エンドレス・エクスタシー【プロローグ】
それは俺が久方振りのソロキャンプを終えた時だった。
辺りは日が沈んですっかり暗くなり、湿った土と葉の香り、そして鈴虫の音が風に乗って頬を撫ぜる。
秋も深まったこの頃、こうして一人山に繰り出しては美味い酒とソーセージに舌鼓を打つ。このささやかな時間が俺は堪らなく好きだ。何故なら此処には休憩を乱す口煩い小坊主も、泣き虫のガキも、無自覚に競争心を煽る旧友もいない。山の真っ只中は人の気配こそないが、一人で居たい俺は敢えてそういう場所を選んでいたし、静かに自然の息遣いを楽しみ自分と対話するのに此処はもってこいの場所だった。
いつものように片付けを終え、さぁ帰ろうと膝を払って立ち上がる。ソロキャンプとはいえ食事のみの簡易的なもので、テントの準備まではしていないから、真っ暗になる前に街が見える麓まで降りなくては。
1908