ゴールデンスランバー 躊躇いがちな鋏の音が静まり返った室内に響く。
重厚な扉の向こうでは、一日の始まりに向け人々が活動を始めている。その微かな気配を背中に感じながらトーは不慣れな作業に没頭していた。
秋も深まったこの時期には珍しい鮮やかな黄色が、倉庫から探し出してきた白い花瓶に映える。しかし、豪奢な装飾が至る所に施されたこの部屋にはどうにも不釣り合いな気がして、トーは小さく唸った。
どちからといえばごく庶民的な品種であるにも関わらず、バラの咲き乱れる城の庭園で育てられ、王の執務室に飾られたその花はどこか萎縮しているようにも見える。
(なんだか、親近感を覚えますね……)
商家に生まれ商人として無難な人生を歩んでいた筈が、どういう巡り合せか鎧を纏い騎士として主君に仕えている――そんな、分不相応といっても過言ではない自分の境遇と重なる。
5798