クリスマスに寂しいなんて似合わない12月。師走。クリスマス。
あの『セナハウス』と呼ばれていたあの空間に炬燵が1年ぶりに帰ってきた。去年と違うことといえば、足を入れてるのが2人ってことくらいだろうか。
「Merry Christmasです!」
「あら司ちゃん。メリクリ〜」
そこに1人加われば3人。でも四角形の炬燵だとやはり1箇所空いている。
「ん〜……ス〜ちゃん足冷たい……」
まるでコタツムリにでもなったかのように凛月が炬燵から顔だけだした。
「す、すみません…外は雪も降っているようで廊下歩いてるだけでも凍え死んでしまいそうでした…」
「クリスマスに雪ってロマンティックねェ」
「えぇ、これこそWhite christmasですね」
閉じきってないカーテンから覗く木は白い雪を纏っていて、窓もその寒さを見せつけるかのように白く曇っている。
(…………)
「静か、って思ったでしょ」
「っな、…よくわかりましたね」
雪が降り積もる音が聞こえそうなくらいの静けさが通っていて、図星にも思ったことを当てられてしまい苦笑を返す。今年は3人でのクリスマスパーティになりそうだった。
「まぁ、静かにもなっちゃうわよねェ……うるさい2人がいないんだもの」
ライブやイベントがある度、異国から帰ってくるはずの2人は今回クリスマスは帰ってはこなかった。まぁ年末には帰ってくると思うが、あちらでもなかなか忙しくなったらしくクリスマスには間に合わないということで、帰国を遅らせたのだ。
「…………」
(去年は5人、今年は3人、来年は…………、)
冬、だからなのかもしれないし、年が終わるという寂しさからかもしれない。外で静かに積もっていく雪と比例するように、心の中で『寂しさ』がどんどん大きくなっていく。炬燵に入ってから時間が経つというのに手先は冷えたままだった。
「せ、先輩方っ!cake食べましょう!!」
この積もった寂しさを少しでも、と買ってきたケーキの箱を炬燵の上に置けば、2人がそれに反応して座り直す。中が崩れないよう慎重に開けてみると……
「5個、だね」
「はっ、!!!?」
1、2、3、4、5個。それぞれ違った種類のショートケーキが箱を上から覗く3人の目に映る。
「っふふ、本当にアタシ達ってあの2人のこと大好きよねェ」
「本人達には絶対言えないけどね〜」
司の失態を2人の先輩が笑い飛ばす。じゃあいろんな種類から取れるわねと嵐が桔梗の瞳を輝かせてケーキを眺める。
「すみません…無意識に5個買ってきてしまいました……、お皿とってきますね」
ケーキを選んでいる2人をそのままにカップやお皿が置いてあるスペースにいく。そこにはコーヒー、紅茶、ココアなど色とりどりのティーパックやパウダーが並んでいた。目当ての皿を3枚取り出すと、奥にはやっぱり2枚残った。
『おれコーヒー!!ブラック!!』
『もう自分で淹れなよねぇ?かさくんは紅茶でいい?』
ふと隣を見れば、2人の面影が浮かび上がって思わずティーパックも手に取ってしまった。元々ココア派だったはずなのに、彼が淹れてくれる紅茶が好きだった。
「お皿持ってきました」
「ありがとう♪」
「はい、これス〜ちゃんの分」
「ありがとうございま……あれ、そちらの2つは…」
「これは、月ぴ〜のでこれはセッちゃんの、でしょ?」
炬燵に戻ってみれば、ちゃんと5個のケーキがそれぞれに並んでいた。凛月先輩はくまのケーキ。鳴上先輩はフルーツタルト。司の前にはプリンアラモード。そしてレオさんのだというのはザッハトルテ。瀬名先輩はチーズケーキ。
それは買ったときそれぞれ選びそうなものを司がピックアップしたもので、2人は司の想像通りのものをチョイスしたらしい。
「じゃあ、いただきま〜す」
「いただきます♪」
「いただきます」
どんな時でもやっぱり甘いものは美味しいし、心を満たしてくれる。
(残りのcakeはどうしましょう…)
では私がなんてさらっと言ってしまいそうになるが、後からあの先輩に何言われるかわからないと出かかってたセリフを飲むこむ。このいない温度に、淋しさにもう慣れなくてはいけないのに。来年のことを想っては、慣れるどころか自分で淋しさの積み木を積み上げていってしまう。ケーキをペロリと食べ、ティーカップを両手で持ち紅茶をちびちび飲みつつ、喋る2人の様子を見やる。やっぱり人に淹れてもらったものの方が美味しかった。
「おふた方は、…卒業後のことはもう決められているのですか」
「えっ…?」
「ん〜?ス〜ちゃん気になるの?」
話していたのを止め、2人の視線がこちらへくる。その見つめる様は何故か異様に大人びて見えた。まるで自分を置いて一足先に大人になったかのように。同じユニットのメンバーではあるが、実際一緒に活動して過ぎた時間はやっとあと少しで2年目になるという訳で。17年生きてたったの2年。でもその2年というものが未熟だった自分にとってはあまりにも濃すぎた。尊敬する先輩であり、ユニットメンバーであり仲間であり、ほぼ毎日顔を合わせているこの2人の先輩だが結局は他人で。自分なんかが2人の将来のことなんて口出しする権利なんてないのは、司本人は重々承知であった。
「…気になりますよもちろん」
親に留守番を頼まれへそを曲げる子供のような、そっけない態度で目を背けた。そんな司を見て2人は困ったように微笑むだけだった。
「ス〜ちゃ
――ブーブーブー
「あら、電話?」
「私です」
凛月が司に何か言おうとした瞬間、それを遮るかのように胸元のポケットに入れてた司の携帯が鳴り出した。画面をタップし表示された名前に少々驚きながらも、スピーカーにして電話に出る。
『もしもし?』
「もしもし、瀬名先輩今大丈夫なのですか?」
『大丈夫だから電話してんでしょ』
司が電話主の名を言わないものだから、聞き慣れた声が聞こえ始めると嵐と凛月は驚いたように目を見張った。
『おっ!スオ〜の声がする!!』
「月ぴ〜俺とナッちゃんのことも忘れないでよ」
『おぉ〜っ!!リッツの声だ!!でも、スピーカーから聞こえる声はなんだかリッツの声と違うな。造られた感がある!ノイズ混じりでニセモノ感がでて、逆に霊感が湧いてくる〜っ!!!』
電話1つで2つの空間を共有できる。話の内容が共有できるかは置いといて。いつものカオスな空気が戻り3人は『やっぱりこうでなくちゃ』と頭の中で頷いた。
「何言ってるか全くわからないわよレオくん」
『そんなのいつものことでしょ〜?こんな馬鹿の言ってることを理解しようなんて無駄だからねぇ』
『あ〜!!またセナおれのことバカって言ったぁ!!!』
こちらのことなんてお構い無しに2人のペースで話が展開されていく。さっきまでの冷えきった空気が嘘みたいだ。
「ねぇねぇ、なんかそっち雑音が凄いけどもしかして移動中?」
『よくわかったねくまくん。うん車で移動中』
「あら、隙間時間に電話かけてくれたの?」
『そう!!セナがかけてやろうと言ったんだけど、なんかそれじゃ恥ずかしいからおれがかけようって言った体になってるっ!』
「……レオさん、それ言ってはいけないことでは?」
『えっ?………………あ』
『う〜〜ん??なんのことかなぁ〜??れおく〜ん???』
『ねえ!!お前ら助けて!!!殺される〜っ!!』
スピーカーからガタゴトと何かがぶつかると音が聞こえ、一旦音量を下げる。耳を塞ぐ嵐の横で凛月は大きな欠伸を零している。
「助けてって…フィレンツェまで行くのは俺もやだよ〜」
『うわ〜ん!!リッツはおれの味方だと思ってたのにぃ!!』
「安心して月ぴ〜、セッちゃんの味方でもないから♪」
『はぁ?それどういう意味??』
騒がしい。だけどやっぱりこれが5人の姿で。静かよりよっぽとよかったのだ。
『……あ、ごめん目的地着いたから切るねぇ』
「了解〜お仕事頑張って〜」
「お土産待ってるわァ」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
はいはいと泉が軽く返事をしプツッと電話が切られたのと当時に、先程まであっちと繋がっていた糸もプツンと切れた音がした。
(来年は、どうクリスマスを乗り切りましょうか…)
いつの間にか、夜になっていた空は今でも雪を降らし続け、こんな気候だとサンタも大変だろうなと思いを馳せる。
(…まぁ、私の所にはもうサンタなんて来な)
―――――カチッ
「っきゃ!!?」
「え、停電…?」
突如として部屋の電気が消えた。凛月の停電かと言う言葉に司は窓の方へ近づき辺りを見渡せば、街灯や他の部屋は普通に灯を外へ漏らしていて。
「いえ、ここだけのようです」
「や、なにここだけって……クリスマスになんで不吉なことが起こるのよォ」
暗闇の中でガシッと腕を捕まれ、先程より近くで嵐の声が聞こえる。握力が強すぎて司は腕がもげそうなほど痛く顔を歪めた。
「鳴上先輩…っ痛い、です」
「司ちゃん怖がってる乙女になんてことを言うのっ!!?」
「ですから、鳴上先輩は乙女ではな「「メリークリスマスっ!!!」」」
「「「え…っ、?」」」
そしてまた突如として、電気がつきパッと視界が明るくなりその眩しさにやっと目が追いつくと、そこにはここにいるはずがない2人の顔を認識した。
「……なにそこ、付き合ってんのぉ?」
「おぉ〜っ!!ナルが怖がってるのは確かだけど、体格的にはスオ〜の方がカノジョっぽいけどな!!」
(……え?)
「アタシ…目おかしくなっちゃったのかしら」
「ナッちゃん、大丈夫俺もおかしくなっちゃったみたい」
「私も、なにやら幻覚を」
「あのさぁ〜〜わざわざ俺が来てやったのに人を幽霊呼ばわりしないでよねぇ!!!!」
今頃フィレンツェにいるはずのサンタの帽子を被った泉と、トナカイの角をつけたレオがドアの前にいるなんて、誰も信じられないのは当たり前のことで。口を開け、その場から動けない司たちを泉はサンタらしからぬ不機嫌そうな顔で睨みつけた。
「ジャッジャーンっ!!おれたち実は今日帰ってきてましたぁ〜!!!ドッキリ大成功〜!!!」
そんなご主人の態度なんて見えてないと言うようにレオが歯を見せニカッと笑い飛ばした。
「え、……だって、仕事が忙しいと」
「うん!!めっっっちゃ忙しかった!歌の祭典やらパーティやらクリスマスだから、仕事もいつもより詰め詰めだったよなセナ」
「ほんっと、こいつが後先何も考えずに引き受けるからスケジュール立てるの大変だったんだよ?でもお前らが寂しがると思って来てやったの」
「は、はぁ」
3人は炬燵に入ったまま、窓の前に立ったまま、ただ2人の会話に着いてくことに必死で、まだ頭は混乱したままだ。
「でも、クリスマスには死んでも帰ろうってセナと話してたんだ。だから間に合うようにセナがスケジュール立ててくれて、それでおれたちはここにいるってわけ!」
何故かドヤ顔で腰に手を当てるレオに呆れ顔の泉だったが、ほら仕事するよとレオを促せばレオが抱えていたらしい白い袋をガバッと広げた。
(…それって、普通サンタが持つものでは……?)
まぁ、多分瀬名先輩がレオさんに持たせたんだろうと思いつつ、司は2人の方へ駆け寄れば炬燵に入ったままだった2人もその袋を覗き込む。
「はい、俺たちからのクリスマスプレゼントだよぉ」
「ありがたく受け取れっ!!」
はい!はい!とそれぞれのメンバーカラーのラッピングのものがレオから渡される。開けてもいい?と凛月が聞けばいいよと泉が微笑んだ。泉がラッピングしたらしいリボンを解けば、そこには楽譜と編み物が入っていた。
「れおくんからはソロの新曲で、俺からはそれぞれに編んだやつね」
ファイルに入ったその楽譜は、レオの手書きの音符が並んでいて。今の時代こんなアナログな人はいるんだろうか。パソコンで打ってデータ化した方が断然楽であろうに、彼はいつだって手書きの音楽家だった。一方の泉の編み物は、凛月は茜色のブランケット。嵐は桔梗色の手袋。司は杜若色のニット帽で。買った方が時間も費やさないのに、2人は自分の時間を割いてまでプレゼントを作ってくれたという重みに、3人は顔をほころばせた。
「セッちゃんと月ぴ〜ってほんと、俺たちのこと好きだよねぇ〜」
「「だとしたらなに?(なんだ?)」」
「あら……ハモっちゃったわよ」
「まぁ大切に使ってよねぇ」
「えぇもちろんです!」
それから少し談笑したり、貰ったものでファッションショーをやったりしていたら、泉が寒いとボヤいたものだから炬燵に入らせると他の4人も入ってくる。
「ちょ、なんでくまくん俺のとこに入ってくんのぉっ!!??」
「えぇ〜?いいじゃ〜ん」
「レオさん、ケーキありますよ」
「え?なんでおれたちの分まであるんだ?」
「司ちゃんがふたりの分まで買ってきてくれたのよォ」
炬燵に5人。中では10本の足が交錯して誰かが少しでも動けば誰かの足がぶつかるくらい窮屈なのに、それがどこか居心地良くて。司は泉に淹れてもらった紅茶を飲みながら、花が咲いたように笑った。
「ス〜ちゃん」
「?どうかなさいましたか」
泉とじゃれていた凛月が優しく笑って司の名を呼んだ。
「きっと来年も5人でいることになると思うよ」
「――ッ、!」
「だって俺たち、両想いだから。なんちゃって」
あと1年、早く生まれてたら。あと1ヶ月早く生まれてたら、なんてそんなの馬鹿げたイフの話で。もし今自分が緑のネクタイをぶら下げてたらきっと今5人でいなかったかもしれないのに。悲しくなる時はまだまだ先だ。もし2人が卒業して司が1人になったとしても、4人の面影がここから消えたとしても、ここでは会えなくなるかもしれないけど、きっとKnightsで会えるんだから。異国へ旅立とうと、どんな進路をとったってきっとKnightsに戻ってくるんだから。
「……えぇ、そうですね」
王様だけど、やっぱりうちの末っ子。4人は頭の中でそう思いながら、聖夜の夜に灯を灯した。来年はきっと、可愛い末っ子の元に4人のサンタがプレゼントを届けに来るんだろう。