマイキーくんだった。
「えー!モブ谷さん知ってたのになんで言わなかったのよ!!彼、東卍の無敵のマイキーじゃん!!わざと?!サイテー!!!」
そう言われた時は目が点になった。
無敵のマイキーなんて聞いたことない。
知らなかったと言えば疑いつつも信じてくれた。
「まぁ、田舎の子なら知らないかぁ〜?無敵のマイキーって関東一の半グレで芸能界から政治家、警察まで、言うこと聞かない人いないって言われてるグループの頭だよ!!きゃー!私、絶対マイキーに気に入ってもらって、芸能界デビューする!!」
それからマイキーくんをマイピーと呼び、馴れ馴れしくしている。
当のマイキーくんはタケミっちさん以外には興味がないのか、生返事しかしないし、なんなら店内に入らない時もある。
モブ田さんの時からずっと来ていた深夜の常連さんらしく、タケミっちさんはモブ田さんが辞めていなくなったことに酷く顔を暗くしていた。
「ねぇ、マイピー。今度私と遊び行きませんかぁ……?そのぉ……私から声かけるとか……初めてで……凄く緊張してるっ!」
いつもの設定、テンプレで吐きそうになる。
「行かねぇ。タケミっち、両方買っていいよ……?俺と半分こしよう?」
「はい!モブ谷さんこれもお願いします!!」
「――円です。お2人いつもご一緒で仲良いですね」
「え?……えへへ、マイキーくんとは仲良しなんだ!」
ポッと頬をあからさまに染めて、同性だけどタケミっちさんは可愛い。
「ええっもう行っちゃうぉ?マイピーまたねぇ?」
その声を無視して2人は出ていった。
「あーあのタケミっちて女ほんとウザ!ブスでデブだし?シリコンどうせ入ってんでしょあれ、マイピーにすり寄ってキモ!!」
自己紹介お疲れ様。そう言ってやりたい。すぐバックヤードに行ってしまい、1人での深夜の作業に戻った。
そんなある日、マイキーくんは車の側でタバコを吸って入店してない時だった。
タケミっちさんが1人でいそいそお気にりのチョコと新作スイーツのたい焼き、濃厚系アイスバーとフルーツ味のアイスバーをレジに持ってきた時、普段は私がするのにヤリ美がレジに入ってきた。
「――円。うっわぁ~デブってこういうの食べるんですねぇ?私、美容に気を使うからなんにも気にしない子みたいに食べてみたいなぁ?容姿気にしないって超楽そうー」
「ちょっと……!なんに言ってんのよ……!!し、失礼しました!申し訳ありません……!!」
「事実じゃん」
驚きすぎて、キョトンとしたタケミっちさんは、意味を理解して恥ずかしそうに顔を赤くして直ぐに出ていった。
「ぷっ、見た?あの女の顔?あーブスって教えてあげて私優しー」
「ヤリ美ちゃん……!お客さんだよ!!タケミっちさんいい人じゃん!!」
「はいはーい」
本当に性格悪い子だ……。できるだけタケミっちさんの会計は入るようにしたけど、マイキーくんが入店してこない時は必ずタケミっちさんの会計をして、悪口を言うようなった。
「マイピー可哀想……。こーんなブスだし、どんくさいし、デブの女に彼女ヅラされて……。マイピーやさしいから面倒見てあげてるのわかんないんだ?私ならマイピーの幸せ考えたらぜぇったい離れてあげるのに、グズってそういうこともわかんないんだねぇ?不釣り合いって早く気付きなよ」
ついにやってはいけない事までヤリ美はした。会計を済ませた最近必ず買っているたい焼きをぐちゃぐちゃに握り潰したのだった。
「ヤリ美ちゃん?!あ、タケミっちさん!新しいの持ってきますから……!!」
「……っ!……っぅっ……!!」
瞬間、目に涙をため、いつも以上に早足でタケミっちさんは出入口に向かう。
「うっわーあの歳で泣くとかマジぶりっ子ぉー、きも~い、引くぅ!」
その背中に更に言うのだから、本当に最低だ。
外でシャツの袖で数度目元を拭いてマイキーくんの所に走って行った。
新しいたい焼きを自腹で交換するため商品を取りに行く。ガラスの向こう、車の外でマイキーくんとタケミっちさんは少し揉めているようだった。
たい焼きを手にとって、レジを通してとしていたら、タケミっちさんはマイキーくんを車に強引に押し込み、すぐに駐車場から出ていった。
それからしばらく2人は来なくなった。
半グレにその女と、最初こそ嫌な存在だったけど、とても理想のカップルで羨ましいし、次誰かと付き合ったら2人みたいに仲良くしたいと思っていた。
それから数週間後、マイキーくん1人が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「あ、マイピー♡久しぶりぃ、あれぇ?彼女さんわぁ?」
「……。なぁ、お前さ画面デビューしたいんだって?」
「えぇ……?急にどぉしたのぉ~?確かに……昔モデルしないかとかぁ言われたけどぉ……?私可愛くないしぃ断ったんだぁ」
「前から思ってたんだよ。お前……ソッチに向いてるって」
「えぇー?どういう意味かわかんなぁい?えっえっ?マイピーどういう意味~?」
「俺がデビューさせてあげる。まぁ、そっちはイザナに任せてるから合わせてやるよ。次はいつ入ってる?」
「明後日入ってますぅ」
「この時間?なら明後日にイザナ連れてくる。何枚か写真撮らせて」
「えぇ?なになにぃ?私スカウトされてるのぉ?やだぁ!」
そんなことを言い、外に出て顔を撮影している2人を無視し、タケミっちさんがよく買ってたチョコとコンソメ味のお菓子、たい焼きのスイーツを買い、ヤリ美と交代で外に出る。
「あの!マイキーさん!待ってください……!!」
「……なに?お前もデビューしたいの……?」
「違います……!この間、タケミっちさんが……その……、これ、タケミっちさん好きなやつですよね……?お詫びに貰ってください」
受け取った袋の中を見ているマイキーくんの顔は1つも変わらずら喜んでるのか戸惑ってるのかも分からない。
「そう。きっとタケミっちなら、喜ぶよ」
「あ、あの……、ずっと言いたかったんですけど、二人みたいな大切に想いあってる理想の恋人いいなって……!私、憧れてます……!」
何故こんなことを口走ったか分からない。でも、今言わないといけない気がした。
「……りそう……嬉しいよ、ありがとう……。お前、明後日、入ってるなら休んだ方がいいよ。俺らの事、理想って言ってくれたからお礼。イザナはあるモノ全部持ってくからさ?まぁ……休みたくないなら、好きにしたらいい」
初めて真正面から見たマイキーくんの目は、あまりに闇が深くて、その深い黒に飲み込まれそうだった。
当日、とても気になったけど、結局ズル休みした。
交代は男のバイト。これもアイドル事務所に入れる位顔はいいが、窃盗、いじめを自慢げに語るヤリチンでスカウトされてもその経歴から白紙になる顔だけ君だ。ヤリ美とセフレらしく率先して代わってくれて助かった。
翌朝、ヤリ美から自慢LINEが来た。
イザナという白髪、褐色のイケメンはマイキーくんの兄で、そういう業界を仕切ってるらしい。彼の会社からすぐにデビューすることが決まったと、一緒にシフトに入ってたヤリチンもスカウトされ、ほぼ同時期にデビューするらしい。
2人のグラムのストーリーにもスカウト自慢が連投されてる。
その投稿以降、アカウントは動かなくなった。
次の出勤で、私は当日付けで辞めることを伝えた。だから2人に詳しいことを直接聞けなかった。
マイキーくんのあの深い闇を見て、ここで働いたらダメな気がしたから急遽辞めた。
親に誤り、大学に復学し、サークルに入れば新しい友達と彼氏ができた。人生が楽しくなりだし、ヤリ美達のことなんて、すぐに忘れてしまう。
最近はリベンジャーズという売り出し中アイドルにハマった。私はハッカイを推してる。
SNSでリベファンを見つけて、繋がり仲良くなったちょっとテンションがおかしい年上の友達はナマモノと言うやつを教えてくれた。
彼女の推してるチフユに似ているゲイビがあるとリンクをDMで送られ怖いもの見たさでリンク先に飛べば驚く。
半年前、一緒のコンビニで働いていた男だった。
怯えた顔の安いパッケージにはヤリチンが載っていた。その制作会社関連作品の排泄物系イロモノにヤリ美が載っていた。
その友達曰くこの企画会社、出演者はずば抜けて見た目がいい反面、全部ガチ。
レイプなら本当にレイプしているし、水責めや窒息拷問、リンチも本当。ほぼアングラな作品が、大手を振って売られている。
あまりに過激で実際、出演女優から契約内容と違うと訴訟されて社長が捕まった。
出演者から訴えられても会社を潰してまた新しい名前で会社を、という事を繰り返している。
訴えられた事件のネット記事も見つかった。注意喚起のサイトまである。だけど、逮捕された社長という男の名前はイザナでもなく、写真はくたびれた中年。ヤリ美が言っていた白髪褐色のイケメンではなかった。
あの日、マイキーくんは本当にお礼で助けてくれたみたいだ。あの時、選択肢を間違えなくて良かった。
▫
「タケミっち……なんで泣いてるの?」
「な、泣いてないよ!……ちょっと目が痛くなっただけ……」
「泣いてるじゃん……。しかもそれ……、ぐちゃぐちゃじゃん。俺、話してくるわ」
「……やめてよ!マイキーくん……行かなくていいから……行かないで、側にいて……」
「タケミっち……?」
「俺、マイキーくんの側にいるの……不釣り合いだよね……一番分かってるよ……」
「違う。俺がタケミっちに不釣り合いなんだ……。ごめんなタケミチ。こうなる前に、出会いたかった……。こんな生活させてごめん……お前の世界に行けなくて、戻してやれなくて、ごめん」
「早く帰ろう……マイキーくん、今日は、ずっと抱いてて欲しいよ……」