ばらのはなし「薔薇の花を育ててくれているのか」
「せっかく来たんだしな。それに……ここのスタッフはアルケミストパワーで育成するから」
「遠い目をしているね。君」
ボードレールは薔薇の手入れをしている室生犀星と話す。犀星は帝国図書館の中庭を管理していた。
ボードレールがかつて知り合った夫人から譲られた薔薇は犀星が面倒を見てくれている。
夫人はもうこの世界にいないが死ぬ間際にボードレールにいくつか託してくれたのだ。
「その薔薇とか綺麗に咲いているぞ」
犀星が言う。黒赤赤紫の花が咲いていた。
「貰ってもいいかい?」
「ああ。もっていけよ。今、切るから」
剪定ばさみで犀星は咲いている薔薇の花を切るとボードレールに渡す。
薔薇の花を持ったボードレールはそのまま渡すべき相手のところまで行くとドアを開けた。
「おや、どうしました」
「ゲーテ・ローズ。咲いていたから持ってきた。ヨハン・ヴォルフガンフ・フォン・ゲーテにささげられた薔薇だと」
「そんな薔薇があったのですね」
「友人からのもらい物だ。犀星が育ててくれている」
ゲーテ・ローズは生前の約束でもらった薔薇だ。幾重の花びらが重なっている薔薇である。
「一本のバラの花ことばを知っていますか」
「知らないが」
「「一目ぼれ」「あなたしかいない」とか花の色でも違いますし、満開だと私は人妻とか」
「綺麗だし、お前の名がついていたから持ってきただけだ!」
「知っていますよ。でもそんな意味を想っていてもいいでしょう」
ボードレールの手からゲーテは薔薇の花を取る。左手には硝子の花瓶が握られていた。
「うぬぼれだ」
「いけませんか?」
「別にいい」
仕方がなさそうにボードレールが言う。ゲーテは花瓶に水を入れに行き、花瓶の中に薔薇を生けた。