全員生きてるなぞ時空です
ヒナとはわかれてる
東卍はとりあえず落ち着いてる
高校を入学し、すぐに先輩不良グループに目をつけられた。そりゃそうだ。入学そうそう金髪のやつなんて、目立って仕方ない。
入れる学校なんてたかが知れてるため自然とヤンキーが非常に多い学校になる。さらに言えばキヨマサくんの奴隷をしていたと知っている人間もいる。それが高校に入学し、調子に乗ってると思われるるのは当然だった。
屋上にアッくんや見たことの無い他校のヤンキー共々呼び出され、シメられた。
「そういや東卍の隊長クラスがお前らの同い年 にいるらしいじゃねぇーか。そいつになんでもいいから面白いことしてこい」
「えっ、む、ムリっす……!!」
「勘弁してください……」
口々に泣きを入れる。しかし、そんなの通じる相手ではない。
「あぁ? やらねーならここで根性焼きだ。どっちがいいんだ?」
ニヤニヤしていて、本当に底辺ヤンキーは嫌いだ。
全員がビビって何も言えない。根性焼きも嫌だ、だからと言って東京一帯を締めてる東京卍會構成員に喧嘩を売るのも嫌だ。
「全員腕だせ」
「っ」
「か、勘弁してください……!」
誰かが土下座をして、怖さで半泣き。アッくんが覚悟を決めた顔をする。
だから、それより先に声を出す。
「俺……! 俺が東卍のやつに告ってきます……!!」
「タケミチ……!!」
アッくんが、声を出す前に手を挙げ大声で宣誓する。
ブハッ、と先輩達は吹き出した。こういう下世話なことが好きなのはキヨマサくん達で学習済み。
「いつするんだ?」
「こ、今月中に……」
「あぁ?」
「今週中にします!! だから、勘弁してください……!!」
「俺のダチ、東卍に入ってんだよ。嘘だったら、分かってんだろ……? お前らの誰か必ずこいつがマジでやったか見とけ」
「はい……!!」
「う、うっす!!」
襟首を掴まれ、体が持ち上がる。つま先立ちになった体が投げ捨てるように離され、体がよろけた。
どうやらこれで勘弁してもらえたらしい。
顎でしゃくられ、頭を深く下げ屋上から撤退。
「……タケミチ……お前っ……」
「し、仕方ねぇよ……。アッくんは、タイマン勝負……するって言うつもりだったろ? 東卍なんて……ぶっ殺されるって!」
呼び出された名も知らない奴らはチラリとこちらを見やるだけで、足早に消えていく。
人気のない倉庫と化した教室の廊下前で一息ついた。最近はここが溝中五人衆の溜まり場だったりする。教師の目の届かないところはどこぞのチームか先輩かが使っているから仕方ない。
「お前だって……告ったらぶっ殺されるだろ……!」
「い、いや……。告るくらいなら、半殺しだろ……」
「一緒だバカ!!」
「……アッくんが、殺されるよりマシだ……」
「……タケミチ……」
奴隷をやってた頃、理不尽な暴力を嫌という程味わいもう懲り懲りだった。拳闘をバックレた日、偶然東卍の総長がそれをみつけ鉄槌を下し、喧嘩賭博は解散。キヨマサくんは、その後入院しどうなったかは知らない。
「なぁ……アッくんはさ、どいつが東卍のやつって知ってる?」
「知らねぇ。俺らが知るわけねーだろ!」
「だよなー。誰か分かったら教えてくれ……」
「……」
「頼むよアッくん! 俺やらないと全員アイツらに根性焼きされてぶっ殺されるか、俺だけそいつにぶっ殺されるかなんだよ……!」
「……ぶっ殺されんな……バカミチ……。分かったら教えてやるから」
「ありがとな」
そうして3日後には誰かが判明した。
隣のクラスの松野千冬、柴八戒、そして本当か嘘か分からないが陰キャガリ勉に見える場地圭介が構成員らしい。副隊長は松野千冬と柴八戒が確定している。隊長にバジという名前は確かにあるが、ガリ勉の場地がほんとにそうなのかは定かではない。たまたま同じ苗字か兄弟の可能性もある。
「とりあえず……柴はやめとけ……。柴大寿ってバケモンが兄貴にいるから。告るなら松野千冬の方がまだ良い……」
山岸が教えてくれる。どつやらクリスマスに無敵のマイキーと激突して互いにタダでは済まなかったとか。
「うっし! 明日、告ってくる……!!」
みんな、渋い顔して応援してくれない。そらそうだ、誰だって応援したくないだろう。
明日が来て欲しくない、そう思ったのは喧嘩賭博の奴隷をしていた時以来だった。
1日中落ち着かない。松野千冬が今日学校に来なかったらいいのに……、そんな願いは虚しく、彼はいつも遅刻ギリギリで登校してきた。
昼はいつも教室で場地圭介と食べているのでそこへ足を向ける。
「あ、あの……!!」
「あぁ?」
「ん?」
明らかに松野千冬は嫌そうに、場地圭介はメガネが厚くて目が見えないが不思議そうにこちらを見た。
「あっ、あっ、あの松野千冬くん! 今日の放課後、屋上来てください……!!」
「あぁ? んでだよ」
「話があるんで……! それじゃ……!!」
「おいコラ!!」
メンチの切り方が今までの誰よりも怖かった。怖すぎて言い逃げしてしまう。
キヨマサくんとか、先輩とか、んなの比にならないくらいに眼光が鋭い。
追いかけられてる気配はないが、何となく走ってしまう。そのままいつもの溜まり場へ。
タクヤもアッくんも心配そうだった。
「……タケミチ……どうだった……?」
「とりあえず……、言ってきた……目付きやべぇよアイツ。はぁ……。来るかはわかんねぇ」
「ん、ならとりあえず俺ら先に屋上で隠れてるから……」
「頼む」
アッくんやタクヤ達だけだと疑われるので適当に呼び出されたメンバー数名にも声をかけておく。
こんなに放課後が楽しみでない事なんてあっだろうか。
数学の時間でも英語の時間でもいいから終わらず続いて欲しい。なんなら教師から呼び出されてお説教をくらい屋上に向かったらもう帰ってた、なんてことにはならないだろうか。
そんな願いは虚しく、いつもより早く何故か授業が終わり掃除当番も無くて順調すぎた。
アッくんと証人役は最後の授業はサボり既に屋上に待機している。
重い足取りで屋上に逝く、いや行くとアッくんとあの日見たヤンキーがひょっこり顔を出し親指を立てる。それに同じように返して早鐘を打つ心臓を落ち着かせようとフェンスの下に見える下校と部活の生徒で入り交じった校庭を見下ろした。
来る、という可能性しか考えてないが、もしかしたら来ないかもしれない。盲点に気づいた。
そう! 来ないかもしれない! その微かな希望に少し気分が良くなった。なんだかどんより見ていた青空も晴天な気がしてくる。来ないに違いない。だってあの東卍だ。こんな雑魚ヤンキー相手にするはずない。
あと5分まってこないならもう帰ろう、そう決めた時だった。
ーーガチャ ギィッ
独特な錆びて重くなった屋上ドアが開く音がする。