探偵と助手のお花見 春のようなひとだ、と思うのだった。
まぶしくて、色鮮やかで、そして少し騒がしいけど、あったかくて……そう気づいてしまうと、離れ難いと思うと同時に恥ずかしいと思った。こんなこと思っているとバレたら何を言われるかわかったものではない。まあ、何か言われるのを想像すると、それはそれでいいような気がしないでもないけど。
換気のために窓を開ける。ちょうど春の風が入り込んでくる。心地よい。しばらくこうしていたいな、と思って目を閉じる。花や土のやさしい匂いをまとった風は、ふわりと頬を撫でてくれる。
「どーしたのリンくん?物思いにふけってるー?」
ひょっこりと後ろから顔を出したのは件の彼だった。にこにこと笑って隣に並んでくる。
「あ、いや。すみません、掃除の途中で。ぼーっとしてました」
「いやいや、全然」
いいねえ、もう春だねえ。彼は窓の外を見て、伸びをひとつする。そしてなにか思いついたらしく唐突に、
「あ!そうだ!」
「きゅ、急になんですか」
いたずらっ子のような顔をして彼は楽しげに言う。
「リンくん、お花見しに行こう!」
「お花見」
「うん!」
「え、な、なに?お、お花見?」
あまりにも唐突な誘いに困惑してしまう。
急に開花の手を取り、
「お花見!そうと決まれば、れっつごー!」
「えっ、ちょ、まだ掃除終わってませんよ!」
「いーからいーから!」
「もう!」
呆れた。……でも、この人がいなければ、季節の移ろいや花に目を向けることなんて無かったことを思うと、開花はなんだか不思議な気持ちになる。やわらかな春の風が、こんなに心地よいものだと知りもしなかっただろう。
「わかりましたから、行きますから!手!」
「んー?んふふ」
わからないふりをして開花の手を掴んだままの蓮覚寺の手は意外と大きくて、あたたかい。