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    masu_en

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    masu_en

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    2020年書き納め大晦日のクレビでCP要素なしのつもり
    今年はたくさん見てくださりありがとうございました

    ##クレビ

    幸福の閾値





     ファンに会いたくてもライブがやりたくても、のっぴきならない事情ってのはある。つまんねェなというのが正直な思いではあるけれど、この仕事をしていれば暇な大晦日なんてかえって珍しい。どんな波も乗りこなしてこその勝負師だ、そうだろう? だから俺はこのイベントを誰よりも楽しんでやろうと、パーティグッズを山程買い込んでウーバーイーツを時間指定でオーダーして、ホールハンズのチャットを立ち上げてたぷたぷ文字を打ち込む。
    『各位
    平素よりたいへんお世話になっております。
    師走の候、友達の少ないおまえらにおかれましては暇を持て余しておられることと拝察致します。
    つきましてはこの良き日にささやかながら忘年会を開催したく、今夜18時、ニキの家にご集合くださいますようお願い申し上げます。よろしく
    天城燐音』
     送信してすぐに『やかましい。了解』と返事を寄越したのはこはくちゃんだった。暇人め。なお自分のことを棚に上げるのは俺の特技である。ニキからの着信は無視。どうせ「も〜燐音くん勝手に決めないでほしいっす! しゃぶしゃぶでいいっすか?!」とかだろう。メルメルからの返信はないが既読は3。あいつも当たり前のような顔をして、律儀に手土産なんか提げて来るはずだ。
     ニキ以外の誰かがいる大晦日。これまでは液晶画面越しに別世界のように煌めくSSの舞台を眺めるだけだった。けれど今立っている場所は、あの輝かしい大舞台とも地続きだ。確信はないけどきっとそう。だって今楽しい。もう何も諦めずとも良いように、手放さずとも良いように、ガムシャラになってみたって良い。
     ゴーン、ゴーン。どこぞの寺が打ち鳴らす除夜の鐘が遠くの方から響いてくる。今年は昼のうちに鳴らすってニュースで言ってたっけ。
     大荷物を抱えてニキ宅への道を歩く。雲ひとつない冬晴れが俺を見下ろしていた。

    「ニキちゃ〜ん、足当たってるっしょ、くっせェ足がよォ〜。ソーシャルディスタンス」
    「痛っ、ハア!? 僕の足が臭いわけないでしょ! アイドルっすよ!?」
    「どうせ燐音はんが蹴ったんやろ。言い掛かりじゃ、言い掛かり。チンピラかおどれは」
    「あァ悪ィな足が長くて。こはくちゃんじゃ届かねェか♪」
    「……」
     ごく一般的なサイズの炬燵に男3人で入ればそりゃあ足くらい当たる。狭い狭いと文句を垂れながら皆であったまる、すげェ普通のことだけど、それがひどく幸福なことに思える。幸せの閾値は低けりゃ低いほど良いものだ。そんで俺はな、ニキ、言葉のあやかもしれねェが、おまえが自分を“アイドルだ”と主張してくれたのも嬉しいンだよなァ。
    「遅くなりました――何をしているのですか?」
    「足四の字固め」
    「炬燵の中で?」
    「おどれはわしを怒らせた」
    「燐音くんが悪いっす、知らないっすよ僕は」
     俺が技を極められて泡を吹いている間にメルメルが到着した。手に持っている四角い箱は4人分のデザートだろう。やれやれ顔で一番後ろをゆっくり歩いてくる癖に、最終的にはちゃんと追い付いてくれるこいつの、こういうところが好ましい。
     ようやく全員集合して、部屋の中は更に狭くなったし気温も上がったような気がする。こんなに賑やかに年を越すのは初めてかもしれない。
    「ああ……はは。なァニキ、楽しいなァ」
    「ええ!? 締められながら何言ってるんすか、マゾ!?」
    「――天城の言いたいこと、HiMERUにはなんとなく、解りますよ」
    「うん、フフ、ありがとなァおめェら……あー、楽しかったァ……」
    「何言うとるん、これから死ぬ人間の台詞やぞそれ」
    「ん〜、いや死なねェよ、ダイジョーブ」
     心が満たされるってこういうことを言うのだろうか。怪訝な顔をして見せるこはくちゃんの表情にも、楽しげな色が滲んでいてほっとする。良かったなァ、おまえだってはしゃぎたいよな、一彩より歳下なんだもんな。目尻に浮かんだ涙は四の字固めを喰らったせいだ。
     テレビから流れる事前収録の音楽番組が室内を賑やかす。『Crazy:B』を含むESアイドル総出で創った一夜限りの宴だ。今年は叶わなかったけれど、来年はファンと、この歪な糸で繋がった仲間と声を重ねてカウントダウンをしたい。やっぱりライブは対面が良い。「いい顔してンな」って言い合いたい。
     胸が一杯になるとなんとなく気が緩む。口も緩む。本音がぽとりと零れる。テレビの中ではいよいよカウントダウンが始まる。日付が変わるまで、あと1分。
    「あ〜あ、来年もおまえらと、揃って年越してェな」
     間。
    「……ンだよ何か言いやがれよ、恥ずかしいじゃねェか」
     沈黙に耐えかねて発した言葉は尻すぼみになった。3人がにまにましながら俺を見ていたせいで。
    「……うん。そうだね燐音くん、みんないるっすよ。来年の話も、再来年の話も、いっぱいしようね」
    「……おう」
    「その先の話も、わしらがアイドルでいる未来のこと、たっくさん話そな」
    「当たり前っしょ」
    「――しんみりするにはまだ早いのです、我々の野望は何です? 天城」
     真っ直ぐな瞳だ。3対の、未来を見据える瞳。俺はすうと息を吸って、いつもの不遜なリーダーの顔を貼り付けた。
    「おうよ。世界中に俺らの巣をつくる。まだまだこっからだぜ、『Crazy:B』よ」
     ついて来られるか? なんて聞きはしない。そんな問は無意味だとわかっている。聞かなくとも答えはひとつだと、知っている。

     未来の話をしよう。孤独な暗闇から一番星に手を伸ばす夜はもう終いだ。
     未来の話をしよう。自分が何者かなんて自分で決めりゃ良い。
     未来の話をしよう。冷たい画面越しじゃない生身の温もりがすぐ傍にある。
     未来の話をしよう。誰に迷惑をかけたって生きてて良いんだって、俺たちが証明してやる。

     安心しろおまえら、俺たちの道行きは明るいぜ。言えば返ってくる笑顔がめちゃめちゃ頼もしくて、やっぱりちょっと泣いてしまった。

    「……今年も、よろしくな」


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    masu_en

    MOURNING2022年3月発行『キヲスクアーカイブ2』のBOOST御礼ペーパーだったものです。これもHiMERU(兄)の名を要だと思って書いています。『スカウト!白虎舞』の燐音×『スカウト!ロマンチック?デイト』のHiMERUの謎パロ。すこし大人向けの表現があります。
    BOOSTしてくださった方、改めましてありがとうございました。
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    「──不法入国者というのはあなたですか」
    「ええまァあんたらが話聞いてくんねェからそういうことになってますけどォ」
     大理石の床に跪かされた俺は、首だけを動かして階段の上の玉座──またそこに超然と座す男──を見上げた。
     彼のためだけに誂られた豪奢な衣装には色とりどりの宝石が散りばめられており、細かな刺繍が施された深紅のサッシュに至っては派手すぎて目がチカチカしてくるほど。しかし何よりも俺の目を奪うのは、煌びやかな装飾に包まれてもなお内側から発光するかのように存在感を放つ、彼自身の持つ美しさだった。
     唇を舐める。左右から押さえつけてくる屈強な兵士たちが睨みを利かせている。ろくに身動きが取れない。
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