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    我々が幼かったせいで死ぬべきではない者が多数死んでいった。挽回不可能な失態は重なり取り繕うための欺瞞が今もなお我々の周りで渦を巻いている

    クロロレワンドロワンライ第36回「嘘」「開花」 祖父に呼ばれフォドラに来てからのクロードは嘘で周りを固めたような暮らしをしている。実はリーガン公の外孫でパルミラ王家の血を引き向こうに戻ればこれでも王子なのだ、と本当のことを言えば言うほど嘘くさくなるのだから仕方がない。
     逆に辺境育ちでリーガン家の遠縁の騎士の子だと匂わせておけば皆が納得する。この嘘に納得しないのはローレンツとヒューベルトだけだ。ローレンツは入学式直前に宣言した通りクロードのことを見続けているし何も語らないヒューベルトもクロードを観察し続けているだろう。
     彼の視線がクロードから外れるのは美しいご令嬢を見つめる時だけだ。相対的にみればその時だけ、と言えるが絶対的な時間で言えば割とクロードは野放しにされている。学年全ての貴族のご令嬢が彼に声をかけられたのではないだろうか。ローレンツの視線が外れている間にクロードは毒薬の材料を薬研ですりつぶしたりしているのだが彼は気付いていない。
     ローレンツが貴族のご令嬢を見つめるのは食事時と茶会の時だ。食事はいつも士官学校の食堂だが不思議なことに茶会はいつも中庭で自室ではない。

    「クロード、一体そこで何をしているのかね」

     ローレンツの質問は真っ当なものだった。温室や畑ならともかく移植ごてをもって中庭の茂みの前にしゃがみ込んで両膝と両手を土まみれにしていたら誰でも聞きたくなるだろう。
     温室以外で栽培が許可されていない薬草が中庭で開花していた。おそらく出入りする者の服に種がついたのだろう。パルミラではこの薬草は一般的で花も愛でるし種を菓子に混ぜて焼いたりもすると言うのにガルグ=マクでは温室外への持ち出しが禁じられている。クロードは現物が手に入ったら一度その辺りを考察しようと思っていたのだ。

    「標本の採取だ」
    「許可は得ているのか?」

     真っ当な人間は常に後ろ暗い者の痛い所を突いてくる。勿論、とだけ言って誤魔化した。勿論許可などない。根を傷つけないように慎重に掘り起こして鉢に入れるとクロードは振り向いてローレンツの方を見た。真っ直ぐな紫の髪から黒革の長靴のつま先まで完璧に整えてある。土まみれの自分とは対照的だった。
     丸い卓の上にはローレンツが自ら運んだのであろう茶器や茶葉の入った缶それに茶菓子が置いてある。どこぞの令嬢の前で気障ったらしく指を鳴らして湯を沸かすのだろう。そんなことをしている間に禁制品を部屋に持ち込んでしまうぞ、と言いたくなる自分がクロードは信じられなかった。

    「お前もしかして……真実の愛でも探してるのか?」

     名家や王家の人間がそれを探し当てるとどれほど厄介なことになるのかクロードは身をもって知っている。寝台の中でのふるまいが国や領地の未来に関わるからだ。

    「僕が探しているのはグロスタール家の嫡子である僕に相応しい人だ」

     皿や茶菓子を並べ終えたローレンツが鬱陶しそうに言い返してくる。茶会の際に見せる貼り付けたような笑顔とは違う。この表情はクロードだけのものだ。
     
    「爵位持ちに絞ったって総当たり戦は効率が悪くないか?」
    「僕は君と違って旅行の道中も楽しめる方でね」

     勝った、と言わんばかりにローレンツは笑顔を浮かべている。確かにクロードはある意味敗北を覚えていた。完全にローレンツの方が安定した環境で育っている。
     それは幼い頃のクロードがどんなに熱望しても父が王であっても与えられないものだった。幼い頃、この手の敗北感を味わった時はひたすら惨めだったが今感じているのは一種の爽やかさでもあった。ローレンツが全く嘘をついていないからだ。
     グロスタール伯なら簡単に身分器量性格ともにローレンツに相応しい配偶者を見つけられるだろう。だが彼は自分で探したい、と提案し拙いながらも伸び伸びと実行している。ある意味ではとんでもない女好きといえるかもしれない。
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    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生 2090