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    「説明できない」38. 岩漿・上
    赤クロ青ロレの話です。

     ローレンツは前回の人生ではダフネル家のジュディッドに親しみをもてるほど関わりを持っていない。だが今回の人生は違う。命からがら帝国軍から逃れた際にようやくまともな風呂に入れさせてくれたのはジュディッドだし援軍まで用意してくれたと言う。ただしアリルまで迎えにいかねばならない。

     クロードは毎日鍛錬や諸侯への根回しに忙しそうだ。調べ物に割く時間がないと溢すのでローレンツが代わりに書庫でアリルに関する本を探したりセイロス騎士団の中にいるアリル近辺出身者から話を聞いている。これは戦場の霧はない方が良い、と常々言っていたベレトの影響だ。

     今晩も皆が寝静まった後でローレンツとクロードは意見を交換している。クロードの部屋は相変わらず片付いていないので場所はローレンツの部屋だ。給茶器でお湯を沸かしているので夜も火を落とすまではクロードの部屋より暖かい。

    「俺の部屋にも給茶器を置こうかな」
    「置ける場所を作りたまえ」

     ローレンツが魔道学院にいた頃、寒さに厳しいファーガスで買い求めたもので三段重ねになっている。一番下に燃料である炭を入れ蛇口がついた二段目には水を入れて沸かす。一番上にお湯と茶葉を入れっぱなしの茶器が置いてある。当然煮えて濃くなってしまうので飲むときには二段目で沸かしたお湯で薄めて飲む。

     ダフネル家からの物資を受け取るまでは山の恵みも最大限に活用すべしと言うことで皆、積極的に狩に行っていた。基本的には鳥と鹿、それに猪だが薬の材料にも食材にもなるので冬眠しそびれた熊は皆が密かに狙っている。

     そんな中、ベレトが冬眠している蜜蜂の巣を見つけて持ち帰ってきた。何故そんなことをローレンツが知っているかというと修道院の敷地内で恐慌状態になって巣から飛び出してきた蜂の群れに出くわしファイアーで仕留めたからだ。手伝いをしてくれたお礼に、と小さな瓶だがベレトからひと瓶貰っている。今晩クロードに振る舞っている紅茶にもその蜂蜜が入っていた。

    「お、甘い。これ先生とメルセデスが割った巣から取ったやつか?」
    「ファーガス出身の者は皆、野趣に溢れている」

     益虫といえどもローレンツは虫の群れを注視したくない。だが修道士を目指していたメルセデスは修道院は養蜂もやるからと言って平気で巣の中をいじっていた。人は見た目によらない。

    「いや、大助かりだよな。皆それぞれ事情もあるだろうにきてくれたのはやっぱりあの縦走かな?」
    「そうだな、あんな体験をしたらやはり皆に会いたくなるだろう。僕も青獅子の者たちと会えて嬉しかった」
    「気分転換に顔を見にきただけの連中も多そうだが俺に巻き込まれて気の毒なことだ」
    「だが皆手詰まりだと思っていたのだろう」

     ファーガスの者たちはディミトリが見つからない限りフェルディア奪還への決め手に欠ける。フェルディナントはいつどんな難癖をつけられて処断されるか分からない。ドロテアは歌劇団の疎開に協力し地方の現状を見ていくうちにエーデルガルトにはついていけないと感じたらしい。

    「今日訓練のついでに話してみたんだがペトラはブリギットとの条約改正より戦争を優先させたエーデルガルトに失望したらしい」
    「軽んじられたように感じたのかもしれない」

     ドロテアとペトラがエーデルガルトのお気に入りという点においてはクロードとローレンツの記憶が珍しく一致していたので二人はガルグ=マクで彼女たちを見たときはかなり驚いた。

    「フェルディナントたちに千年祭の約束について連絡したのはローレンツだよな?」
    「グロスタール家は親帝国派なのでね」

     青獅子の者たちには縦走中にこの有り様では五年後の約束はどうなるのかという話を散々したので伝えずとも知られている。

    「縦走のおかげで縁故関係は前回の人生より遥かに広がった。でも縦走が実行できたのは"きょうだい"のおかげだ」

     籠城を視野に入れていたかもしれないセイロス騎士団から逃避行用の物資を分けて貰うために青獅子の者たちもだがペトラやドロテア、それにフェルディナントにも名義を金鹿の学級に貸して欲しいと言って頭を下げていた。あの姿に皆絆されているのは確かだろう。

    「立場が僕の知る青獅子の者たちと入れ替わっている。君がここでの同窓会を強行したからかもしれない」
    「ガルグ=マクと"きょうだい"どちらが鍵なんだろうな」

     その考えは危険だ、とローレンツの心の奥から声がした。もしベレトから選ばれることだけが鍵であったというならば今までのクロードの努力もローレンツの努力も全て無意味であった、ということになってしまう。ローレンツは思わず空にした白磁の茶器を受け皿に戻す際にがちゃりと大きな音を立ててしまった。

    「失礼。クロード、それは今答えを出す必要がある問いなのか?」

     自分が何を言ったのか理解したクロードが首を小さく横に振る。問が正しいとするならばクロードもローレンツも全ての責任から解放される代わりに主体性が消失してしまう。

    「ないな。お前が作法を忘れるくらいおかしなことを言って済まなかった」
    「明日にはアリルに向けて進軍開始だ。とにかく暑いらしいから手巾を沢山持って行かねばな」

     ローレンツの下手な冗談を聞いてクロードが笑ったところでその晩はお開きとなった。
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