とるにたらないあいのはなし「別れて欲しいの」
ドトールだかタリーズだか空田にはもう思い出せないが、駅近くのカフェの窓際の隅のテーブル席で、涙を流しながら彼女──サオリさんが言った。その言葉に一瞬、空田は、悲しみに打たれたがそれも本当に一瞬のことで、その後すぐに、しじまの広がる水面のような心で「ああ、やっぱりな」と思った。
「俺の事嫌いになった?」
優しい声を心がけてそう聞くと、サオリさんは俯いて首を横に振った。
サオリさんは空田より七歳上だった。一番上の姉よりも歳上だったが、空田はあまり、というか全く気にしていなかった。
そんなことなど無関係に、何故かわからないが、彼女のことを心から愛することができた。今思えば、若さゆえかもしれない。
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