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    8ハッチ

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    8ハッチ

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    セイマボ2「これからどうするんだ」

    エトリアの世界樹の謎を解き明かしたあと、無事にエトリアに帰った数日後に、セイオズはマボロにそう尋ねた。

    世界樹の主相手にも恐れず錬金術の炎を放ち続けたマボロの腕は数日前に治療したときよりも悪化していた。セイオズが常日ごろから医者として他人の健康管理や治療を担っていたにしても、世界樹探索での怪我は未知なる生物や植物で巻き起こす障害に度々頭を抱えていて、その中で加えてこの男の怪我は今までの患者や想定されるものとは少し違っている。
    通常であれば、生きていれば当然痛みを恐れて警戒することで外傷を事前に防ぐものだ。ピアスの件もあり被虐趣味があるのかと疑ったことさえあるが、単純に麻痺をしているのだろうと考えた。

    薬草を磨り潰し水と混ぜ、腕に塗りこむ。骨の代わりに鉄を埋め込まれた
    その腕は、義手と皮膚の接続に必要不可欠だが、セイオズが知る義肢装具の技術とは少し異なっていた。
    セイオズの職業柄義肢を身につけている者の診断をしたこともある。どの人物も義肢を繋げるための接続部分も本人の皮膚や体型に添うように丁寧に施されていた。しかし、マボロのその腕は強硬な義手の性能や見た目に反して、埋め込まれている鉄は細く粗末なものだ。過去に火傷や凍傷のたびに腕を切り落とし鉄を嵌め込んだのかと問い質したが、「だったらなんだ」と突っぱねられたまま問に対して返答を貰えることはなかった。

    「俺様の今後なんざテメエに関係なくね?」
    「…世間話の一環だ、エトリアに残るのか」
    「そういうアンタはどーなん。感染病を治す手がかりが掴めた未来あるご立派なお医者様として病院に戻るんだろ。晴れて大英雄様じゃねえか、院長として新しく病院設立なんかもできるんじゃね、まあご立派ですこと」

    ハハハと乾いた笑いで心にもない賞賛を向けるマボロをセイオズは少し睨みつけた。わざとらしく話を逸れさせたのは、追求をしてくるなという証明だろう。それに気付けないセイオズではない、とわかっているからこそ質が悪いのだ。

    「私のことはいい。先日貴様がギルドの集まりに来なかった際にすでに話題に上がっている。不参加が理由で聞けなかった話の一つや二つ聞いてもいいものではないのか?」
    「聞いてどーしたいの?俺様のことすごーいって褒めてくれるとか?」
    「褒めるかどうかは聞いてからだな」
    「褒める選択肢はあるんだ」
    「脱線をさせるな。この先どうするんだ?」

    浮かべた薄ら笑いに少し苛立ちが浮かぶのをセイオズは見逃さなかった。正直、無理矢理に聞く理由など何もない。マボロ以外が参加したギルドの集まり…という名の打ち上げのようなパーティーでそれぞれの今後を話した際エトリアに残るのは踊り子としてこれからも活動を続けると決めたアメアだけだ。そのアメアでさえも一度実家に戻り家族と話をする、ということでギルドの全員エトリアを一度離れることは決定事項だった。一時的すぎるギルド結成からトラブル続きの日々でセイオズは心身ともに疲弊はしていたが、このまま一生再会の目処が立たないと言われると清々するというより少し寂しさを感じる程度には長い月日であったかのように思える。

    「関係ねえつったよな」
    「言いたくないならそう言いなさい。無理強いする気はない」
    「じゃあ言いたくないでーす」
    「その代わり、勝手な憶測はするがな」

    は?といった気の抜けた返事をよそに治療の終えた腕に手を添える。警戒するように身を引くマボロの無防備な腕をそのまま掴んだままセイオズは真っ直ぐと赤い目を見つめた。

    「酒と女性との夜遊びで報酬金もすぐに使い果たして、フラフラと転がり込んだ先で相手がいる女性に手を出して誤解されて無様に命を散らすか、酒の飲み過ぎで酔っ払ったまま高台から落ちて無様に潰れるなど……まあまあお前の死因はすぐ浮かぶな」
    「……俺様のことそんなしょうもねえ奴だと思ってんの?パパってばひどーい」
    「これは私の勝手な憶測だからな。お前が自分の身の上話を一切しないものだから憶測でしか語れないのだ。しょうがないだろう」
    「……性格わっるー」

    お前が言うなとセイオズは脳裏に大きく浮かんだが、わざわざ煽るような言い方をしたのも事実だった。
    ギルド内の他の人間とは違い、二度と会わない可能性すらあるなら多少憎まれても問題がない。マボロという男が少しの憎まれ口で相手を恨むほど他人に興味関心が続かないことは短い期間での小さな交流でもわかったことだった。そしてウィリンがそんなマボロに幾度突っかかり、殺し合いになるのではと周りが止めに入るくらいの喧嘩を繰り返したこともある。要は繰り返し煽り続ければ少しは内側を見れるのではないかとセイオズは考えた。少々大人気ないと自覚しつつもこの男が二度と自分たちに会わないつもりであるなら最後にこのくらいの仕返しは許されるだろう、とも。

    マボロの細すぎる腕を強く握ると、大きくわざとらしいため息を吐いてこちらを睨む。

    「ハイ・ラガードにセンセーがいるから、タリンと一緒に合流する」
    「なんだ、近いじゃないか。私の勤め先はハイ・ラガードを抜けた先だ」
    「……あっそ」

    掴んでいた手は振り払われ、義手を素早く填めるマボロの表情は薄ら笑いすら浮かばない随分と冷たいものだった。異性との距離は近いように思えるがこうやって話していると分厚い壁のようなやはり固く頑丈に閉められた扉のように頑固たるものだ。


    (そういうところに惹かれてしまっているのか)

    その感情が何かはセイオズも名付け難いものだった。
    最初こそ同情や庇護欲とも考えた。実際否定し難いほどに近い。親に捨てられたという本人の話を真に受けるのであれば、彼の普段の言動は幼少期の愛情不足から発生したものだとも推測出来る。ならば真の愛情とは何かを教えてやる程の恋愛経験がセイオズにあるわけではない。決してゼロではないが、語ったところ個人間で条件が違うのであれば無駄な労力とも言えた。
    あるいは散々人間関係を引っ掻き回した復讐心のようなものとも思えたが、それはマボロ一人だけのせいとも言えず、また個人個人のケアが足りなかったことはセイオズ自身感じているためマボロを責める気にはならなかった。
    では、何がセイオズを突き動かしているのかと言及しようにも、その感情は簡単に言葉にしてはいけないと己で塞き止めてしまうのだ。これ以上は危険だと、サイレンのように心臓の音が五月蝿くなるような感覚をセイオズは感じていた。セイオズにとって問題なのはそのサイレンが不愉快ではないことだった。

    「……タリンというのは、弟弟子にあたる少年のことだな」
    「あのさあ。詮索されんの俺様嫌いなんですけど。思いやりっていうのがねーの?アンタだって触れられたくない話題あんだろ?そのカースメーカーの力とか見た目とかさあ。俺様にもそういうものがあるんだけど。赤の他人にベラベラ素性話すほど俺様かまってちゃんじゃねーんだわ」
    「私が何故お前にこんなにも興味を持つのか気にならないか?」
    「ならないね。なに?聞いてほしいんか。かまってちゃんはパパのほうだったんでちゅねえ。ハハ」

    底冷えた赤が突き刺さる。
    口角が上がっているのに、その赤は嫌悪とも軽蔑とも取れる。実際こんなに拒絶反応を示されているのだから、と普段であれば拒絶反応を取られる前に相手の不快感を少しでも感じ取ってすぐに手を引く話だ。セイオズはそれさえも自覚しているのに、再び取った手の冷たさを自覚しながら止める事はできなかった。

    「私がお前のことを好きだからだ」

    サイレンは止まない。
    目を見開いた表情は、短期間で初めて見るものでそれを見れただけでも告げた甲斐があったなどを感じてしまう。推測できる実年齢よりも少し幼く見えたその顔は、本来のマボロらしささえ感じた。

    実際は3秒も経っていないのだろうが、永遠のように感じたその沈黙を先に破ったのはマボロのほうだ。


    「キッショ」


    当然、扉は閉じたままだった。
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