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    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.25───セイロス教の信徒によって辺境へと追いやられ、生き延びるために文化的変容を強いられたにもかかわらずダスカー人たちが北部に源流を見るのはいささか不思議な気持ちになる。だが現在のダスカー人たちはどこ出身であろうと北を神聖な方角と見做し、祭壇や上座を北側に作る。(中略)巫者は儀式の前に衣装や道具を北に設えた祭壇の上に置くか吊るす───

     ディミトリはアンヴァルに突入する直前にエーデルガルトと話し合う機会を得られた。まだ起きていないことを阻止しようとする彼女との会話は全く噛み合わず、決裂を確認するだけで終わったが悔いはない。
     帝都を突っ切って宮城の最上部まで突き進み、変わり果てた彼女を見た皆は言葉を失っていた。あんな姿になってまで守りたいものが何なのか全く分からない、と表情だけで訴えかけてくる。だが、片目を失いドゥドゥーを失ったと思い込んで闇の中を彷徨っていた時期のディミトリは化け物そのものだった。《似合いの姉弟だ!お前たちに違いなどあるものか!殺し合うがいい!》
     ヒューベルトは主君のあの姿を許容したのだろうか。不可逆なのだろうか。それとも魔獣に変化させられた学生たちのように元に戻れるのだろうか。従者であったヒューベルトを失った結果、エーデルガルトがあんな選択をしたならディミトリには責任がある。

     苛烈な攻撃を掻い潜り悍ましい姿になったエーデルガルトの眼前にようやく出られるか、と言う局面でドゥドゥーがディミトリの隣にやってきた。
    「失礼します。お顔に血が」
     確かに飛んできた瓦礫が額に当たった感触はあった。だが眼帯の少し上なので視野に影響はない。
    「後で構わない。メルセデスから離れるな」
     ドゥドゥーには回復役のメルセデスを守るよう命じていたのに、ディミトリは戦場において非常に貴重な汚れていない布で顔を拭われてしまった。
    「俺だけでなく、皆が共にいることをどうかお忘れにならないでください」
     遠くでメルセデスが小さく手を振っている。自分のことは気にするな、と言うことかもしれないし───弟を中途半端に保護して利用したエーデルガルトへの細やかな意趣返しなのかもしれない。姿を変えた彼女は玉座で一人、ディミトリとの直接対決の時を待っている。
     答え合わせがしたい、と思った。そんな些細なことが裂けたディミトリの心を縫い合わせていく。裂けた心からまた周囲全てを呪う声が漏れ出す日もあるだろう。
     だが、それでも皆が共にいてくれる。ディミトリはアラドヴァルを改めて構えた。


     ギルベルトとセテスがエーデルガルトの亡骸を検分している。先ほどディミトリが彼女の亡骸に触れようとした時にベレトが些か強引にディミトリの手を引いた。シルヴァンたちにはあれが出来ない。
     フェリクスとイングリットが慌てて彼らについていった。今は勝利に貢献してくれた兵たちを労っている。彼らの歓声は帝都に響き渡っていることだろう。
    「引き離してもらえて助かりました。異形の姿になることを躊躇わなかったのですからどんな罠を仕掛けているか分かりません」
     ギルベルトが言う通り、亡骸を辱めようとするものが出ないように服や装備に毒や呪詛の類を仕込む話は確かによく聞く。シルヴァンは何となく年長者として彼らのそばにいた。
     結局、大した罠がなかったのはやはりエーデルガルトがヒューベルトを失ったからだろう。 彼女は迅速に、だが丁重に、ヒューベルトの隣に葬られることになった。その他に死者にしてやれることは墓が辱められないように見張りをたてるくらいだろうか。

     ローレンツは意外なほどその沙汰を喜んだ。彼もミルディンに葬られていた可能性があったからだろう。笑顔のままそれぞれの領地に戻れることがシルヴァンは嬉しかった。なんと長い同窓会になったのだろう。ディミトリと王都を奪還する想像はしていたが、帝都アンヴァルに攻め込むことになるとは考えていなかった。
    「ああ、ようやく自領に戻れる。早く家族や領民たちを安心させてやらねば」
    「統一式典には顔出せよな。俺もフェルディアに行くからさ」
     レスター諸侯同盟の諸侯たちは既に書面で王国への帰順を申し出ていたが大々的にフォドラを統一したのはファーガス神聖王国である、と知らしめる必要がある。
    「クロードが出られなかったことを惜しむくらい式典と祝宴が壮麗だといい」
    「そうだな、派手にやるよう陛下に進言してみるよ」
     ディミトリは名実共にシルヴァンが忠誠を誓う王となった。ファーガスの気風通り質実剛健だが、彼を祝福する大司教となったベレトなら案外乗っかってくれるかもしれない。


     エーデルガルトを討ち、フォドラの王として即位したディミトリ、そして彼をセイロス教の大司教として祝福したベレトは共同でフォドラの内外に向けて布告を出した。残念ながらファーガス神聖王国とパルミラには国交がないのでクロード、いや、カリード王子は王宮内にある自室で密偵が持ち帰ってきた布告の写しを読むしかない。原本はフェルディアとガルグ=マクにあり───あまねく知らしめるために大量に写しを制作したのだと言う。
     木版印刷だが布告の内容から言って、近いうちに活版印刷が解禁されるだろう。ディミトリはフォドラの統一を宣言し、ベレトはセイロス教が信徒を導き損ねた件について丁寧に詫びていた。彼は教会が無謬である、と取り繕うことを止めさせるつもりなのだ。
     この調子だと他人の顔と名前を盗むものたちにどのように対処したのか、も詳らかに公表するだろう。パルミラからフォドラに接触するとしたらその発表の後だ。パルミラにも似たような技術を持つ厄介な呪術師がいる。彼らと技術交流をさせないためにもディミトリとベレトには頑張ってもらうしかない。こういう計算高さが兄弟仲の悪さや自己嫌悪の源だ。
     カリード王子、いや、クロードはかつて信頼についてローレンツの父グロスタール伯エルヴィンから嗜められたことがある。ディミトリが正気を取り戻していなかった時期なので、ローレンツが王国軍でどう扱われるのか分からず二人とも気が揉めていた。あの時、ローレンツと自分は単なる学友ではないと打ち明けていたら身内として手を取り合って互いを慰めることができたのかもしれない。
     益体もない妄想だ。こんなことを考え出すのは決まって淋しさに打ちのめされている時で、そういう時はいつも酒をひっかけて早めに寝ることにしている。夢の中のローレンツは学生だったり成人だったりするのだが、最初はいつもクロードに叱言を言う。その先のことは誰にも言うつもりはない。だがローレンツが似たような夢を見てくれていたら嬉しいし、夢を現実にするための努力は惜しまないつもりでいる。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    7.背叛・上
     皆の初陣が終わるとクロードの記憶通りに事態が進みロナート卿の叛乱の知らせがガルグ=マクにもたらされた。養子であるアッシュへセイロス教会からは何も沙汰が下されていない。軟禁もされずアッシュの方が身の潔白を証明するため修道院の敷地内に閉じこもっている。鎮圧に英雄の遺産である雷霆まで持ち出す割に対応が一貫していない。前節と同じく金鹿の学級がセイロス騎士団の補佐を任された。クロードの記憶通りならばエーデルガルト達が鎮圧にあたっていた筈だが展開が違う。彼女はあの時、帝国に対して蜂起したロナート卿を内心では応援していたのだろうか。

     アッシュは誰とも話したくない気分の時にドゥドゥが育てた花をよく眺めている。何故クロードがそのことを知っているかと言うと温室の一角は学生に解放されていて薬草を育てているからだ。薬草は毒草でもある。他の区画に影響が出ないようクロードなりに気を使っていたがそれでもベレトはクロードが使用している一角をじっと見ていた。

    「マヌエラ先生に何か言われたのか?致死性のものは育ててないぜ」
    「その小さな白い花には毒があるのか?」

     ベレトが指さした白い花はクロード 2097

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    17.惨劇・上
     南方教会を完全に無力化されてしまったことや西方教会対策やダスカーの幕引きでの手腕には疑わしいところがあったがルミール村においてまず疫学的な検査から実施されたことからもわかる通りセイロス騎士団は手練れの者たちの集まりだ。ベレトの父ジェラルドまで駆り出されている異変においてクロードやローレンツのような部外者が介入しても迷惑がられるだけだろう。

     クロードにしてもローレンツにしても記憶通りに進んでほしくない出来事は数多ある。ロナート卿の叛乱もコナン塔事件も起きない方がよかったしこの後の大乱も起きて欲しくない。だがこのルミール村の惨劇は起きてほしくなかった案件の筆頭にあげられる。他の案件の当事者には陰謀によって誘導されていたとはいえ意志があった。嵌められていたかもしれないが思惑や打算があった。だがルミール村の者たちは違う。一方的に理性や正気を奪われ実験の対象とされた。そこには稚拙な思惑や打算すら存在しない。事件を起こした側は村人など放っておけばまた増えると考えたらしいが二人にとって直接見聞していないにも関わらず最も後味が悪い事件と言える。
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