[ミマモ]背伸びして町を眺めたかった エル・エルルは悩んでいた。
自分の城を囲む壁にある監視塔の一つから、城下町の様子を眺めようとしていたのだが、今の彼の背丈ではなかなか見づらい。
自分の望みで魔女となることを選んだことは後悔していない。
しかしこれはこれでなかなかやりづらいところもあった。
何度かぴょんぴょんと跳ねてみたりする。
すると、まだ復興途上なところもあるのに、なんだか魔女になる前より大きく見えた城下町が見える。
オトナに成長すると子供の時に慣れしたんだ町や公園が小さく見えてしまう……なんて言われたりするが、これは自分の身体の大きさによるものなのだろうか。それともオトナと子供の精神的な違いによるものなのだろうか。
「……エルエルル、どうなさいましたか」
「……」
そんなことを考えつつ、もう一度見ようと跳ねていた中、メイド服を着た長身な女性が登ってきていた。
「こほん、エミシア、いつからそこにいた?」
「あらあら、私はただここの清掃を命令されたので来ただけですわ」
「あ、ああ、ご苦労」
箒を持っていたエミシアは、勝ち誇ったような、満たされたような表情で言った。
「以前と違って町を簡単に眺めず残念そうにしているその顔……ああ、なんて絶望的な顔ですこと」
「……」
このエミシアという女性は、「絶望」の魔女の眷属であり、絶望的な感情を養分としていた。
今エル・エルルがここから景色を見ようとしていた際に抱いていた感情すら、どのくらいものかは分からないが養分になり得る。
「別に僕は残念そうにはしていない。城や国の中で移動するときは瞬間移動ばかりしているが、運動してないと足が鈍るからな」
エル・エルルはそう言って、いつものように瞬間移動をしてその場から王座へと戻ろうとしたが。
しかしニコニコとしていたエミシアを見ると、さっき言及したばかりのことと矛盾して行うのもバツが悪いと思い、子供にしては段差の大きな階段を降りていった。
階段を降りてから同行していた護衛用ゴーレムにささやいた。
「おい、エミシアがここを清掃するって情報を聞いていたのか?」
『あ、ええと、記録されてました』
「なぜそれを言わない」
『失礼しました。気になさらないかと思いまして』
「いや、こっちこそごめん……別に気になるようなことでもない」
エル・エルルは頭を抱えながら言った。
「……よし、強いガラスを今度仕入れようか」
『と、おっしゃいますと?』
「工事を頼んで、あそこに砂嵐にも耐えられるガラスを嵌めて、子供でも見れる展望台を作ろう。ガラス越しになるけど僕だって、高いところから城下町の様子を眺めたいからな!」
『わ、分かりました』
瞬間移動でもして尖塔の屋根の上で、かっこよく腕を組みながら眺めてもいいんじゃないかとは思っていたし事実何度かしたこともある。
しかし夜間ならともかく、騎士どころか国民も多くが外にいる昼間となると、彼らに目撃されて心配されるなら、まだエミシアの養分になる方がいいのでは、とエル・エルルは思ったのだった。