熱源いつもの部屋。いつもの寝巻き。
そしていつもの通り、隣には神琳。
きっと他の人から見れば、私たちはずっと変わらず、良きルームメイトなのだろう。実際、よく言われる。仲がいいねって。
「雨嘉さん?」
「神琳……」
名前を呼ばれて、声の方向へ顔を向けると、神琳がこちらを見つめている。
「ぼんやりしていらしたから。体調でも悪いのですか?」
「ううん。そうじゃないの……ちょっと、考えてただけ」
気遣わしげな表情に微笑んで応える。嘘ではないのが伝わったのか、その表情は幾分か和らいだ。
「ならよろしいのですが……」
「大丈夫。ありがとう…神琳」
ベッドに腰掛けたままの私を見つめて立っている彼女は、黙ってその綺麗な目をほんの少しだけ揺らす。
それから、口を開いた。
「隣に行ってもよろしくて?」
「…ぅ、ん」
ほんのちょっとだけ、声が掠れた。緊張しているのが伝わったかもしれない。元々察しのいい人だから、多分もう伝わってる。
ふっと人の近づく気配がして、神琳の匂いがして、それから、私の右の太ももに寝巻き越しに神琳の体温を感じた。
「何を考えてらしたの?」
「大したことじゃないよ……」
上手く回らない頭で、またやっちゃったと後悔する。もうちょっと言い方があったのに、可愛げがないと思われてしまう。
それに、考えていたことだって、他ならない神琳についてなのに。大したことじゃない、なんてどうして口走ってしまったんだろう。
大きな窓から少しだけ差す、夜の明るさを見つめる。電気を消した部屋よりも明るくて、おかげで神琳の顔がすぐ近くに見えた。
「それなら、もう考えなくてもいいですわよね?」
「しぇ、神琳……あの」
ちかい、よ。
なんて言えなかった。
太ももどうしが触れていたはずなのに、いつの間にか膝の辺りが触れ合ってる。
薄い皮膚越しに膝頭の硬い骨が触れて、神琳が身体を寄せるからちょっとだけ痛い。
私を見つめる赤と黄色は、見たことがないくらい苦しそう。
その赤と黄色が近づいてきて、あ、と思う間も無く反射で目を閉じた。
同時に一文字になった私の唇に、柔らかくて温かいものが触れる。しっとりしていて果物みたいだけど、神琳の匂いがした。
どれくらいかは分からないけど、唇に触れたそれが離れていって、恐る恐る目を開く。至近距離、視界いっぱいに赤と黄色が広がっていたから、夢じゃないんだと心臓が急に騒ぎ始めた。
「しぇんりん…」
うわごとみたいに名前を呼んだ私に、同じように神琳は名前を呼び返す。
雨嘉さん。私よりもはっきりした口調だけど、それでもいつもより熱っぽくて、ちょっと掠れた囁き声で。
思わずぎゅうと眉間に皺が寄ったのが分かった。身体が驚くくらいに熱くて、茹ってしまう。
だけど神琳の目も、熱くて、苦しそうで。
「神琳…その」
はしたないかな。ちょっとだけ不安になって、言い淀む。
そんな私の様子を見て、赤と黄色がゆったりと弧を描いた。察しのいい神琳は、私の言いたいことが分かったらしい。
「……えぇ」
するりと頬を撫でていった神琳の髪。
…あつい。