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    語り継がれる話は過去の真実を歪め実像からかけ離れていく。本当らしさの欠如によってのみ矯正が可能となる

    クロロレワンドロワンライ第34回「苺」 クロードは祖父が露台で麗らかな春の陽にあたりながらフェイルノートの手入れをしているところをじっと見つめていた。角が生え握りの部分に赤く光りたまに動く球体が嵌っている物を弓と言い切ってしまって良いのだろうか。クロードはそこから疑っている。
     
    「年が明ける今頃は指の腹でここを撫でてやると弦が張りやすくなる。季節によって場所が変わるからよく観察するように」

     祖父は立ち上がってフェイルノートを足の間に挟み弓の背に生えている角としか言いようのない部分を撫でている。弦を外すと通常の弓は真っ直ぐに戻ろうとするのだが弓筈が微かに内側へ曲がったように見えた。

    「早いとこ上手く扱えるようにならなきゃな」

     クロードは弓の腕には自信があるがまだフェイルノートの扱いに自信がない。焦りを帯びた言葉が聞こえているかのように握りの部分に嵌め込まれている赤い球体がぐるぐると回転している。矛盾した話だがクロードは初めてフェイルノートを構えた時、受け入れられた感覚と拒絶された感覚を同時に強く味わった。父から受け継いだパルミラの血のせいかもしれない。

    「まだ上手く扱えないとグロスタール家に発覚したら大変だ」
    「母さんも言ってたがそんなにリーガン家と仲が悪いのか?」

     祖父が警戒していたため紫の髪をした色白で背が高い親子とクロードが直接話すことはなかった。

    「お披露目の時に息子を連れて来ていたのは息子にもお前の顔を覚えさせるためだ」
    「なるほどね……」

     パルミラの後宮にいた頃は緑の瞳の、と言うだけでティアナとクロードのどちらかに絞り込まれていたがフォドラは違う。瞳の色髪の色肌の色がわかっている程度ではどこの誰なのかを絞り込めない。だから直接顔を知っていると有利に働くし強い繋がりを生む。晴れて顔見知りとなったグロスタール家の者たちとクロードの間にはどんな繋がりができるのだろうか。

    「疲れたから庭を眺めながら紅茶でも飲むか」

     オズワルドは接触事故を防ぐためフェイルノートを厳重に包んで傍に置くと手を叩いて屋内に控えていた従僕を呼んだ。従僕はクロードにカミツレの花茶と東方の着香茶どちらが良いのか問うてきた。どちらの茶葉もパルミラで好んで飲まれている。

    「ではカミツレの花茶とベルガモットティーを淹れて参ります。茶菓は何にいたしますか?」

     オズワルドもクロードもさほどこだわりがないので適当で構わないと言うと従僕は軽く礼をしてクロードたちの前から下がった。クロードは色々と慣れたつもりだがどうしても違和感が拭えないものがふたつある。ひとつ目は暦だ。

    「春に年明けってのは本当にぴんとこないな」
    「違和感を抱いていることを他の者に決して悟られないように」

     従僕が二人分の紅茶と茶菓を乗せた盆を持ってきたのでオズワルドは話題を変えた。

    「これは美味そうな苺だ。クロードも食べなさい」

     そしてふたつ目はこちらの果物だ。燦々と降り注ぐ太陽の下で育つパルミラの果物は甘いのだがフォドラの果物は芳しくはあるものの総じて酸味がきつすぎる。そして残念ながら鳳梨、茫栗、菴羅、万寿果などクロードが故郷で親しんでいた果物はフォドラでは育たないらしい。
     気が利く従僕はオズワルドの皿にはへたを切り落としただけの物をクロードの皿には薄切りにして砂糖をまぶした物を供してから二人の会話の邪魔にならぬよう下がった。フォドラの苺を初めて口にしたクロードが酸っぱいと言って顔を歪めていたのがよほど印象的だったのだろう。

    「ああ、春の味だ」
    「ガルグ=マクへ行くまでに少し慣れておく必要がある」
    「母さんはパルミラで生まれて初めて本物の果物を口にしたってわけか」

     孫の減らず口を聞いたオズワルドは思うところがあったのか孫の皿と自分の皿を取り替えた。

    「リーガン家の者なら嘘は得意な筈だぞ。顔に出さずに一つ食べなさい」
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