お題箱から「女の子の日のバジ♀ちゃん」なんか知らんがめっちゃ眠い。夜も更け月の輝く冬の寒空の下の武蔵神社に集う東京卍會の名を背負った特攻服を纏う暴走族達。そんな中、壱番隊隊長である場地は謎の眠気に襲われていた。一昨日からそうだった。しっかり睡眠をとっているのに何故か眠い。昼寝をしても眠い。ふらふらと定まらない焦点と傾ぐ頭。艶やかな黒髪が何度も揺れる。場地が率いる壱番隊の副隊長である千冬はそんな彼女を心配気に見つめている。龍宮寺は場地に声をかけるかどうか悩んでいた。しかし総長である佐野が何も場地に言わない。林が何か口を開こうとすると珍しく林田が口を塞いでから頭を振って黙らせる。そして場時は現在進行形でふらふらとしている。どうすべきか。龍宮寺は三ツ谷に目くばせをした。
「場地」
「みつやぁ？」
アめっちゃ眠い時の場地さん。千冬は場地の声音からそう察した。弐番隊の先頭に立っていた三ツ谷はスソソソソと場地の隣にくると、ピトッ。場地に密着した。男たちはそれを認めた瞬間全力で彼女らから目を逸らした。場地と三ツ谷の触れ合いに近寄るべからず。東京卍會における鉄則である。千冬と八戒すら目を逸らした。副隊長ゆえにこの触れ合いに最も被害を受けているのは千冬と八戒の2人だからだ。創設メンバーたちはさすがの年季であまり動じていないようだった。
「眠い？」
「んー……一昨日からちゃんと寝てんのに、ねむい」
「そっかー。マイキー」
三ツ谷の呼びかけに佐野はコク、と首を振ってから集会の終わりを宣言し、役職持ちは残るようにと言いつけた。もう終わりかけだったのが功を奏した。
「場地、薬。飲んだ？」
薬。千冬はその一言に目をカッと見開いて場地の方を向こうとした。ソウヤはそんな千冬の双眸を目にも止まらぬ速さで塞いだので未遂に終わった。そんな彼の目は兄のナホヤが塞いだ。絶対見せるものかという強い意志を感じる。ちなみに八戒は首を痛めるんではないだろうかと思われるほど捻っている。
「薬？」
「今アレだろ」
全員がここで察した。女性の幼馴染がいる林田と風俗店育ちの龍宮寺は真っ先に気づいたようだった。
「アレ？あー、アレか。いやアタシ薬飲むほど重くねえよ」
「じゃあ体質かな。場地は眠くなっちゃうのかも」
「三ツ谷は？」
「あたし？あたしはちょっとお腹痛くなるよ。でも薬飲めば全然平気」
「場地、これ着ろよ」
林田が特攻服の上を場地に差し出した。この2人、場地の方が背が高い。しかし体格差でしっかりカバーできたようだ。袖こそ余ってないものの、場地の細身の体を覆うのには十分だったらしい。
「ありがとな」
「女が体冷やすんじゃねえよ。三ツ谷もだけど冬場に前開けんのやめろよな」
重要な抗争時はガッチリとサラシを巻いて裾は入れたままに、ボタンを全部外すのが場地と三ツ谷のスタイルである。なぜなら気合が入るので。男たちはガッツリ上を脱げるが女性である2人はそうはいかない。ならばこうしようと2人で話し合った結果だった。しかし冬場はどうしても寒い。そして女性というものはどうしても冷えやすい。現在も三ツ谷は特攻服の中に防寒具を着込んでいるため夏よりもやや膨れて見える。しかし場地は平時と一切変わらない薄っぺらさだ。胸元を除く。
「バジ、今日送ってくから」
「あ？いいよ別に」
「送る。千冬、バジのバイク乗ってって」
「はいっ！」


佐野たちが去った後、神社の境内には林田と林だけになった。
「パーちん、よくわかったな」
「あ？……あいつ、重いんだよ」
照れ臭そうに頰をかいた林田は、気恥ずかしさか林の背中を少し強めに叩くと帰るぞ、とだけ言って足早に階段を降りていく。
「待てよ、パーちん！」
そう言いつつも、林の口元は上がっている。林にとってオレの全部、と言いきるほどの存在は、やはり格好いいのだ。