天涯(アンソロ没) この先に果てなどないとわかったとして、それでもなお、人は歩み続けるのだろうか。
「もしもォし。ンだよ蛇ちゃん? ンあ、メルメル? が、どうかし……あ?」
落ち着いて聞いてください、という前置きに続いて茨の口から語られた内容は、にわかには受け入れ難いものだった。
──〝HiMERUが何者かに刃物で刺され、救急搬送された〟。
指定された大学病院の待合室でプロデューサーと合流した燐音は、まだ信じられない心地で白い廊下を進んだ。表に名前の書かれていない個室の前で、彼女は立ち止まった。これから別の現場へ向かわねばならぬのだと言う。ESのアイドルがこんなことになってしまって、ショックを受けていないはずがないのに。燐音の目にはこの年下の少女の気丈さが時折痛々しく映る。
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