今日は帰宅できない、そう仕事を終えて理解する。
返り血でとか仕事をしくじってとか、そんな理由ではなく単純に体が酷くクスリを欲しているからだ。
身体にアレを入れたい。入れなくては。欲しい。
どうしようもない衝動。
タケミチには見られたくない姿で、間違いなく存在し、隠せない姿。あのボロ屋に行こうと思っていたが、変更する。
こういう時は、変わりに最上に住まわせた女のところ。
目に痛く、酷く騒がしい気配の多い街で高級と言われる部類の店。ボーイの声とにこやかに店のママが出迎え、No.1にしてやった女もすぐに席につく。
男も女も関係なく妬み嫉みの視線が注がれる。
適当にボトルを入れてそのままアフターという形で店をでる。まだまだ営業時間だ、それなりの支払いを済ませ、それに鼻高々な女。
呼んであった車に乗り込むと早速女はすり寄る。
「サンズ、どこ連れてってくれるの?」
「あぁ? 帰んだろ」
「えぇ! 私、行きたいところがあって」
「うるせぇんだよ!!」
イライラするので髪を鷲掴み振り回すとピーピーうるさく泣き出した。運転手は何も反応しない。
これは良い暮らしと、店でNo.1の称号を得るための利用料だ。
早く早くとクスリを求めた手は震え、カプセルを飲み込む。非難する声が聞こえる。
途端に世界が暗転していく。
何かを喚くナニカを引きずって、与えた最上の部屋の中、思うがままに振る舞い、気付くとすでに夜が白むという時間帯。
隣には生きてるのか死んでるのかわからない女だったモノが転がる。
体が気持ち悪い。シャワーを浴びに浴室へ向かい、背中に痛み画走り体に傷がついたことに気づく。
「クソッ、あの糞女……!!」
見ると明らかな情事の後で、これではタケミチとしばらく触れ合えない事に腹が立つ。
濡れた体をそのままに、銃を片手にまだ動かないゴミのもとに行く。
「てめぇ! ゴミカスの分際で……!!」
頭に銃口を押し付けてやるが潰れた声にならない音しか聞こえない。
「あぁ?! 聞こえねぇよドブ!!!」
髪と頭をまとめて掴み持ち上げれば酷い顔だった。クスリでハイになり、やらかしたヤツの顔。体はボロボロだが顔は傷付けないあたり、我ながら流石と言える。
「汚え。次ナメたことしてみろ、この爪1枚ずつ剥がす」
返事はない。聞こえてるのかいないのかも知らない。新しいスーツに着替え、姿見でくまなくチェック。
一緒に風呂は入れないが、背を見られなければ大丈夫だろうか?
女の臭いタバコの残り香は消えたか?
もうすぐタケミチがコノ階下に来る。それまで、いやこれからも知られてはならない姿。
秘密の通路から地下へ降り、いつもの車に乗り込み一言『今から行く』の連絡をする。
むろん返事は無いし、別に欲しいとも思ってない。
今から出勤の人間がチラホラ歩く姿が目に入る。いつものボロ屋前の空き地。乱暴に駐車するとゴミ出しをしている訝しげな顔のババアがこちらを見るが、こちらの姿を見た途端目を逸らしそそくさと自宅に戻って行った。
ここら辺は、ヤバい筋にお世話になってるやつが多い。触らぬ神に祟りなし。そういう対応で何かあっても首は突っ込まない。
いきおいよくドアをぶん殴るが反応がない。まだ寝ているのだろうか。
「ヘドロ! 開けろ!!!」
中からは声がしない。スペアキーでドアを開ける。
寝ぼけた顔のタケミチが布団に包まりこちらを見てる。
「起きてんなら開けろウスノロ! 出迎えねぇとかいい度胸じゃねぇーか」
「……う? ちよ、くん、おはよーございます?」
ズカズカ中に入り、布団事タケミチ見のしかかる。
「っおもっ……、くるなら、言ってよ」
「連絡した」
「うー?」
そのまま布団に入り込む。タケミチは頭上に置いた携帯を見る。
「来てる……けど、時間! んー……おかえりちよくん、おれまだ寝たいんですけど……」
「お前あのゴミ見てぇな仕事は?」
「先週でラストって言わなかったっけ? ちよくんはこのまましごと?」
体温を感じるためタケミチを抱きしめると腕の中で擦り寄ってくる。
「仕事なら来てねぇよバカ。疲れてんだ、静かにしろ」
「理不尽! スーツシワなるよ」
「うっせぇ、寝れねぇ」
「理不尽」
やっと仕事を辞め、このボロ屋の契約も終える。あと数日後にはタケミチが手元に戻る。
気分が良い。
そのまましばらくすると腕の中からスースー寝息が聞こえ、そのままつられ眠りに落ちる。