政略結婚ー1
降谷は大きく深呼吸をしてから会議室のドアをノックした。
「降谷です」
「入れ」
「失礼します」
新しい何かを始めることを『扉を開く』と表現するが、今の降谷はまさに人生の新たな局面に挑もうとしていた。
会議室の中には六人の幹部が降谷を待ち構えている。窓から差し込む西日がきついせいで、彼らの姿は黒いシルエットにしか見えないが、そこに座っている人物の名前と役職を降谷はすでに把握していた。
『新しい辞令が出される。今回も大きな案件を任せることになるだろう』
事前に直属の上司からそう聞かされていた。降谷の後ろに組んだ手は手汗でじんわりと湿り気を帯びている。
「降谷……君の功績を我々は非常に評価している」
「ありがとうございます」
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