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    「説明できない」43.戟塵・上
    赤クロ青ロレの話です。

     ジュディッド、シャミアそれに他の密偵たちからも王国の兵が中心と見られる謎の軍勢が同盟領内を通過しコーデリア領とフリュムを繋ぐ橋に向かったという報告が上がってきた。ガルグ=マクにいるファーガス出身者たちは激しく動揺している。あれだけ疲弊した王国にまだそんな余裕があったのかという驚き、誰が率いているのかと言う当然の疑問も解消されない。

     幼馴染たちがガルグ=マクにいることなど調べればすぐにわかるのに軍を立ち上げるにあたって何故彼らに声を掛けなかったのか。共にオグマ山脈を縦走した頃のディミトリならば必ず声を掛けてきたはずだ。軍議の際にも議題として取り上げられたがディミトリ本人が率いている軍なのかそれとも彼に後事を託された謎の第三者が率いている軍なのかとにかく情報が少なすぎてガルグ=マクにいるクロードたちには判断できない。ディミトリがローレンツの記憶通り正気を失っているのかはたまたクロードの記憶通り遣り手の王なのか。クロードもローレンツも残念な話だが前者の可能性が高いと考えている。

     山の春は人間の思惑とは関係なく訪れ雪は溶け新芽が芽吹き動物たちは冬の眠りから覚めた。ガルグ=マクの敷地内に蜜を集める蜂や蝶々が飛び回っている。一度皆で実家に戻ったこともありガルグ=マクまでならば物資は滞りなく入ってくるようになった。もうラファエルを黙らせるために狩りをする必要もない。

     ベレトはファーガス出身者たちを落ち着かせるために毎日こまめに彼らの話を黙って聞いていた。中庭に行けば大体誰かと茶会をしているベレトを見ることが出来る。茶会での語らいと麗らかな光景の格差は激しくダスカーの悲劇以来どろどろに煮詰まった感情の行き先を皆決めかねていた。

     ある日、クロードは大荷物を抱えてフェリクスとベレトが茶会をしている脇を通った。その際に彼らの会話が聞き取れてしまった。聞き取れてしまったことを誤魔化すため荷物を取り落とした。

    「クロード、そんな持ち方だから荷物が落ちたんだ。ここで積み直していくんだ」
    「物を取り落としてさまになるのは女どもぐらいだぞ」
    「フェリクスの言う通り確かにアネットならさまになる」

     フェリクスが不愉快そうに舌打ちしたのとは対照的にベレトは口角をわずかに上げて愉快そうな顔をしている。しているのだがこの微かな表情の違いに気がつくのはおそらく教え子たちだけだろう。とにかくクロードは急いでこの場を立ち去りローレンツと聞き取れてしまった内容について今晩にでも話し合う必要があった。

     念の為フェリクスが隣室のクロードではなくローレンツの部屋で話し合いをすることになった。フェルディナントなら万が一聞かれてしまっても冷静な意見を述べてくれるはずだ。先月と比べてかなり暖かくなったがまだ夜は冷える。温かいお茶を眠る前に飲めるのはありがたかった。結局、クロードはまだ部屋に給茶器を置いていない。

     諸侯から物資が滞りなく届くようになったせいかローレンツが悪戯っぽく差し出した今晩のお茶請けはクロードにも見覚えがある焼き菓子だった。

    「食べ飽きたかね」
    「いや、間が空いたから良いさ」

     薄い白磁の器に注がれた飴色のお茶を口にするとクロードは本題に入った。

    「ダスカー人の名誉回復だ。ディミトリはそれと引き換えでなければ王位を継がないと言っていたらしい。俺が知る未来では大修道院陥落の後すぐに即位してセイロス騎士団をファーガスに呼んでたから分からなかった」
    「それは……」

     クロードの話を聞いてローレンツは言葉を失った。ダスカーの悲劇の顛末についてファーガスの者はどう考えているかはともかく帝国の者も同盟の者も辺境の少数民族に国王暗殺などと言う大罪が犯せるはずもなく単に近くに居ただけの不運な者たちを八つ当たりの対象にしたにすぎないと考えている。ファーガスの者にしても無意識のうちにそういう考えがよぎらなければドゥドゥーがディミトリの従者を務めるはど有り得ないのだ。

     ディミトリはずっと父とフェリクスの兄グレンを殺した真犯人を探していてファーガスの大人たちが犯した罪を告発しようとその機会が来るのを待っていたのだろう。

    「俺が知るドゥドゥーは従者兼ディミトリ王の身辺を警護する警備隊の隊長だよ。今まで気に留めもしなかったけどな。ディミトリが家臣たちとの交渉に勝ってダスカー人の名誉回復も成し遂げたからなんだろうな」
    「ファーガスの大人たちがそこで折れるかどうかで道が分かれた、ということか。シルヴァンたちが口籠もるのも道理だな」

     ガルグ=マクで一年共に過ごしドゥドゥーがどんな人物なのか皆理解したしダスカーの悲劇の際に聞き入れられなかったディミトリの証言が正しかったことも薄々分かっている。自国の親世代の者たちが聞く耳を持たなかったことに呆れてしまったのだ。

    「布陣を決めるのは先生だが謎の軍勢を率いているのがディミトリくんだとしたらしばらくはファーガスの者をガルグ=マクで休ませるべきだ」
    「ちょっと先生を顔を見にきたつもりのあいつらを拘束して何節たったかな?」
    「四節だ」
    「俺も同意見だ。あいつらは休息を取るべきだな。それと聞かなかったふりしてくれよ」

     クロードがそう頼むとローレンツはフン、と鼻を鳴らした。

    「出来るに決まっているだろう。何度、初めての感謝の祈祷をしたのか数えていなかったのか?」
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    DONE #クロロレ春のこども祭り2021重力から自由になったと思った矢先、クロードは全身に強い痛みを感じた。跳ね起きようとしてマヌエラ先生から身体を押さえられる。押さえられた拍子に視界がぐるぐると回りやがて上下が定まった。

    「落ち着きなさいクロード!貴方は飛竜から落ちたの。下敷きになったローレンツも骨折したわ。二人とも信仰魔法で治したけれど大怪我だったから落ち着くまで時間がかかるわ」

     落ち着く、とはなんだろうか。信仰魔法の主な副作用は吐き気と眩暈だ。先程マヌエラが起きあがろうとしたクロードを止めたのはせっかく治したのに目眩を自覚せず歩こうとして転倒されては無意味になってしまうからだろう。

    「ああ、それで視界がぐるぐると……それとローレンツが下敷きって??」
    「ローレンツも無事だから落ち着きなさい。目眩を起こしたまま歩くのは本当に危ないの。人によって体質の違いがあるけれど一日か二日は絶対安静よ」

    「せんせい、もうしわけないのだがおけをぼくのてもとにいただけないだろうか?」

     反対側の寝台から声変わり前の高くてかわいらしい子供の声がした。医務室の寝台には全て幕が掛かっていて互いが見えないようになっている。

    「ああ、 1753

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生 2090

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    11.末路・上
     クロードは先日、あんなことをしでかしておきながら怯えさせてすまない、とローレンツから逆に謝られてしまった。あれから何度か時間をとって話し合いをしてみたが互いの知る未来にかなり大きな食い違いがあることが分かりその後はおかしな雰囲気にはなっていない。

     細かな違いはあれどクロードの祖父が体調を崩し盟主代理として円卓会議に出席すること、それとマイクランが破裂の槍を盗み出すことは共通していた。

    「俺はマイクランが討ち取られたという話しか知らない」

     クロードの知る過去でもローレンツの知る過去でも級長が不在の可能性があるなら、と言うことで金鹿の学級はコナン塔へ行かなかった。

    「そちらでも箝口令が敷かれていたのか」

     教会は何かを隠している、というのが元からのクロードの主張なので教会の態度に矛盾はない。ベレトから馬の面倒を見るように命じられた二人はそれぞれ別の馬に新しい水や飼い葉を与え体を拭き尻尾の毛に櫛をかけ絡まっている塵を取り除いてやっている。いななきや馬が立てる物音が話し声を隠してくれた。今後の展開が色々と気になるところだが今回も祖父ゴドフロアの具合が悪くなるなら 2156

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    16.鷲獅子戦・下
     ローレンツがグロンダーズに立つのは二度目だ。一度目はローレンツの認識からすると五年前でベレト率いる青獅子の学級が勝利している。敗因は堪え切れずに飛び出してしまったローレンツだ。更に危険な実戦で囮をやらされた時に堪えられたのだから今日、堪えられないはずはない。

     赤狼の節と言えば秋の始まりだが日頃山の中の修道院にいるので平原に下りてくると暖かく感じた。開けた土地は豊かさを保証する。グロンダーズ平原は穀倉地帯でアドラステア帝国の食糧庫だ。畑に影響が出ない領域で模擬戦は行われる。模擬戦と言っても怪我人続出の激しいもので回復担当の学生はどの学級であれ大変な思いをするだろう。

     ベレトが持ってきた地図を見て思うところがあったのかクロードは慌ててレオニーとラファエルを伴って教室から駆け出し書庫で禁帯出のもの以外グロンダーズに関する本を全て借り上げてきた。皆に本を渡し地形描写がある物とない物に仕分けさせた。この時、即座に役に立たない本だけを返却させている。情報を独占し他の学級に無駄足を踏ませた。クロードのこういう所がローレンツは会ったこともないべレスから疎まれたのかもしれない。
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