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    だが遂に事は成った。後世においてどちらがどちらに魂を売ったと評されるのか我々には知る由もない。

    クロロレワンドロワンライ第43回「薔薇」「笑顔」  ローレンツの二度目の学生生活は一度目と同じく途中で終わってしまった。アドラステアでもファーガスでも国を揺るがすような一大事があったので仕方ないとは言え失望してしまう。流石に父エルヴィンも思うところがあったのかローレンツを様々なところへこれまで以上に連れ出すようになった。領内の視察もだがデアドラに行く機会も増えている。気分転換にも将来の領地経営の参考にもなった。

    「父上も僕も遊びに行くわけではないのだよ。父上と僕が留守にするのだからイグナーツくんと共にこの家と母上を守るのが二人の責務だ」

     子守りを頼むイグナーツに迷惑をかけるわけにいかないので自分たちも兄上の友達に会いにデアドラへ行きたいと言う弟妹たちをローレンツは慰めている。父相手には言えないことをこっそり聞くのも長子の務めなのだ。だがローレンツ自身としてもややこしいことになりそうなので円卓会議がある時に弟妹をデアドラに連れていきたくない。自分も含めて皆が甘やかしがちな末の妹にしっかりしたリシテアを見習って欲しくはあるのだが、などと考えていたローレンツの鼓膜を妹のクロード=フォン=リーガンに会ってみたいという聞き捨てならない言葉が叩く。

    「それは駄目だ。あいつはこの僕に口付けしたような見境なしだぞ。危なくて会わせられない。あいつが義弟になったらと思うと寒気がする」

     弟妹は顔を見合わせた。兄が何を言っているのかよくわからない、と言う顔をしている。フォドラの首飾りで何があったのか、その後のガルグ=マクではどうだったのかを話していくうちに二人ともとりあえず今回はデアドラに行かないでイグナーツから弓や絵を習うと言ってくれたので助かった。

     将来、領主の座に着いた時のためマリアンヌもローレンツと同じくエドマンド辺境伯に連れ回されている。彼女とはデアドラで、と言うか円卓会議の会場であるリーガン邸でよく顔を合わせるのだが今回はマリアンヌが来ていなかった。つまり会議が終わるまでクロードと二人で過ごすことになる。リーガン邸に客間はいくつもあった。会議に出席する諸侯たちの随行員はいつの間にか従者の間と呼ばれるようになった部屋で会議が終わるまで待機する。
     だがクロードの友人は彼の指示で別の部屋に通された。マリアンヌがいれば三人で、そうでなければその場にいる二人で会議が終わるまで待機し続ける。暖炉はあるが小さな応接間で楕円形の卓とそれを挟むようにして長椅子が一脚と一人がけの椅子が二脚置いてあるだけだ。だが毎度クロードなりに二人を歓待しようとしているのか飲み物やおそらくデアドラの名店に作らせたのであろう茶菓子がふんだんに用意してあったし卓上の大きな花瓶にはローレンツを意識しているのかいつも大輪の薔薇が活けてあった。きっと庭に咲いていたものだろう。リーガン邸は庭園も見事なのだ。
     美しい花を見ながらリーガン家に伝わっている見事な白磁の茶器で紅茶を飲んで二人もしくは三人で大人の前では話せないような下らないことを語り合い会議の終わりを待つ。他人の目がないところではマリアンヌが突飛なことを言い出すのが楽しいのだ。士官学校が休校になってから笑顔で話せるような場がめっきり少なくなっている。三人揃っている時はマリアンヌが長椅子に座り男二人はそれぞれ一人がけの椅子に座る協定のようなものが自然と成立したことも含めてローレンツはこの時間が嫌いではなかった。

    「次回からは俺も会議に出ることになった」
    「そうか。僕より学ぶ機会に恵まれている点が羨ましいよ」

     今後はマリアンヌも含めて他の者と共に従者の間で会議の終わりを待つことになるのだろう。ローレンツはなんだか取り残されたような気がした。クロードだけが高みに行ってしまう。

    「おいおいそんな寂しそうな顔してどうしたんだ?」
    「揶揄うのはやめたまえ。マリアンヌさんには事前にきちんと伝えるのだぞ。僕は従者の間でも構わないが」

     いつかはマリアンヌも他人の視線に慣れなければならないことを皆分かっている。黙って考えこんでいたら向かいの一人がけの椅子に座っていたはずのクロードが知らぬ間に長椅子に腰掛けていたローレンツの隣に座っていた。

    「逃避するのはやめにしないか?俺もお前が羨ましいと思ってるよ」

     クロードが紫の真っ直ぐな髪を褐色の手で梳きながら耳元で語りかけてきた。顔を背けていても時を告げる鐘の音が街中に響いてやがて染み込んでいくようにクロードの声がローレンツの中に響いて染み込んでくる。

    「僕の……どこが……?」
    「この真っ直ぐな髪も親が健在なことも、な……」

     指の腹で促されてもクロードの方へ顔を向けるのには勇気が必要だった。その後何が起きるのかローレンツにも分かっていたからだ。
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