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    kao_tenne

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    kao_tenne

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    ※カニバを匂わせるような表現があります、グロ等の表現はありませんが使用しているネタの都合上苦手な方はお気をつけください
    🎂🚌のibnt文章です
    ちょっと🚗杯まで間に合うかな……と思ったので元になる簡単な文章を載せました。
    絵の方で初見で見たいよ!という方は見なくても大丈夫です。
    漫画版ではこのまま漫画になるので特に物語の流れに変更点はありません。(三人称が二人称になるぐらい)

    ※シーンが飛び飛びで見辛い
    yksk流星高校、ib3年、nt1年の設定です
    (春〜夏の甲子園前ぐらい)


    「イブラヒム、俺腹一杯になっちゃったからこれ食べてくんね?」
     そう言って渡された甘いスナック菓子の袋を、一体どうしたものかとイブラヒムは首を傾げた。
     受け取ったまま暫く沈黙するイブラヒムを見て、クラスメイトはどうしたんだ、とイブラヒムの顔を覗き込む。
    「あれ、甘いの苦手だったっけ。この前クレープ食べてたから平気だと思ったんだけど」
    「んー……いや、大丈夫。俺も結構昼に食べちゃったから」
    「ああ。じゃあ他の奴にあげることにするわ、ごめんな!」
     クラスメイトはイブラヒムから袋を受け取り、教師雨の反対側へ移動していった。少し強張っていたイブラヒムの肩がゆっくりと下がる。
    「……まぁ、美味しくないし」
     彼は味覚の無い、所謂"フォーク"だった。

     この世はフォーク、そしてケーキと呼ばれる人々が存在する。フォークは後天的なもので、味覚を失ってしまう。ケーキと呼ばれる人物のみに味を感じるという極めて奇怪な特徴を持っていた。
     そのケーキだが、彼らは先天的なものであり、成長しきる前にフォークに襲われて命を落とす事も多い。故に、フォークは犯罪者予備軍と言われる事もあった。
     イブラヒムがフォークになったとわかったのは、数週間前の話だ。高校3年生、つまり受験生となり部活に加え勉強でストレスを感じていた時期に味覚が無くなった。流石に味覚が無くなるのはやばいだろう、そう思って病院にかかった結果フォークだと診断されたのだった。
    「……それって、俺が犯罪者になる可能性があるって事ですか」
    「今はフォークへの待遇もかなり良くなっています。専用の食品もスーパーなどで売られていますし、そもそもケーキを食して命を奪うなんてことは重度の飢餓状態でしかあり得ませんから」
     彼がかかった先の医者はそう告げた。そういうものか、とぼんやり思ったイブラヒムは、この先食べ物を美味しく感じられない事をちょっと残念だと思った。
     いくらフォークの為に色々な対処をしているといっても、身近にフォークがいる者でなければそれを知る由もない。自分がそうである事を打ち明けたときの周りの反応はわかりきっていたから、イブラヒムは友人に伝えようとはしなかった。

     放課後、イブラヒムは部室へ向かっていた。帰りのHRが長くなり、練習には間に合うか否か、という時間である。
     廊下を走るな、というポスターを無視して走っていく。少し重いドアを開くと、人影が視界に入った。
    「……あ」
    「あ、イブラヒムさん」
     そこに居たのは後輩の来栖夏芽だった。既にユニフォームを着た彼女は、手に持っていた小さなボトルを慌てて鞄に仕舞う。一体何を仕舞ったんだ、とイブラヒムが夏芽の手元に目をやった直後、ふわりと甘い香りがイブラヒムの鼻を擽った。砂糖をふんだんに使った、生クリームのような甘さだ。
    「……会長、甘い物でも食べました?」
    「……あ、えっと、そう……ですね……」
     歯切れが悪い。あまり触れてはいけない事だったかと目を逸らそうとしたが、夏芽の顔色が悪い事に気が付く。
    「かいちょ、」
    「わ、私今日は帰ります!」
     社監督に伝えておいてください、と言って荷物を持った夏芽は部室を飛び出していった。
     いや、ユニフォーム着たままじゃね?そうイブラヒムは言おうと思ったが、まあトイレでも着替えられるかと口を閉じた。
     部室に漂う甘い香りに久しぶりだな、と心躍らせながらイブラヒムは部活動の準備をする。そういえば、味覚を失ってから嗅覚が反応したことはあっただろうか。昼過ぎにクラスメイトから一度受け取った菓子の袋からは全く匂いがしなかった。
     その事を思い出したイブラヒムは、ゆっくりと顔を覆う。
    「……俺、もしかしてやらかした?」

     翌日。夏芽が部活を休む事を伝えた時の監督の動揺ぶりを思い出しながら(夏芽が休む事が珍しい事による)、イブラヒムは学校に向かっていた。
     確実にビビらせたに違いない。謝りたいが、つまりは彼女がケーキであることを知った事になり、そして自分がフォークである事を暴露する事になる。恐らくあのボトルは匂い消しの香水か何かが入っていたのだろう。
     この先全く触れない方がいいのだろうか。いや、同じ部活でポジションも近いのだから全く触れないなんてことは無理では。
     もやもやとしたものを抱えつつ、イブラヒムが向かった先には丁度靴を履き替えたらしい夏芽が居た。
    「あ、会長」
    「……!」
     イブラヒムが声をかけると、肩をビクリと揺らして夏芽が振り向く。少し甘い香りがした気もしたが、気のせいだと思ってイブラヒムは無視をした。
    「……あの、昨日はすみません」
    「……」
    「俺、別に会長を襲うつもりとか、無いんで」
    「……はい、わかってます」
     ただ吃驚しちゃっただけで、と夏芽は続ける。伏し目がちな彼女を見て、ああやっぱり怖がっているな、とイブラヒムは少し悲しく思った。
    「……ちなみにいつから?」
    「えっと……幼稚園の頃からですかね」
    「えっ」
     そんなに前から?とイブラヒムは思った。ケーキは、人によっては死ぬまで自覚しない者もいると言う。つまりは、彼女が幼い頃に命の危機に遭った、という意味にも捉える事ができる。
    「あの、本当にその気は無いんで、近付く気も無いですから」
    「近づかないっていうのは……ちょっと難しいんじゃないかな……」
    「少なくとも第三者にはいてもらうんで!それにあの、わかった今は、会長守らなきゃならんし」
    「あはは……ありがとうございます」
     困ったように夏芽は笑った。やっぱり困っているような顔だった。
     完全にやらかしたかとも思ったが、自分が知っている以上は彼女を守らねば、とイブラヒムは思い直した。

    「俺なつめちゃんの事好き」
    「ほんと?なつめもね、──くんのこと好きだよ」
     幼い子供同士の、可愛い戯れだった、と私は思っていた。ちょっと仲が良い子を、好きだと思っちゃうようなそれくらいの年齢。
     私も相手もませた子供。そう言い合ってきゃっきゃと笑って、あそこ好き同士なの!?とか言ってる子にへへへ〜と笑っていた。
    「あのね、ほんとに好きだよ」
    「ほんとのほんと?どういう所が?」
    「甘い匂いがするとこ!」
    「甘い匂い……?するかなぁ」
     すん、と自分の服を嗅ぐ。家で使っている柔軟剤の匂いしかしなくて、甘いって言うような匂いじゃなかったから違和感を持った。
    「うーん、わかんない」
    「するよ、なつめちゃんの手とか」
    「そうなの?」
    「うん。美味しそうだもん」
     彼がそういった直後だった。彼の歯がかぷりと私の腕を噛む。私が「え、」と零した時には、歯は強く食い込んでいた。
    「いっ、いた、痛い!痛いよ!」
    「やっぱり甘いよ!」
    「いやだ、やめて!先生!」
     涙をぼろぼろと零しながら先生を呼ぶ。何事かと慌てて来た先生が、状況を見て言葉を飲んだ。私と彼が強引に引き剥がされる。腕に残った歯型を見て真っ青になった。
    「いくら幼稚園児とはいえ、一体どんな教育をされてるんですか!?」
     腕に大きな絆創膏を貼られた私の手を握ったお母さんが、見たこと無いような顔で怒っていた。相手のお母さんは心から申し訳ないような顔をして、何度も謝っている。そりゃあそうだ。自分の息子が女の子の腕を噛んだのだから、謝るしかない。
    「本当に申し訳ありません……──、どうして噛んだりしたの。ちゃんと謝って」
     そう言って相手のお母さんが、私に謝るように促す。彼は不服そうな顔をして言った。
    「──だって、なつめちゃん、ケーキみたいな味がするんだもん」
     私がケーキだとわかった日だった。

     その日からイブラヒムは、徹底して夏芽と二人きりにならないようにした。連絡事項を伝える時にも必ず友人に側に居てもらうようにしたり、大勢人がいる中だったりと考えた。
     食事は本当に栄養を摂る為だけのものであったのが、今では夏芽に手を出さないようにするためになっていた。
     ──こんな事やったって、会長からしたら俺は加害者になりかねないんだから怖くて当然なんだけどさ。
     タオルを頭に被り休憩しているイブラヒムは、ぼんやりとそう考えていた。スポーツドリンクも無味無臭、差し入れのおにぎりやレモンの蜂蜜漬けも味がしない。すぐに口に放り込んで水で流すだけの作業に正直疲れていた。フォーク専用の食品も、ケーキに手伝ってもらっているという噂を聞いてからは箸が進まなくなった。
    「イブラヒムさん」
     俯いていたイブラヒムの視界に影が入る。顔を上げると、水を持った夏芽がイブラヒムを見下ろしていた。
    「……会長、あんま俺といない方がいいですよ」
    「イブラヒムさんが襲わないってわかってるから、大丈夫です」
    「……いや、わからないでしょ……」
     今だって結構お腹減ってるし、とは言わなかった。
    「本当に、気をつけてくれてるから……私も安心してるので」
    「……そう、ですか」
     ああ良かった、と思った。元々自分は異国の人間であることもあってか割と遠巻きに見られているし、可愛い後輩に嫌われたら、とイブラヒムは常々感じていたのだ。
     はいどうぞ、と差し出された水を受け取り、イブラヒムは少し息を吐いた後に水を飲んだ。
    「……あれ、」
     甘い。そう思ったが言わないでおいた。
     正確には水が甘いのではなく、恐らく夏芽が触れていた部分から甘い香りがしていたのだ。
     香りだけで食欲が湧く事に危機感を覚えたイブラヒムは、飲み切ったボトルを持ったまま夏芽から離れていった。
     このまま居ると、本人はどんな味か、と知りたくなってしまいそうになったからだった。

     ある日、彼は飢餓状態になった。
     朝食を全て学校のトイレで吐き出した。味のしないものを無理矢理詰め込んでいた事へのストレスと、飢餓状態にならないようにと多く食べていた事の反動だった。
     事情を知っている教師に保護され、イブラヒムは早退することになった。車で迎えに来た親に運ばれる姿を、夏芽は遠い所から見ていたのである。
    「あの車なんだろ」
    「誰か迎えに来たんじゃない?あ、あの人3年の先輩じゃん」
    「体調悪かったのかなぁ」
     そんな噂話が周囲から聞こえた。夏芽はただ一人、きっとフォークであるが故の障害なのだと考えていた。

     イブラヒムがフォーク専用の食品で体調を治し、学校に復帰したのは1週間後の事だった。
     体調が戻ったのはいいが、彼には一つ問題点が残っていた。
     ケーキの味を知ってしまった、という事である。
     フォーク用の食品はケーキの協力の元生まれた製品であった。故に、フォークが感じる味は甘い味であり、結果としてイブラヒムの食欲は増していくばかりだったのである。
     ああ今、会長に会ったらまずいかもしれないな。そう思いながらイブラヒムは部室へ向かっていた。
     相変わらず長いHRのせいで、また遅れそうになっていたのだ。
     だが前ほど余裕がないわけでもない、部室のドアをノックすれば「はい」と返事があった。夏芽の声だ。
    「……あー、会長……終わったら、交代で」
    「別に大丈夫ですよ?入ってもらって構いませんけど」
    「俺がこの前早退した理由、会長ならわかってるでしょう」
    「……はい」
     だからですよ、と夏芽は続けた。一体何を言ってるんだとイブラヒムが顔を上げた時、ドアが開いて腕をぐいと引かれた。
     バランスを崩しドアの先に入ったイブラヒムの後ろで、ドアが閉まり鍵のかかる音がする。
     部室の中は、異様に甘い香りに満ちていた。
    「え、あの、会長」
    「……イブラヒムさん」
     ──少し、食べてみますか。
     まだ制服姿のままの夏芽が、イブラヒムを見上げてそう呟く。
    「イブラヒムさん、きっとフォーク用の食べ物でもっとお腹空いてるんじゃないかなって……本当に傷つける気が無いって、わかってるけど、でもやっぱり辛そうだから」
    「……」
     限界だ、とイブラヒムは思った。
     ああそうだ、前に食べていたような甘い生クリームの味も、チョコレートのような深みのある味も、濃厚なカスタードの味も全部全部求めている。そして、今目の前にある事も知っている。
     そっと夏芽の両肩に手を添える。噛みやすいようにしてあるのか、少し制服は着崩されていた。
    「……あんまり、痛いのは怖いんですけど……」
     そう言いながら、夏芽の体は震えていた。だがイブラヒムはそれを気にしているヒマはない。今目の前にある白い柔肌に噛み付けば、極上の味が得られるのだ。どうする、今しかない、ケーキが自ら身体を差し出しているのに、それに答えないなどと言うことがあるのだろうか。俺は──。
    「……っ、あの、イブラヒムさん……」
     イブラヒムは噛み付く寸前に、強く夏芽を抱きしめた。彼女を抱きしめる腕は強く、少し痛がっている様子を見せる。
    「……っは、なつめさん、そういうことはやめてください」
    「え、でも、イブラヒムさんは困って……」
    「困ってる……けど、でもそれは違うでしょ。手を出さないって言ったのに、これじゃ嘘つきになっちゃうじゃないですか」
    「……ケーキが、良いって言ってるんですよ?」
     どうして、と困ったように夏芽が言う。
     正直、色々考えた。食べてしまえば、他の人間に食べられる事はない。あげたくはない、夏芽が食べられていなくなることなど考えられなかった。そう、あげたくなかったのだ。
    「……でも……」
    「でも?」
    「……俺は、好きな人を傷つけたくはないんです」
    「……」
     言ってしまった、とイブラヒムは腕を少し緩めた。未だに甘い香りがして、頭をくらくらさせる。
     ただ下がっていただけだった夏芽の腕が上がり、イブラヒムの背中にかかる。
    「あのね、イブラヒムさん」
     ゆっくりとした調子で、夏芽が口を開いた。
    「私、思うんです。そういうのって、食欲とか、性欲とか、そういうのがごちゃごちゃになってるだけだって。だから、好きとかそういうのは、気にしなくていいんですよ」
     私知ってるから、間違えてるだけだって。
     夏芽はイブラヒムの顔を見上げて、そう言い放った。
     あーあ、最初に会った時から好きだったとか、フォークになる前からでしたとか言っても、きっと信じてくれないんだろうな。
     ──これが恋じゃないっていうんだったら、何だっていうんだろう。
     イブラヒムは、そっと彼女の肩に歯を立てた。
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