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    いつか墓を暴き我々の失態に光を当てる者が出てくるだろう。だが我々が失態に気付いていないと思うなら大間違いだ。

    クロロレワンドロワンライ第37回「こっそり」 ローレンツは父が主催した大規模な狩猟の時以外に建物の外で夜を明かしたことがない。狩猟番が管理し安全が確保された森で大勢の背子たちと共に火に当たり彼らが張った天幕の中で眠る。自分が何を民に命じているのか把握せよ、という父の教育方針もあり賊退治に同行したこともあった。だがグロスタール家の館は叛乱を起こした農民たちに攻め込まれたことがない。いつも攻撃を仕掛ける側だった。
     盗賊が何故夜の闇に紛れて士官学校の生徒たちを襲撃してきたのかは分からない。ばらけて一人ずつ殺されることを避けよう、というエーデルガルトの提案でガルグ=マクからの道中で見かけた近所の住民が資材を置いている小屋に集まっている。弓矢や魔法を少しは阻んでくれる壁に囲まれ一安心したのも束の間、クロードが天井を指差し皆に告げた。

    「まずいな、この小屋はちりとりだ」

     四隅に魔法陣が描いてある。皆、ここに辿り着いた時に中を調べたつもりでいたが天井など誰も見ていなかった。魔法か何かで攻撃されれば小屋は即座に倒壊し死者が出る可能性が高い。

    「早く出ましょう」
    「待ってくれ。きっと遠巻きにここを見張ってるはずだ。仕込みに気づいて出入り口から出ればそこを狙い撃ちされる」

     出入り口から逃げ出そうとした者を仕留めつつ建物を倒壊させてしまえば全員始末出来る。この辺りのめぼしい建物全てにこんな罠を仕掛けているとしたらかなりやり手の賊と言えるだろう。どうするべきかローレンツが考え込んでいるとクロードは続けてディミトリにとんでもない提案をした。

    「だからこの壁とあの壁を壊してくれ。きっと出入り口じゃあない所から脱出するとは想定していない。相手も混乱するはずだ」

     ブレーダッドの紋章を持つ者は怪力の持ち主として知られる。

    「承知した。ドゥドゥ手伝ってくれ。他にも力に自信がある者は手伝って欲しい」

     ディミトリが漆喰壁を殴るとひびが入ったが当然まだ貫通には至らない。その様子を見てカスパルやラファエルが自分たちもと騒ぎ出す。ディミトリがきっかけになるひびをそれぞれの壁に数箇所入れ協力して同時に壊れるように穴を広げていく。
     その騒音に紛れてクロードがローレンツにこっそりと近づいてきた。いきなり耳打ちされたので背中に悪寒が走ったがそれをクロードに悟られまいとローレンツは平静さを装った。
     
    「確実にこの中の誰かを仕留めたいってことなんだろうがやり口が異常だ。心当たりあるか?」
    「級長三人の誰かもしくは全員だ」

     三人とも規模はともかく身内に起きた悲劇が理由で今の立場にいる。それぞれに彼らだけが辛うじて死の顎から逃れた、と言うのが現状かもしれない。ローレンツがため息をつきながら答えを述べるとクロードの口の端が上がった。その笑顔に隠された苛立ちと怒りがいつかとんでもない事態を招きそうな気がする。

    「同感だ」
    「君、僕にわざと言わせたな……」
    「ちょっと俺に考えがあってな」

     ディミトリの拳とドゥドゥとラファエルそれにカスパルが振るう農具は凄まじい衝撃音を立てついに壁に人が通れるほどの大きな穴を二方向に開けた。

    「いいか?皆絶対に一人きりになるな。三、四人でひとかたまりになってそれぞれ北極星を目印にして山を目指せ!男どもは必ず女子を守れ!行くぞ!」

     そう言って檄を飛ばしたクロードは自分の提案を何一つ守っていない。元々の出入り口から一人で飛び出し北極星に背を向けて走りだした。ここは国境地帯なので少し南に行けば帝国領に入ってしまう。

    「ちょっと!どういうことなの!」

     納得のいかないエーデルガルトとディミトリがクロードを追いかけている。盗賊のうち誰を殺せば良いのか分かっている者が外套が目印だ、と叫ぶ声がローレンツの耳に届いた。
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    DONE #クロロレ春のこども祭り2021重力から自由になったと思った矢先、クロードは全身に強い痛みを感じた。跳ね起きようとしてマヌエラ先生から身体を押さえられる。押さえられた拍子に視界がぐるぐると回りやがて上下が定まった。

    「落ち着きなさいクロード!貴方は飛竜から落ちたの。下敷きになったローレンツも骨折したわ。二人とも信仰魔法で治したけれど大怪我だったから落ち着くまで時間がかかるわ」

     落ち着く、とはなんだろうか。信仰魔法の主な副作用は吐き気と眩暈だ。先程マヌエラが起きあがろうとしたクロードを止めたのはせっかく治したのに目眩を自覚せず歩こうとして転倒されては無意味になってしまうからだろう。

    「ああ、それで視界がぐるぐると……それとローレンツが下敷きって??」
    「ローレンツも無事だから落ち着きなさい。目眩を起こしたまま歩くのは本当に危ないの。人によって体質の違いがあるけれど一日か二日は絶対安静よ」

    「せんせい、もうしわけないのだがおけをぼくのてもとにいただけないだろうか?」

     反対側の寝台から声変わり前の高くてかわいらしい子供の声がした。医務室の寝台には全て幕が掛かっていて互いが見えないようになっている。

    「ああ、 1753