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    「説明できない」44.戟塵・中
    赤クロ青ロレの話です。

     丹念にファーガス出身者たちから話を聞いたベレトはアッシュとメルセデス以外の者をグロンダーズへ連れていかずガルグ=マクからのミルディン大橋を経由しグロンダーズに至る補給路の確保を担当させた。謎の軍勢は王国東部の者が多いようだという斥候の報告が決め手となっている。戦場に回復役はいくらいても足りないしグロンダーズには弓砲台があるのでスナイパーもいくらいても多いと言うことはないので本当に申し訳ない、とベレトは皆の前でアッシュとメルセデスに頭を下げた。

     大軍を展開させるには事前準備がとにかく肝要だ。命の奪い合いはせずに済むが補給を担当するシルヴァンたちの責任は重大で戦場に出る者全ての命運を握っていると言っても嘘ではない。前線の兵士たちは食べなければ飢えて死ぬし武器がなければ反撃出来ずに死ぬ。ローレンツは自分の死後をシルヴァンに託したが今度は命を託す。

     ベルグリーズ領に入りグロンダーズ平原に向かうにつれて霧が濃くなってきた。ダークメイジが作り出したものではなく天然の霧なので我慢するしかない。だがベレトが言うには悪いことばかりでもない。居場所を覆い隠してくれるので望外の休憩を一度取れることとなった。火は焚けないが座ることができる。ローレンツが座って干し肉を齧っているとクロードがやってきた。

    「今までアンヴァルにいたエーデルガルトが前線に出てくる。あいつがどんな布陣を敷くかで答え合わせが出来るな」

     ローレンツがミルディン大橋で命を落とす寸前に気づいた仕掛けを今も採用しているのかどうかがいよいよ判明する。

    「もし僕の考えが合っていたらエーデルガルトさんが帝位についている限り和平交渉は不可能だ」
    「徹底的にやるしかない。あてにしてるぞ」

     クロードは最後にローレンツの背中を叩くと飛竜に飛び乗り空の上の人となった。ローレンツはドロテア、イグナーツと共に弓砲台を攻略する部隊に配属された。ローレンツはドロテアと共に魔法による遠距離攻撃で護衛を減らし最後はイグナーツに奪取した弓砲台を操作してもらう。

     作戦を遂行するため弓砲台に近づくと早速突出したドロテアに向けて弓砲台から矢が飛んできた。幸い、彼女は咄嗟に避けたが矢の精度は極めて高い。ローレンツが一旦下がるように言うと砲台にいるのが誰なのか察したドロテアが辛そうに首を振りながら戻ってきた。

    「なんてこと、ベルちゃんだわ……」
    「確かですか?」
    「声を聞いたのよ」

     イグナーツとベルナデッタはガルグ=マクにいた頃、兵種が同じだったこともあり互いの腕を知っている。ローレンツはイグナーツと同時にため息をついたが理由が違う。

    「降伏させられたら良いんですが……」
    「そうね、ベルちゃんは戦争に命をかけるって性格でもないから私に機会をくれる?」

     イグナーツとドロテアの降伏させたいという考えにローレンツは希望を賭けた。あんな恐ろしい予想は外れている方が良い。

    「勿論だとも」

     その後、弓砲台を守るパラディンやフォートレスを一人ずつローレンツの槍や魔法それにイグナーツの弓で削っていった。どんなに気が急いても天から降ってくるに等しい矢と敵兵を同時に相手にするわけにはいかない。

     ようやく全ての兵士を倒しドロテアのトロンやメテオが弓砲台に届く距離まで彼女が歩みを進めた時、高台が炎上した。弓砲台の四方が全て紅蓮の炎に包まれ中から悲鳴が聞こえる。

    「なんてこと!ベルちゃん!嘘でしょ!ベルちゃん!!」
    「ダメだ!ドロテアさんまで焼け死んでしまう!」

     ローレンツはイグナーツと二人がかりでかつての友人を助けようとして火傷を負ったドロテアを高台から引き摺り下ろした。彼女まで死なせるわけにはいかない。信仰魔法の心得があるローレンツがライブをかけるとドロテアは泣きながら冷静さを欠いて済まないと謝ってきた。気にしないで欲しいとドロテアを慰めながらもローレンツの心には恐怖が満ちている。

     まともな考えの持ち主ならインデッハの紋章を持つ貴族の娘を敵軍への罠ごと焼き殺さない。没落した元名家の子息と隣国の名家の子息程度では主だった将の殆どが紋章を持つディミトリの軍相手にミルディン大橋は守りきれない。ローレンツは死の寸前、エーデルガルトたちが紋章を継ぐ者をわざと死地に追いやり戦死させることで絶やそうとしていることに気付いた。

     勿論これはローレンツが知る過去のエーデルガルトの振る舞いなのでこのエーデルガルトは違った考えを持っている可能性もあった。だがベルナデッタへの仕打ちでこのエーデルガルトも紋章を継ぐ者を絶やそうとしていると判明した。クロードは今ごろベレトと共に別の部隊と戦っているのは承知しているが可能な限り早く報告しなくてはならない。

     ベレトはいつも敵軍の射程外に回復魔法を使える者を配置しそこに天幕を張るので使い物にならなくなった弓砲台を放置してローレンツとイグナーツはドロテアをそこへつれていってやった。

    「メテオもトロンも使い切ってしまったのだろう?火傷もしてしまったのだし少し休むと良い」
    「ありがとう二人とも。私、本当にアンヴァルに残らなくてよかった」
    「ローレンツさん、イグナーツさん。特効薬は足りていますか?」

     マリアンヌがドロテアに回復魔法をかけながら問うてきた。物資が豊かになり皆の装備も充実している。ローレンツが一度命を失ったあの日、フェルディナントが持たされていたのはただの傷薬だった。あの日の発見は何度も何度もローレンツの心を抉る。

     新品の特効薬と交換してもらうとローレンツとイグナーツはクロードたちのいる戦場へ向かった。イグナーツもベルナデッタの最後に衝撃を受けている。

    「僕、クロードくんと同じ軍で良かったです!」

     気分を切り替えるように明るい口調で話すイグナーツの手が震えていた。慰めるために手を握ってやりたくてもローレンツは籠手をつけているので握ってやれない。
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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。
    2.振り出し・下
     士官学校の朝は早い。日の出と同時に起きて身支度をし訓練をする者たちがいるからだ。金鹿の学級ではラファエル、青獅子の学級ではフェリクス、黒鷲の学級ではカスパルが皆勤賞だろうか。ローレンツも朝食前に身体を動かすようにしているがその3人のように日の出と同時には起きない。

     ローレンツは桶に汲んでおいた水で顔を洗い口を濯いだ。早く他の学生たちに紛れて外の様子を見にいかねばならない。前日の自分がきちんと用意していたのであろう制服を身につけるとローレンツは扉を開けた。私服の外套に身を包んだシルヴァンが訓練服姿のフェリクスに必死で取り繕っている所に出くわす。

    「おはよう、フェリクスくん。朝から何を揉めているのだ?」
    「煩くしてすまなかった。単にこいつに呆れていただけだ」

     そう言うと親指で赤毛の幼馴染を指差しながらフェリクスは舌打ちをした。シルヴァンは朝帰りをディミトリや先生に言わないで欲しいと頼んでいたのだろう。

    「情熱的な夜を過ごしたのかね」

     呆れたようにローレンツが言うとシルヴァンは照れ臭そうに笑った。

    「愚かすぎる。今日は初めての野営訓練だろう」

     フェリ 2066

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    3.遭遇・上
     三学級合同の野営訓練が始まった。全ての学生は必ず野営に使う天幕や毛布など資材を運ぶ班、食糧や武器等を運ぶ班、歩兵の班のどれかに入りまずは一人も脱落することなく全員が目的地まで指定された時間帯に到達することを目指す。担当する荷の種類によって進軍速度が変わっていくので編成次第では取り残される班が出てくる。

    「隊列が前後に伸びすぎないように注意しないといけないのか……」
    「レオニーさん、僕たちのこと置いていかないでくださいね」

     ラファエルと共に天幕を運ぶイグナーツ、ローレンツと共に武器を運ぶレオニーはクロードの見立てが甘かったせいでミルディンで戦死している。まだ髪を伸ばしていないレオニー、まだ髪が少し長めなイグナーツの幼気な姿を見てクロードの心は勝手に傷んだ。

    「もう一度皆に言っておくが一番乗りを競う訓練じゃあないからな」

     出発前クロードは念を押したが記憶通りそれぞれの班は持ち運ばねばならない荷の大きさが理由で進軍速度の違いが生じてしまった。身軽な歩兵がかなり先の地点まで到達し大荷物を抱える資材班との距離は開きつつある。

    「ヒルダさん、早すぎる!」
    「えー、でも 2073

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    16.鷲獅子戦・下
     ローレンツがグロンダーズに立つのは二度目だ。一度目はローレンツの認識からすると五年前でベレト率いる青獅子の学級が勝利している。敗因は堪え切れずに飛び出してしまったローレンツだ。更に危険な実戦で囮をやらされた時に堪えられたのだから今日、堪えられないはずはない。

     赤狼の節と言えば秋の始まりだが日頃山の中の修道院にいるので平原に下りてくると暖かく感じた。開けた土地は豊かさを保証する。グロンダーズ平原は穀倉地帯でアドラステア帝国の食糧庫だ。畑に影響が出ない領域で模擬戦は行われる。模擬戦と言っても怪我人続出の激しいもので回復担当の学生はどの学級であれ大変な思いをするだろう。

     ベレトが持ってきた地図を見て思うところがあったのかクロードは慌ててレオニーとラファエルを伴って教室から駆け出し書庫で禁帯出のもの以外グロンダーズに関する本を全て借り上げてきた。皆に本を渡し地形描写がある物とない物に仕分けさせた。この時、即座に役に立たない本だけを返却させている。情報を独占し他の学級に無駄足を踏ませた。クロードのこういう所がローレンツは会ったこともないべレスから疎まれたのかもしれない。
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