ここは見たいものが見れる本丸「この麻が山火事で焼けたんだね。」俺が見た幻覚の正体を言い当てて、別本丸の桑名は1枚千切った葉を捨てた。これでこの本丸の怪異の正体は判明した。そして俺は二度と桑名と会えなくなった。アイツが折れてから二度目のサヨナラだ。
「一応忠告しておくけど、これを燃やしてまた幻覚を見ようなんて思わないでね。」
「わーってるよ。」
「できたら伐採した方がいいんだけど…でも……」
「でも?」
少し考え込んだ桑名に続きを促す。
「この麻は僕が、この本丸の僕が植えたものなんじゃないかな。」
「この辺をフィールドワークしてみたけど、麻が自生するような土質でも植生でもないんだよ。」
「ってことは桑名は自分が折れるかもしれないってわかってて…」
「麻糸だろうね。」
感傷に浸りかけた俺に桑名は容赦なく現実を突きつける。その潔さは別刃ではあるがまぎれもなく桑名だった。
「これは僕の個刃的な意見だけど、僕だったら、もしものために麻を植えようなんて思わない。君に悪夢を見せてでも会いたいとは思わない。」
「ははっ…それも辛ぇな」
「これ以上君を苦しめたくないから。」
「…は?」
「豊前には前を向いて走っててほしいから」
「きっと折れた僕も同じ気持ちだったと思うよ」
桑名の目が寂しげに揺れる。
もしかしてお前も…
桑名が本丸を渡り歩いている理由の一端に触れた気がして、胸がチクリと痛む。
「がっかりさせたらごめんね。」
さっきはザックリやっといてこうやって謝るんだからズルい。
「じゃあ僕は行くから」
登山用のでっかいリュックを背負うと桑名はくるりと背を向けた。その背中は俺が最後に見た桑名の背中と似ていたけど、やっぱり全然別物だった。おんなじ桑名江だけど、俺の桑名は一振りだ。これまでも、これからもずっと。
「にしてもこれ、どーすっかな。」
燃えれば悪夢を見せる植物。だけど桑名が植え、手入れをしていたものを引っこ抜いて処分する気にはなれなかった。
「あー…書庫…だよな。」
そこは桑名のお気に入りの場所で、桑名が勝手に買い込んだ本も多数寄贈されていた。
「字ィ苦手なんだけどな」
ひとりゴチながらも足は自然と書庫へ向かう。
「つーか麻糸で何しようとしてたんだ?アイツ」
ボリボリと頭を掻けば、「できてからのお楽しみだよお」とはにかむ桑名の笑顔が目に浮かぶ。桑名の残像は幻覚なんかより確かに俺の中で色づいていた。
《ここは見たいものが見れる本丸》
だったところ