休憩中 がこん、と音を立てて扉を開ける。エンジンがかけられたままの車内からむっと暖かい空気が外に漏れ出し、至はそれを逃がさないように手早に運転席に乗り込んだ。大きな音が出ないようことさら丁寧に扉を閉める。
「お待たせしました」
がさ、と手元のロゴの入ったレジ袋が音を立てる。はい、おにぎりとコーヒー。中身を探り相手に手渡すと、先程まで運転席に座っていた千景は助手席からどうも、と礼を言った。それから財布を取り出そうとするので手で制する。
「いいですよ。ご老体に運転任せきりにしちゃったので、今回は俺の奢りです」
「誰がご老体だ。……まぁ、それならお言葉に甘えさせてもらおうか」
至は満足そうにほんの少し口角を上げ、狭い運転席で身を捩りつつ着ていたコートから腕を引き抜いた。肘が窓にぶつかって思わず痛、と声を上げれば隣からふ、と呆れたような笑い声が聞こえてくる。
1997