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    よしば

    @yoshi_R_K

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    よしば

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    医務室での話 奏千 春くらい

     ESビル医務室で、奏汰はひっそりと溜息を吐く。部屋の中にあるベッドのうち一つだけ布団が盛り上がっていて、そこには己の相棒が眠っていた。
     すやすやと眠る千秋へ音を立てないように近寄る。その目の下には薄らと隈が出来ていて、相変わらず忙しく動いているであろう事が容易に想像出来た。
     卒業してからはそれぞれの事情で一緒にいることが以前よりも少なくなってしまった。奏汰はおうちの立て直しだの後処理だので忙しく動いていて、千秋との連絡が疎かになっていた。ようやく落ち着いた、と千秋に連絡をしてみたら、今度は逆に彼からの連絡がおざなりになっていて、理由を知っていそうな『プロデューサー』に事情を聞いて、今に至る。
     どうにも仕事がやけに増えているようで、寝る暇もないようだった。たまに空いた時間も仕事の為の稽古かこうして医務室でひっそりと休むからしい。今年からは寮に入っているから、自室に戻って休まないのはきっと同室の彼らに心配をかけたくないからなのだろう。
     一人で抱え込むのも水くさいのも相変わらずか、と千秋の頭をそっと撫でる。
    「むり、しすぎないでくださいね」
     ぽつりと呟いた瞬間、ぱちりと千秋の瞼が開く。起こしてしまっただろうか、と慌てるがどうやら少し前から起きていたらしく千秋はにこりと笑って奏汰の手に自分の手を重ねた。
    「どうしたんだ、奏汰。なんだか、不安そうな顔をしているが」
    「こんなところでねているひとがいう『せりふ』ですか」
     千秋はそれもそうか、なんて笑いながら奏汰の手を離して起き上がる。ふるふると頭を振って覚醒した後、窓の外へと視線を向けた。
    「思っていた以上に寝てしまったな」
    「もうすこしねていてもいいんですよ。『ぷろでゅうさぁ』さんが、このあとのおしごとが『きゃんせる』になったっていっていましたから」
    「む。どうしてそれをお前が知っているんだ?」
    「たまたまとおりがかっただけです。『ぷろでゅうさぁ』さんがいそがしそうにしていたので、『でんごん』をかわりに」
     一応千秋のホールハンズにも連絡を入れていたようだが、寝ていた為にきちんと伝わるか不安そうにしていたのだ。しかし他にも仕事が溜まっているという彼女に代わって、千秋のところへと奏汰が伝えに来たのだった。それを説明すれば、千秋は申し訳なさそうに頭をかいた。
    「そうか。あいつにも迷惑をかけてしまったな」
    「『めいわく』というか『しんぱい』ですよね。さいきんはいつもこんなちょうしだって、あのこも『しんぱい』していましたよ」
    「うむ。一応体調には気をつけているんだがな。今が売り出し時だし、多少の無理は仕方が無いだろう」
     寧ろまだまだ参入したばかりの新人にこれだけ仕事が貰えるのはありがたいことだ。そう千秋は言って体を伸ばす。そして枕元に置いてあったスマートフォンを手に取ると、次のスケジュールを確認し始めた。
    「この仕事がキャンセルになったなら、夜まで時間があるな。お前は、時間はあるのか?」
    「はい。きょうは『ふりぃ』です」
    「そうか。なら、久しぶりに少し話さないか」
    「ぼくはいいですけど。『たいちょう』はだいじょうぶなんですか?」
    「なに。少し睡眠不足だっただけだ。寝てすっきりしているから、問題ないぞ」
     ぐるんと肩を回してみせる彼は、確かに調子が悪い様子はない。千秋と久しぶりにゆっくり話したかったのも本心だったので、頷くと千秋は嬉しそうに笑った。
    「ふふ。卒業してからはこうして二人きりというのは中々なかったからな。嬉しいぞ」
    「そうですね。ぼくもぼくでいそがしかったですし」
    「そうだ。それを聞きたかったんだが、もう大丈夫なのか?」
     千秋が聞いてきているのは奏汰のおうちのことだ。彼は最初に交わした「おうちのことには関わらない」という約束を未だ律儀に守り続けている。それでもやはり気になるものは気になるようで、心配そうにこちらを見ている。
    「だいじょうぶですよ。とりあえずはおちついたので、こっちの『おしごと』もできそうです」
    「そうか。それは良かったな」
     どこか安堵したように千秋は息を吐いた。千秋にとっては自分が手を出せない領域で起こっている出来事であるからこそ心配なのだろう。
     もう教団は解散してしまったし、まだ残っている信者の人たちもゆっくりとではあるが現代に合わせた形に適応し始めている。だからもう千秋に「関わるな」などと言わなくても良いのだろうが、自分の良くない内面を見せてしまう気がして出来なかった。
     どうにも気まずくなってしまい、部屋に沈黙が広がる。今まではどうやって会話をしていたのか、それすらも思い出せなくくらいには彼の隣を離れていたらしい。
    「ふふ、あはは。なんだかおかしいな。相手がお前なのに、どうにも緊張しているらしい」
    「それはぼくも『おなじ』です。ひさしぶりだから、なにをはなそうかまよってしまいますね」
    「お前も同じか。いつの間にか、距離が離れてしまったんだなぁ」
     学院にいた頃は一緒にいなくともわかり合えていた気がした。けれど今は、彼が何を考えているのかがよくわからない。そんな距離感になってしまったのだろうと奏汰は千秋の言葉に頷く。なんだか寂しいと思ったが、これからのことを考えるとその方がいいのかも知れない。
     そんなことを考えていると、千秋がこちらの右手を同じく右手で掴んできた。
    「ちあき?なにを」
    「距離が離れてしまったのなら、また近づけばいいだろう。お前は俺の相棒なんだから、これからも一緒に歩いて行きたい」
     だから握手をしよう、なんて強引に右手を引いてぶんぶんと振り回す。その勢いに奏汰は目をしろくろさせてしまったが、でも確かに彼の言うとおりだった。
     彼との距離が離れていたとして、そこで諦める必要はないのだ。そう思えば心なしか気持ちが楽になって、千秋の右手を握り返した。
    「そうですね。どこまでもついていきますよ。うみのみずがひからびるまで」
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